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紅葉に包まれて

アスピーテラインに着いたのは、8時25分だった。ゲートの前に、車が10台くらい並んでいた。8時27分に、ゲートが開いた。
2年前のアスピーテラインは、昼過ぎに来たら、雨で霧だった。山の景色は朝に限る、という、御釜の左後ろの観光客の教えに従い、今年は朝一で来てみたけれど、やっぱり、雨で霧だった。アスピーテラインの山頂の道路わきの木には、葉がついていなかった。霧の向こうに、濡れて黒々とした枝だけの木が、かすんで見えた。山火事で焦げた林のようだった。前がかすんで見えない、モノトーンの景色の中を、注意して走りながら、天気の良いアスピーテラインを求めて、3回目の挑戦をするかどうか、ぼんやり考えた。進むにつれて、霧はさらに濃くなった。バイクに乗って先に進む目的は、観光から、安全かつ速やかにこのエリアから脱出するため、に変わった。穴の開いた長靴の応急処置はうまくいったみたいで、雨は浸みてこなかった。
山頂を抜けると、霧が晴れた。
アスピーテラインを西側に抜けて、R341で南に向かった。紅葉が見事だった。磐梯我妻スカイラインの紅葉も見事だったけど、山の上から紅葉を見下ろして走るのとは違って、ここでは、紅葉の林の中を走りぬけた。
紅葉の景色に包まれて走るのは、ひたすら、感動的だった。紅葉の林は、ずっと続いていて、次から次へと、惜しげもなく紅葉の景色が現れた。きれいすぎて感動疲れするから、そろそろ勘弁してくれ、と思うくらい、素晴らしい景色が続いた。過剰気味のサービスは、道路にも溢れていた。路面には、濡れた落ち葉が、ぎっしりと敷き詰められていた。こっちは、本当にちょっと勘弁してほしかった。でも、紅葉のじゅうたんのおかげで、紅葉のトンネルは、より色鮮やかになった。贅沢な話だ。紅葉のじゅうたんの上は、ゆっくり走れば、タイヤが滑る気はしなかった。この景色の中なら、ゆっくり走ることに、何の不満もなかった。
この時は、きれいな景色の中を走っていても、天気が悪くて残念だ、と思わなかった。雨で濡れた紅葉は、晴れているときよりも、色がくっきり見えるような気がした。葉につやがあって、輝いて見えるのも良かった。雨には雨の景色がある。こういう景色は、ロングツーリングに来て、雨の中を走るしかない、というときにしか見られない。
もちろん、これは、雨の中を走らなければいけなくなった人の負け惜しみだ。天気がいい方が良いのは、間違いない。雨の中を走る方が好きだ、と思われると(誰に思われるのかわからないけれど)、困るので(何が困るのかわからないけれど)、はっきり言っておく。ツーリングは、晴れている方が、良いです。どうか私に、晴れているアスピーテラインを見せてください。

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