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焦っても仕方がないのはわかっている

中禅寺湖の前は、渋滞していた。
一週間のツーリングも終盤に差し掛かっていた。疲れがたまっているせいか、ここに来るまでの観光地での休憩が、予定より少し長くなった。それが積み重なって、今の時間は、予定よりも少し遅れていた。この渋滞で、さらに遅れそうだった。予定では、この後、大谷資料館に行くことになっていた。大谷資料館の最終入館時間は、16:30だった。中禅寺湖の周りが少しぐらい渋滞していても、たぶん間に合う、と思うけれど、絶対に間に合う、というほどの余裕はない。それくらいの遅れだった。
中禅寺湖の前を通り過ぎて、いろは坂に入っても、渋滞は続いていた。思ったよりも、渋滞が長かった。確かに思ったよりは渋滞が長いけれど、きっと、いろは坂を通り過ぎて、R122と合流すれば、渋滞もいくらかマシになるはずだ。焦っても仕方がない、と、自分に言い聞かせた。
でも、R122に入っても、状況はそんなに変わらなかった。この先、もう少し進んだところで、右折して県道277に逸れるルートを組んでいた。地図で見る限り、県道277へ入る道には、標識や信号はなさそうだった。もし、県道277に入る道を間違えたら、大谷資料館は、たぶん間に合う、から、きっと間に合うはず、に変わりそうだった。ヘルメットの中で、大きく息をついた。
そのとき、ちょうど、自動販売機がある駐車スペースに差し掛かった。バイクを止めた。焦っても仕方がない。ここで休憩を取る判断をした自分をほめた。5分や10分遅れたところで大差ない、と言おうとして、最終入館時間に間に合うかどうかは、そこが重要だ、と気が付いた。自動販売機で、微糖の缶コーヒーを買った。スマホを取り出して、カーナビの画面を確認した。右折する、と思っていた県道277は、左折でR122から外れて、すぐにもう一回左折する形だった。やっぱり、ここで休憩した自分は、間違ってなかった。普段は飲むことのない微糖の缶コーヒーは、なかなか減らなかった。焦っても仕方がない。目の前をゆっくりと通り過ぎていく車の列を眺めて、一口ずつ缶コーヒーを飲んだ。
県道277は、乗用車が一台通るのがやっと、というくらいの幅の道で、ボルティには快適な道だった。他の車は、見かけなかった。ペースを上げ過ぎないように、気をつけて走った。快適に走っているつもりでも、頭の片隅に、大谷資料館の最終閉館時間が残っていた。カーブに差し掛かった時に、ブレーキを強くかけていることに気が付いた。深呼吸して、肩の力を抜いた。それを、何回か繰り返した。
県道277から149へと続き道は、ずっと細くて、ずっと走りやすかった。途中で、3台ほど、前の車に追いついた。みんな、すぐに道を譲ってくれた。そのころには、あまりブレーキをかけなくても、カーブが曲がれるようになっていた。そのことに気が付くと同時に、大谷資料館が頭の片隅をよぎったけれど、よぎったまま、どこかに行ってしまった。

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