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あっちのあれと、こっちのこれ

筑波山神社には、あの有名な「さざれ石」がある。
筑波山神社にも、というべきか。私は、九州の霧島神宮で、さざれ石を見たことがある。
全体的に意味不明な君が代の歌詞の中に出てくる謎の石。その現物が、霧島神宮にあると知ったときは、さざれ石が、想像上の、伝説の石じゃなく、って、本当にあることに驚いた。
それが、筑波山神社にもあるという。さざれ石は、めったに見られない貴重なものだと思っていた。なのに、霧島神宮以外のところにもあるなんて。なんか、思ってたのと違う。さざれ石って、わりと普通の石なのか。
とにかく、あっちのさざれ石を見たら、こっちのさざれ石も見ないわけにはいかない。
筑波山神社のさざれ石は、霧島神宮のさざれ石より小さかった。印象は、霧島神宮で見たのと同じで、なんだか、パッとしなかった。小さい石が固まって大きな塊になっている様子が、砂利を固めたコンクリみたいに見えるのは、どこで見ても同じだった。
あっちのさざれ石を見て、なんだかパッとしない、という感想だったのに、わざわざこっちのさざれ石を見に来て、やっぱりパッとしない、と改めて言われるのも、さざれ石からすると、大きなお世話だ。じゃあ、いちいち見にくんなよ、と言うだろう。俺がさざれ石だったら、言う。
でも、最近学んだんです。サザレイシノイワオトナリテ、という歌詞は、さざれ石のように小石が寄り集まったものが大きな岩になるまで、という壮大な時の流れを表現しているそうです。だから、さざれ石は、この見た目で、パッとしてなくていいんです。これからの子なんです。
 
筑波には、出雲大社があって、大しめ縄が飾られている。
筑波にも、というべきか。私は、島根の出雲大社で、大しめ縄を見たことがある。
出雲大社って、そんな、何個もあるものなのか。出雲大社といえば、八百万の神が集結する、神社の中の神社、唯一無二の絶対王者だと思っていた。何個もあるってのは、なんか違う気がする。境内の看板によると、筑波の出雲大社は、平成になってから、島根の出雲大社のご分霊をご鎮座した、とのことだった。平成にできた神社、と聞くと、まだ新品みたいな気になる。新しい、といっても、築30年くらいなんだけど、神社で30年は新品同然だろう。なんせ本家は、あの、神社 of the神社、出雲大社だ。
とにかく、あっちの大しめ縄を見たら、こっちの大しめ縄も見ないわけにはいかない。
大しめ縄は、筑波のものも立派だった。重量の圧がすごかった。間近で見ると、無意識に、少し背をかがめてしまった。
そして、大しめ縄に小銭を投げつけて、突き刺さると運がいい、という罰当たりな話を真に受けて、無礼極まりないバカなことをやるバカがいるのも同じだった。それは、一緒じゃなくてもいいのに。
 
奥久慈には、地獄橋、と呼ばれる沈下橋がいくつかある。
奥久慈にも、というべきか。私は、四万十川で、沈下橋を渡ったことがある。
四万十川の沈下橋は、全国的に有名で、地図に観光地として載っているものが、いくつもある。奥久慈の地獄橋は、同じ沈下橋でも、全然有名じゃない。今の時代に、インターネットで調べても、どこにあるのかよくわからない。それくらい、ひっそりとした存在だ。
でも、おそらくは、沈下橋ってそんなもんだ。四万十川に行った時も、どれほどありがたい珍しい橋なのか、と思っていたら、地元の人が、軽トラックで普通に通っていた。
そして、どんな分野にも、情報を提供してくれる、親切なマニアの方はいらっしゃるものです。インターネットを丹念に探して、いくつかの情報を組み合わせると、何とか場所が特定できた。おかげで私のようなアマチュアでも、地獄橋を見ることができます。
袋田の滝のすぐ近くにある沈下橋は、久野瀬橋という。R118から、この先が行き止まりだったら大変なことになる、という細い道を入っていった先に、橋があった。幅の広い久慈川の上に、木製の、欄干のない橋が架かっていた。
この橋を見るために、わざわざこんなところまで来るのは俺くらいのもんだろう、と思っていたら、先客がいた。その人が、先週の大雨で、この橋は見事に沈下して、2日前まで通行止めだった、と教えてくれた。
橋の上流側には、橋が沈下した時に、川の漂流物が、橋の上を通り越すように、川の下流側に向かって、上向きに傾斜のついた丸太のようなガードが何本も設置されていた。四万十川の沈下橋には、そういうのはなかった。四万十川の沈下橋は、沈下した後は、川の流れに逆らわず、壊れそうになったら流されてしまう設計なので、ガードがいらないのだろうか。だとすると、奥久慈の地獄橋は、流れない設計なのかもしれない。木製なので、流れる設計にすると、どこまでも流れていってしまいそうだし。
橋を見学しているうちに、先客のおじさんが、帰っていった。おじさんは、軽自動車で来ていた。軽自動車でも、橋の幅には余裕がなかった。おそらく、車だと、運転席から見えるのは、川だけだろう。しかも、橋は木製だ。スリルがあるのは、四万十川より、奥久慈だ。

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