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待ってろ、北海道

毎年、有休を5日連続で取って一週間のロングツーリングに行く、というジャパニーズサラリーマンにあるまじき所業を重ねて6年目。今年は、北海道に行く。これは、2年前から決まっていた。2年前のロングツーリングが終わったとき、もう、行っていないところは、沖縄と、北海道しか、残っていなかった。ロングツーリングと言えば、北海道だ。フィナーレは、北海道だろう。だから、去年は沖縄に行った。そして、今年は、北海道。ついに、北海道。ついに、47都道府県制覇。6年前、四国に一週間のソロツーリングに行ったときは、こんな日が来るとは思っていなかった。
47都道府県制覇も、2年前から意識していた。そのことは、誰にも話していなかった。言葉にすると、ダメになりそうな気がした。こういうことは、最後の最後で達成できないから難しい。変なジンクスは作りたくなかったけど、誰にも言わなかった。幸い、自分から言い出さなければ、誰にも聞かれることはなかった。私が、いつ、どこにツーリングに行ったかなんて、誰も気にしていなかった。
ある日、今年はどこに行くの、と娘に聞かれた。北海道、と答えたら、後はどこが残っているの、と聞かれた。そのとき、初めて、家族にだけ、そのことを伝えた。誰にもしゃべっていない、という変なジンクスがなくなって、少し気が楽になった。しゃべった相手が家族だけ、というのは、いい形だった。47都道府県を巡る間、ずっと家族に支えてもらって、ここまで来た。最後も、支えてもらった。
というわけで、晴れて、47都道府県を北海道で締めくくるわけですが、全国制覇、ということは、言い換えると、日本一周、ともいえる。6年がかりの分割払いだけど、一周は、一周。ここは、北海道も、盛大に一周したかった。しかし、北海道は、大きい。昔々その昔、でっかいどーほっかいどー、って、誰かが言わされていた。往復のフェリーの時間も必要だ。ツーリングの期間は、一週間だと足らない気がした。
弊社は、なぜか知らないけど、毎年7月に4連休がある。今年は、この4連休に、不埒な5連休を合体させることにした。4連休は、木曜日から始まるので、ここに一週間くっつけて、11連休。どうせなら、あと3日、有休をくっつけて、月火水も休んじゃえば、土日がくっついて、16連休、と悪魔がささやいた。ああ、魅力的すぎる。
というような話を、妻にしたら、それはさすがにバチが当たるんじゃないか、と言われて、我に返った。バチが当たるのは、よくない。確かに、ツーリングでは、普通の人より、やや雨が降りがちな傾向がある。これは、もしかしたら、毎回、軽くバチが当たっているのかもしれない。5連休だから、この程度で済んでいるとしたら、その一線を越えると、何があるか分かったものではない。
それに、8連休は、目立ってしまう。目立つのは、よくない。毎年5連休を取り続ける間に、身に着けた術。それは、目立たないこと。ツーリングの話は、極力しない。周りの人には、普段から理解を求め、関係ない人には、知られないようにする。そっといなくなって、そっと復帰する。有休を5日続けて取ることは、会社のルール上間違ったことをしているわけではないので、隠す必要はないのだけれど、目立たないことに、メリットはあっても、デメリットはない。
だいたい、目立たないようにしたとしても、周りの理解がなければ、5連休は、なかなか取れない。5連休は、毎年取っているうちに、だんだん定着してきたし、周りも、こいつはこういう奴、と思ってくれるようになった。だが、8はどうだろう。調子に乗るなよ、となるかもしれない。信用は、築くのは大変だけど、失うのは一瞬だ。調子に乗ると、毎年の5連休まで失うことになりかねない。
