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離島ツーリング

久米島は、小さな島なので、主な観光地を全部回って、島を一周しても、走行距離は50kmくらいしかなかった。距離は短いけれど、とても楽しいツーリングだった。
 
フェリーを下りて、まずは、北に向かった。サトウキビ畑の間を通って、海沿いの道に出た。海沿いの道の左側に、岩場と、遠浅の海が見えた。右側には、小高い丘が、向こうの方まで続いていた。海面とほとんど同じ高さの平らな道が、海岸に沿って、緩やかに曲がっていた。その道が、先の方まで続いていた。屋根も窓もない、バイクという乗り物だと、限りなく広がる景色が実感できた。
ミーフガーは、そんな爽快な海沿いの道の先にあった。右側に見えていた丘が、海に向かって、終わるところが、ミーフガーだった。丘が海につながるところの大きな岩に、穴が開いていた。穴は、細長くて、岩がひび割れたみたいだった。穴の向こうに、海が見えた。ミーフガーに向かって歩いた。すぐ近くまで行けた。近くで見ると、ひび割れに見えた穴は、大きかった。離れてみるのとは、全然違う迫力があった。久米島に上陸して30分で、豪快な景色に、もう、お腹がいっぱいになりそうだった。
 
ミーフガーを出発すると、道は、海沿いを離れた。サトウキビ畑の中の、まっすぐな道を走って、坂を上ると、比屋定バンダの展望台に着いた。展望台の下には、海岸線が、左右に、大きく広がっていた。右の方には、崖があって、その向こうの海の中に、白い砂浜だけの、小さな島が見えた。はての浜だ。はての浜を取り囲むように、白い波が見えた。はての浜の周りは、サンゴ礁になっているらしかった。明日には、あの白い砂浜の上にいるはずだけど、うまく想像できなかった。
 
比屋定バンダを出て、さらに高いところに上がったところに、宇江城跡があった。小さな山の頂上にたどり着くと、草原があって、その奥に、ほとんど崩れてしまった石造りの建物があった。その石垣は、沖縄で見たどの城跡よりも、小さくて、崩れていたけれど、それが良かった。石垣が、周りの風景に馴染んで、自然と一体化していた。その景色は、あまりにきれいで、ファンタジーRPGの体力が全回復するポイントのCGのようだった。
石垣の上から、久米島を見渡した。どっちを向いても、海が見えた。島だから、周りを海に囲まれているのは、当たり前だ。でも、海が見える景色の、反対側にも海が見える、という景色を見たのは、初めてだったので、不思議な感じがした。
 
宇江城跡から、南に向かった。途中で、青い海に向かって、まっすぐに伸びる道を通った。きれいな景色に、息をのんだ。沖縄本島には、ニライカナイ橋という観光スポットがあって、そこも、同じように、海に向かって伸びる道になっていた。ニライカナイ橋は、マップルに大きく載っているけれど、久米島のこの道は、マップルには載っていなかった。でも、個人的には、こっちの道の方が、ニライカナイ橋よりも、きれいだと思った。
私は、事前にいろいろと調べて、計画もしっかり立てるようなツーリングをしているので、こんなふうに、思いがけず素晴らしい景色に出会うことは少ない。久米島は、小さな島なのに、サプライズまで用意されていた。
 
さらに南へ走って、島の南東の、奥武島の畳石に着いた。畳石は、平らな岩で、表面に入ったひび割れが、幾何学的な多角形の模様になっていた。その、十五畳くらいの大きさの、亀の甲羅のような不思議な岩が、砂浜に、こじんまりと、置いてあった。自然にそこにできたはずなのに、置いてあるみたいに見えた。
そんな畳石のある砂浜は、広くて、静かで、誰もいなかった。少し日が傾きかけた今くらいの時間、休憩するのに、ちょうど良かった。砂浜の手前の石段に腰を下ろした。海の向こうに、対岸が見えた。そっちにも、砂浜があった。どれかわからないけれど、きっと、今日泊まるホテルが、そこに見えているはずだった。そこから、さらに左側には、山が見えた。そっちには、これから向かう、鳥の口がある。そこには、これから向かうんだけど、しかし、この砂浜は、居心地がいい。日が傾きかけているので、そろそろ行った方がいいんだけど、それにしても、この砂浜は、居心地がいい。
そうやってグズグズしていると、自転車が一台やってきた。自転車に乗っていたのは、若い男の人だった。男の人は、砂浜の、離れたところに、腰を下ろした。こういうのは順番がある。そろそろ出発する時間だ。あの男の人は、地元の人だろうか。天気の良い日は、毎日、自転車でここにやってきて、景色を眺めて、休憩するのだろうか。うらやましい。

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