哀愁の日高
今回、北海道ツーリングのルートを調べたときに、日高ケンタッキーファームがなくなっているのを知った。少し、ショックだった。30年前に、ケンタッキーファームで、皮のキーホルダーを買った。そのキーホルダーは、その日から、バイクのキーホルダーになって、今でも使っている。今回も、47都道府県制覇の良い記念品が買えるんじゃないかと、期待していた。
今回の北海道ツーリングで、6年がかりで、47都道府県を走ったことになる。いろんなところでお土産を見たけれど、ケンタッキーファームのキーホルダーみたいに、バイクに乗るときに常に使えるようなものには出会わなかった。ツーリングの時に、いつも持っていくようになったものは、背中に携えた烏摩勒伽様の龍神破魔矢くらいか。これも、確かにデザインに惹かれて買ったけど、キーホルダーとは、ちょっと違う。
日高ケンタッキーファームがなくなって、では、日高には何があるのか、と調べたら、何もなかった。襟裳岬を出ると、あとは、R336から、R235で、西に向かって走るだけだった。R235の先は、苫小牧だ。一筆書きの北海道ツーリングの出発点。9日間の北海道ツーリングの終点。
襟裳岬を出て、西に向かった。しばらく走って、この9日間と同じように、無意識に、この先の予定を、頭の中で復習した。そのとき、次の目的地がない、という実感が湧いてきた。数日前、オロロンラインを北に向かって走っていた時に、スピードを出したら、北海道が早く減る、と言った。全行程3100km以上もあった北海道が、今はもう、100kmも残っていなかった。前に進むと、北海道が終わってしまうけれど、進むのをやめても、それで何かが解決するわけじゃない。今までと同じように、アクセルを握って、今までと同じように、周りより少し遅いスピードで走った。西側に、海を見ながら、R235を走った。西の空に浮かぶ陽が、少しずつ、傾いていった。
R235が、日高自動車道の入口に差し掛かった時に、カーナビが、右折するように言った。無視して、そのまま、R235を走った。次の交差点でも、カーナビが、右折するように言った。その次の交差点でも。
わかってる。君には、いつも世話になりっぱなしだ。そういえば、北海道では、いつもより、言葉少なだったね。わかってる。日高自動車道は、無料だよね。そっちの方が早い。でも、今は、ゆっくり走っていたいんだ。悪いけど、少し、一人にさせてくれないか。
3回、右折を促したあと、彼女は、口をつぐんだ。そのあとは、この9日間と同じように、無口になった。さっきより傾いた陽の光が、左に見える海を照らしていた。
深夜11時30分。
フェリーは、定刻通りに、苫小牧を出発した。北海道の全ルートを走り終えた。ツーリングが終わるのは、敦賀のフェリーターミナルから家まで走った後だけど、まずは、北海道を無事に走り終えたことを、喜んでおこう。
これで、47都道府県を、全部走ったことになる。始まりは、6年前の、オジサンの大冒険だった。あの時は、こんなことになるとは思っていなかった。今でも、どういうことなのか、よくわかっていない。まあいい。とにかく、頑張った自分に、お疲れさまだ。
深夜11時30分発のフェリーの中では、さっきから、あっちでも、こっちでも、缶ビールを開ける音が、鳴り続けていた。みんな、いろいろ違うけど、みんな、お疲れさまだ。500ccの缶ビールを、手に取った。
お疲れさん!プシッ。
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