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おおきなのりもの

東村山駅の前で予想した通り、筑波のJAXAに着いたのは、予約していた入場開始時間の10分後だった。見学の時間は1回30分なので、10分も遅刻すると、ほとんど何もできない。でも、それは大きな問題ではなかった。JAXAには、ロケットを見に来ただけだから。
大きな乗り物に惹かれるようになったのは、広島県呉市の鉄のくじら館の前にドカーンと展示してあった潜水艦のせいなのは、間違いない。でも、ロケットが見たい理由は、もう一つあった。九州にツーリングに行ったとき、何も考えずに鹿児島の内之浦のJAXAに行ったら、着くのが早すぎて、入場できずにロケットが見られなかった。内之浦のJAXAは、着くのが早すぎて入場できなかったけど、筑波のJAXAは、着くのが遅すぎて、もう少しで入場できなくなるところだった。JAXAの門は狭い。
ロケットは、入ってすぐのところに飾ってあった。かっこよかった。大きいことはいいことだ。ロケットの周りを歩きながら、じっくりと見学した。そのあとで、少し離れたところから、ロケットの全景が入るように写真を撮った。少し離れたところに建っているJAXAのビルが、ロケットの背景にぴったりとはまった。JAXAのビルが、健全なSFに出てくる宇宙基地に見えた。このロケットの展示場所が、JAXAのビルの位置を考慮して決められたのは、間違いなかった。
滞在時間は短かったけれど、隅から隅までじっくりとロケットを眺めて、記念品もいろいろと買えたので、JAXAには大変満足しました。
ただ、潜水艦を見たときのような、グッとくる感じが、期待していたほどではなかった。このロケット、もしかしたら、本物なんじゃなくて、実寸大の模型なんじゃないだろうか、と思ってしまうくらい、迫力に欠けていた。不思議に思いながら、ロケットの周りをうろうろして、あることに気が付いた。
「これは、乗り物じゃない」
JAXAのロケットは、荷物を運ぶためのものであって、人を乗せるものではない。潜水艦とロケットの間の大きな差は、そこにあるような気がした。ロケットを見るまではそのことに気が付かなかったけど、ロケットを見たら気が付いた、ということは、人が乗って操縦する物には、独特の何かがあるのかもしれない。本物のロケットに対して失礼だけれど、動きもしない、はりぼての人形のお台場ガンダムの方が、正直なところ、グッときた。たとえ動かなくても、人が乗る、と想定されているだけで、何か違うのだろうか。
 
JAXAのあとで、牛久大仏を見に行った。
牛久大仏は、何もないところにドーンと立っていた。何もないところに立っているのは、大きさを際立たせるためじゃないか、と思うくらい、周りに何もなかった。台座を入れて120mという、とにかく巨大な牛久大仏は、巨大なわりに作りが繊細で、よくできていた。じっと見ていると、今にも動き出しそうな気がした。
動き出しそう、というのは、作りが繊細で、まるで生きているようだ、という意味じゃなかった。なんとなく、巨大ロボとして、操縦できそうな気がした。理由は全然わからない。全体のバランスが良くて、可動しても成立しそうだったからか、表面の金属質な感じのせいなのか、首のところが少しなめらかではなくてプラモデルの関節みたいに見えたからか。それとも、単純に、人の形をしているからか。とにかく、然るべき起動シーケンスののち、表情は全く変えずに、台座から、ズン、と一歩踏み出しそうに見えた。
さっき、人が乗る前提の大きな物体は、独特の何かがあるのかもしれない、という仮説を立てた。確かに、牛久大仏は、中が観覧できるようになっているので、内部に人が入れる。でも、それは、人が乗る設計、とは言わないと思う。

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