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コインランドリータイムアタック

今日は、ツーリングが終わってから、大学の時の友達と飲みに行く約束があった。そして、ホテルに着いたとき、約束の時間まで、30分しかなかった。
30分もあれば、部屋に荷物を置いて、シャワーで汗を流して着替えるくらいはできる。いつもなら、何も問題はない。ところが、今日はツーリング3日目だった。私がツーリングに持っていく下着は、3日分だ。今日、洗濯しないと、明日、着る下着がない。冷感シャツと、冷感タイツと、パンツと靴下。ふだんなら、同じ下着を2日着るくらいどうということはないけれど、7月末のツーリングでは、そういうわけにもいかない。それはそれとして、明日も5時に起きて、6時に出発するので、夕食の後は速やかに就寝したい。そのためには、食事に行く前に、洗濯物を乾燥機に入れておいて、帰ってきたら畳むだけにしておく必要がある。つまり、出かける前に、洗濯を終わらせないといけないということだ。洗濯には、30分かかる。そして、今は、約束の時間の30分前。今すぐ洗濯機を回さないと、間に合わない。ホテルの人がチェックインの手続きをしている間に、日常から脱出するためのロングツーリングの最中に考えるには日常感に満ち溢れた思考を巡らせてた私は、チェックインの後、部屋には向かわず、そのままコインランドリーのところへと向かった。日常からの脱出とはいえ、脱出したら、脱出したなりの、日常があり、暮らしがある。
コインランドリーは、ホテルの裏口を出た向かいの建物の廊下の突き当りにあった。用事がなければ誰も通らない薄暗い廊下の先の部屋には、乾燥機付きの洗濯機が2台あった。洗濯機の前のイスに、おじさんが一人座って、スマホを見ていた。おじさんは、大げさな服を着て、大きな荷物とヘルメットを抱えて入ってきたおじさんをちらっと見て、すぐにスマホに目を戻した。洗濯機のうちの一台は稼働中で、残り時間は2分だった。もう一台は、空いていた。荷物の中から、2日分の下着を取り出した。3日目の下着は、今、着ている。この部屋に来るまでは、洗うつもりはなかった。用事がなければ誰も通らないような薄暗い廊下の奥の部屋には、おじさんが一人だけで、他には誰も来そうになかった。洗ってしまうことにした。
急に服を脱ぎ始めたら、おじさんが不快に思うかも、と、少し気になった。とはいえ、大きな荷物を抱えてやってきて、荷物の中から洗濯物を取り出している時点で、行動は十分に不審だ。今更、服を着替えたところでどうということはないだろう。こういうところでは、お互い、相手がいないものとして振舞うのが、旅先の日常というものだ。
荷物の中から、Tシャツを取り出した。ジャケットと、冷感インナーシャツを脱いで、Tシャツを着た。椅子に座ったおじさんの方は、見なかった。荷物から、短パンを取り出して、バイク用のメッシュパンツと、冷感インナータイツを脱いだところで、後ろから声が聞こえた。
「パンツも洗う?」
そういうと、おじさんは椅子から立ちあがって、部屋のドアを閉めてくれた。
すみません。ありがとうございます。でも、このパンツを脱ぐと、代わりに履くパンツがないので、これは、食事から帰ってきたら、部屋で手洗いします。

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