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A地点からB地点まで、行くあいだに

朝、起きると、晴れていた。
一時間ほど走って、赤城神社の駐車場に着いた。大沼の向こうに、きれいな紅葉が見えた。ここから先は、赤城道路を北上して、R120をしばらく走る予定だった。
R120は、走るのが気持ちよかった。
赤城神社の駐車場から見る紅葉の景色はきれいだったけど、赤城道路を走りながら、紅葉の景色を見る方が、ずっと気持ちよかった。もし、紅葉の景色が見えなかったとしても、赤城神社で紅葉の景色を見るより、ここをバイクで走る方が楽しい、と思えるような道だった。手段と目的が入れ替わる、というのは、良くない意味で使われるけど、ツーリングは、手段が目的で、正しい。
 
赤城神社から50kmほど走って、丸沼に着いた。
丸沼に着いたのは8時ちょうどで、バイクの温度計は5度だった。地図から標高を読み取る方法を知らないので、よくわからないけど、標高が高いのかもしれなかった。大きな丸沼を取り囲む林は、紅葉が始まっていた。奥行きのある景色がきれいだった。
駐車場から、丸沼に向かって歩いた。丸沼の中に、フライフィッシングの人たちが立ちこんでいるのが見えた。フライフィッシングを見るのは、初めてだった。竿を振りながら、ラインを繰り出していく様子は、優雅だった。ルアーが着水するときに音がしないのも、優雅だった。静かな丸沼によく似あっていて、風景の一部のようだった。見た目は優雅でも、気温が5度ということを考えると、腰まで水に浸かっているのは、普通じゃなかった。気温が5度なのに、腰まで水の中に入って釣りをする人の気持ちは、釣りをしない人にはわからないだろう。私は、バスフィッシングをやっていたことがあるので、あの人たちの気持ちはわかった。でも、狂っている、とも思った。口元が緩んだ。10分ほど眺めていたけれど、魚が釣れるところは見られなかった。
 
金精道路から、中禅寺湖に向かう時の景色が、このルートのクライマックスだった。紅葉の山を見下ろしながら、湯ノ湖の向こうに男体山を眺めて走った。思わず声が出るくらいの、見事な景色だった。山を下りて、中禅寺湖の脇を走り、中禅寺湖スカイラインを上がった。今度は、中禅寺湖越しに、男体山を眺めることになった。中禅寺湖スカイラインの展望台からは、中禅寺湖と男体山を一度に見渡せた。ふもとの中禅寺湖と、男体山の大きさが絶妙で、よくできた庭の景色を見ているようだった。男体山は、周りに他の山がない三角形の山なので、余計に庭園に造られた山のように見えた。
中禅寺湖スカイラインは、終点の駐車場からも、紅葉の山を見下ろすきれいな景色が見られた。標高が高くて寒かった。そこから見える景色のおかげで、寒さは気にならなかった。
きれいな景色をたくさん見たので、写真もたくさん撮った。撮った写真をスマホで見ると、どれも、目の前の景色と同じには見えないくらい、小さくて、色がくすんでいた。あまりに目の前の景色と違うので、初めてスマホのフィルター機能を使ってみた。いくつか試してみたけれど、どのフィルターをかけても、目の前の景色から、さらに離れていくように見えたので、あきらめた。

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