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お店の人

名護のホテルに着くと、誰もいなかった。
入口のところにカウンターテーブルが置いてあって、そこに、ケータイの番号があった。着いたら電話をしてください、と書いてあった。
電話をしたら、後ろを向いてください、と言われた。
後ろを向いた。小さい扉がたくさんついた、白いロッカーがあった。ダイヤル式の鍵が付いている扉には、それぞれ番号が書いてあった。
自分の部屋番号を告げると、3桁の数字を教えてくれた。自分の部屋番号の扉のダイヤルを言われたとおりの番号に合わせると、扉が開いた。中に、部屋の鍵が入っていた。
名護のホテルには3泊した。
チェックアウトは、カウンターテーブルの上に置いてあるポストに鍵を入れて、終わりだった。ホテルの人と会うことは、一度もなかった。
楽天トラベルでホテルを予約すると、先にクレジットカードで精算できるので、鍵さえ受け取れれば、これでも、何の問題もなかった。宿泊中に何かあったら、と言っても、今までたくさんホテルに泊まったけど、ホテルの人がいないと解決できないトラブルにあったことは、一度もなかった。だから、たぶん、人がいなくても、めったに困らないし、今回も、困らなかった。
私は、一人になりたいから一人旅をしているので、旅先での出会いは期待していない。出会いの機会があっても、できれば遠慮したい。だから、この、ホテルの人と話をしなくて済む名護のホテルのシステムは、助かった。他のホテルも、どんどんこうなってほしいと思った。
となるはずが、そうでもなかった。人がいないのが、不安、というより、寂しかった。どうも、旅先では、自分で思っているよりも、お店の人には頼っていたらしかった。
一人旅は、全部自分で決められるのが、一番いいところだ。でも、自分で決める、ということは、自分で答えを探す、ということだ。初めての場所で、どっちに行くか、何をするか、全部に、自分なりの正解を、自分で見つけないといけない。そんな一日の終わりに、ホテルに着いたときくらいは、何を聞いても答えてくれる人がいてほしい。そういうことのようだ。甘えん坊の自分、再発見だ。一人旅に自分探しは期待していないのに、新しい自分を発見してしまった。自分を探すために旅に出る人が多い理由が、今、わかった。
そんな、甘えん坊のボクちゃんには、ちょっぴりドライすぎた名護の無人ホテルだけど、便利なこともあった。フロントに、人がいないと、ヘルメットをかぶったまま部屋まで行っても、誰にも何も言われなかった。ヘルメットは、脱ぐと、扱いにくい大きな荷物なので、これは便利だった。

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