どうやら、北海道で全国制覇、というので、舞い上がっていたらしい。では、いつも通りに、5、ということで。皆さん、毎年すみません。今年も、5、ということで。今年はいつもと時期がちょっと違いますけど、まあ、いつもと一緒ですから。いやいやいや、4連休にくっついてますけど、いつもと一緒ですから、ええ、ええ、一緒です、はい、それはもう。ありがとうございます。
でも、前日の水曜日は、在宅勤務にして、少し早めに仕事を終わる予定にした。4連休の前日は、みんな自分の予定のことで、頭がいっぱいに違いない。人のことなんか、誰も気にしていないから、これくらいなら目立たない。
水曜日の夕方に家を出れば、水曜日の深夜に敦賀を出港するフェリーに間に合う。そうすれば、木曜日の夜に苫小牧に着いて、金曜日の朝からツーリングができる。帰りは、土曜日の深夜に苫小牧を出港するフェリーに乗れば、日曜日の夜に敦賀に着く。家に着くのは、日曜日の深夜になるけれど、これなら、月曜日に出社できる。金曜日から、次の土曜日まで。9日間、確保できた。期間は、これが限界。さて、これで、北海道が一周できるか。
今回は、走行距離が長くなりそうだったので、バイクにがっつり乗る、というのを、ツーリングのテーマに掲げた。大きな都市には、近寄らない。いつもの通りに、マップルで、ツーリングの目的地を探そうとしたら、北海道のマップルは、札幌、小樽、函館、旭川、のことしか書いてなかった。これは、マップル側も、都市に近寄らないのなら、細かいことはいいから走り回れ、と言っている、と都合よく解釈した。
結果、ルートを作るのは、今までのツーリングよりも簡単だった。
スタートとゴールは、苫小牧。海沿いを走るので、左回り。となると、まずは道南。函館をかすめて、最南端を回ってから、西側を北上。ニセコのあたりで内側に入って、パノラマラインを走る。そこから、神威岬へ出て、積丹半島を回って、小樽と札幌は高速道路で迂回。そのあとは、西側の海沿いをひたすら北上、最北端で折り返して、東側を南下。最東端まで行ったら、折り返して、西へ。そのあと、釧路のあたりで、海沿いを離れて、内陸に向かう。摩周湖、三国峠を経由して南下。最近流行りの、青い池もきちんと踏んで、そのまま、えりも岬まで抜ける。そこからは、海沿いに戻って、西へ走り、苫小牧へ。
いつもなら、できるだけたくさん観光地を回るために、ぐずぐずとルートをこねくり回して、もうこれ以上はない、と納得するのに、一週間はかかる。今回は、最初に、ルートを引き終わったときに、できた、とわかった。これなら、北海道を一周した、と言える。観光地も、程よく盛り込まれている。あとは、距離だ。大きな北海道の上に、好き勝手なルートを引いてしまった。きっと、とんでもないことになっているに違いない。どれくらいはみ出すのか、心配しながら、苫小牧から、適当に、一日ごとに、区間を区切ってみた。ここで1日。ここで2日目。3、4、5、…、ここで8日目。残りは…。
入った。ぴったり。
いや、ぴったり、というには、少し無理しているところもあるけれど、どうにもならないほどでもない。北海道は、道がまっすぐで疲れにくいし、平均速度もいくらか高くなるだろうから、普段より距離が長くても、何とかなるはず。それに、今回のツーリングのテーマは、がっつりバイクに乗りまくる、だ。距離は、ちょっと長いくらいが、ちょうどいいじゃないか。今年で50歳になっちゃったけど、まだまだできるってところを、見せてやろうじゃないか。
何かに挑戦する。この感覚は、久しぶりだった。それは、そう、6年前に、オジサンの大冒険、と銘打って、四国に一週間のソロツーリングに行った、あの日以来のような気がした。無理をしないように、予定をしっかりと立てるところは、いつもと同じだった。でも、9日間で3000km以上のツーリングは、いつもより、日程も、距離も、少し長い。6年間の間に何となく身に付いた、毎年のロングツーリングはこんなもの、から、少しはみ出したツーリング。これは、久しぶりに、大冒険だ。
よーし、待ってろ北海道。北の大地が、俺を呼んでいるぜ。

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