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サザンオールスターズ

妻が教えてくれたのは、鎌倉の大仏だけじゃなかった。湘南の海岸で、江ノ島を見ながら、サザンオールスターズを聴くと、とてもいい、というのも教えてくれた。そういうのは、私には、絶対に思いつけない。
実は、桑田佳祐の声をインカムで聞くのが、少し苦手だ。スピーカーの位置が耳に近いせいか、オジサンに耳元でささやかれているような感じがして、ちょっと脂っこい。でも、それは、きっと、聞く場所を間違えていたせいだ。サザンオールスターズは、湘南で聞かないといけない。
R134を走り、湘南の海岸に出た。向こうの方に江ノ島が小さく見えた。インカムの再生ボタンを押した。
それでは、サザンオールスターズの登場です。パチパチパチ。
おー、なるほど。妻が言いたかったのはこういうことか。確かに、ぴったりだ。ぴったり過ぎて、いい意味で、普通だった。今、私が聞いているのは、インカムの音じゃなくて、スーパーの店内で流れている音楽のように、この辺り一帯に大きなスピーカーで流れている音楽なんじゃないか、と思うくらい、普通だった。音楽を聴きながらバイクに乗ると、邪魔なときも多いので、普段は、高速道路以外では音楽は聴かない。湘南で聞くサザンオールスターズは、全然邪魔だと思わなかった。
そのまま、湘南海岸公園まで走った。駐車場にバイクを止めて、海を眺めた。向こうに江ノ島が見えた。今日は火曜日で、今は昼過ぎなのに、湘南の波打ち際には、サーファーがたくさんいた。湘南を湘南たらしめ、私のような観光客をがっかりさせないように、付近の方々が当番制で海に入っているんじゃないか、と思うくらい、たくさんいた。サーファーの方々は、サーフボードに乗って、波間に揺られていた。なかなか波には乗らなかった。
私のところから江ノ島の方を見ると、ちょうどその中間に、サーファーが一人いた。その人だけ、他のサーファーからは、少し離れたところにいた。江ノ島を見ながら、そのサーファーを見学した。ほどなく、サーファーが、沖に向かってパドリングした。そして、一瞬で向きを反転させて、見事に波に乗った。素直に感心した。見事だったので、もう一度、その人が波に乗るところが見たくなった。湘南の海と、サーファーと、その向こうの江ノ島を眺めた。サザンオールスターズが聞こえないのが、物足りなかった。ヘルメットをかぶっていないと、インカムがないので、音楽が聴けなかった。
大きそうに見える波が何回か来ても、そのサーファーは、沖を見たまま、じっと動かなかった。こっちも、じっと待っていたかった。そのうち、雨がパラパラと降り出した。出発することにした。
今回のツーリングはこれで終わりだった。ここを出たら、茅ケ崎ICから高速に乗る予定だった。レインウェアを着て、湘南海岸公園を出発した。すぐに、雨が止んだ。
R134で西に向かった。茅ケ崎ICへ向かう右折レーンに入った。前にスクーターが一台止まっていた。お兄さんは、半キャップにサングラスで、短パンで、ビーサンだった。こっちは、フルフェイスで、レインウェアで、ツーリング用の長靴だった。
ここは湘南。間違っているのは、私だ。

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