見出し画像

芋煮の作法

山形と言えば、芋煮ですね。今日の夕食の店は、マップルに載っていた居酒屋に決めてあった。スマホで場所を確認したときに、今日は土曜日、ということに気がついた。ツーリングの初日の新潟で、店が満席だったことを思い出した。あれから、一週間が経った。
店に電話した。新潟と同じで、満席だった。経験を活かして、店に着いてから慌てなくて済んだ。でも、行く店がないことには、変わりがなかった。店に着いてから慌てる代わりに、ホテルの部屋で慌てた。スマホで、駅前の居酒屋を探した。3軒目の店で、席を予約できた。
店は、ホテルから歩いて5分ほどのところにあった。カウンターに通された。メニューをめくった。なぜか、頭がうまく働かなくて、何を頼めばいいのか、わからなかった。芋煮が入っているコースがあったので、それを注文した。
この夕食が、今回のツーリングの、最後の夕食だった。もちろん、日本酒を飲まないといけない。メニューに、味比べ三種セットというのがあったので、注文した。メニューには、味比べをする三種類の日本酒の銘柄が書いていなかった。カウンターの向こうの板前さんに、銘柄を聞いた。ツーレポに書くために、メモ帳を取り出した。板前さんは、熱心に説明してくれた。三種類の銘柄は、十四代朝日鷹、楯の川大吟醸、出羽桜稲露、の三種類。十四代は、とても有名で、高級で、東京の高級な店が買い占めてしまうので、地元の山形でもなかなか飲めないお酒。朝日鷹は、地元の山形用の銘柄で、こっちは、山形じゃないと飲めないお酒。わざわざ銘柄を聞いて、メモを取るような客なので、日本酒に詳しい客、と思われたみたいだった。十四代、と言ったときの板前さんのドヤ感は、相当なものだった。できれば、感心してあげたかった。しかし、誠に遺憾ながら、当方、十四代のことは存じ上げておりませんでして。名前を聞いても、普通にスルーしてしまった。スッカスカな、こっちの反応を見たときの、板前さんのガッカリ感は、相当なものだった。
「え、知らないの?十四代。」
と再確認されてしまった。え、の後半は、声が、裏返っていた。申し訳ない、と思いつつ、笑いそうになった。すみません。知らないのです。メモは、ツーレポを書くためでして、日本酒のことは、全般的に、あんまり。
今回のツーリングでは、ほとんど毎日、日本酒を飲んだ。どの店にも、その地にゆかりのある銘柄の日本酒が置いてあった。さすが東北、と感心した。日本酒にも、いろんな味があって、どれもおいしかった。
日本酒には、いろんな種類があることを知り、おいしい日本酒をたくさん飲んだから、これを機会に日本酒に詳しくなりたい、となったかというと、そんなことはなかった。何事においても、詳しくなると、無知だったころに満足できていたことに満足できなくなりそうで、それはそれで、もったいない。もちろん、勉強するのがめんどくさい、を別の言い方に変えて、自分をごまかしている、というのが、実際のところだ。でも、いつも、何を飲んでもおいしい、は悪いことではないので、私は、このまま、自分をごまかして生きていきます。今日も、三種類の日本酒を飲み比べて、こっちもおいしいけど、こっちもおいしい、でも、どれがどんな味だったかは覚えていない、と言って、そのまま生きてます。幸せです。
日本酒もいいけれど、山形と言えば、芋煮です。初めて食べた。見た目は、里芋で作ったつゆだくの肉じゃが、もしくは、牛肉で作った醤油仕立ての豚汁、みたいだった。食べてみると、肉じゃがのような甘さがあって、ダシが効いていて、うまかった。何も考えずにコース料理を頼んだことを、後悔した。食べ飽きた感のある刺身を食べるくらいなら、芋煮を3杯くらいお代わりして、飽きるまで食べたほうがよかった。具を全部食べて、おつゆを少し飲んで、器を置いておいたら、おさげしていいですか、と店員さんに聞かれた。いいですよ、と答えた。器の中を見た店員さんに、おつゆは飲まないんですか、と聞かれた。じゃあ飲みます、と答えた。肉じゃがと同じ作法で、おつゆは飲まない、と思っていた。芋煮の作法では、おつゆは飲むみたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?