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きれいな景色は命がけ

会津若松から磐梯ゴールドラインに入ると、周りの木々が、だんだん紅葉してきた。交通量の少ない細めのワインディングを、のんびりと走った。風が吹いて、目の前を、落ち葉がひらひらと舞い降りた。映画の1シーンの中に入り込んだようだった。ゴールドラインは、普段から交通量が少ないのか、猿や鹿にも出会った。紅葉の木の下に鹿がたたずんでいる景色なんて、花札でしか見られない光景だと思っていた。
五色沼を抜けて、レークラインから磐梯我妻スカイラインへと走った。磐梯我妻スカイラインは、見事な紅葉だった。交通量も、かなり多かった。火曜日の昼過ぎで、この交通量ということは、狙っていなかったけど、紅葉のハイシーズンなのかもしれなかった。
磐梯我妻スカイラインのように立派なワインディングだと、低速でもたもたと移動する車が前にいて、その車内に、景色の方を向いているドライバーが見えたりすると、心の中で舌打ちをするような気分になるのが普通だけど、この時は、全く気にならなかった。紅葉の景色は、それは見事なものだった。そのきれいな景色の中を走り抜けてしまうのがもったいなくて、遅い車がいても、ゆっくり走る言い訳ができて、都合が良かった。違う。きっと、あの美しい風景が、荒れた僕の心を癒してくれたから、に違いない。ああ素晴らしき紅葉、素晴らしき日本の風景。
そんな磐梯我妻スカイラインを走っていて、難しかったのは、脇見運転をしないことだった。どうしても、目の端に映り込む色鮮やかな風景に、意識が引っ張られた。周りは、思う存分脇見運転をしている車だらけで、挙動不審な車しかいなかった。そういう車からは、こっちが気を付けて、逃げるしかない。ここでの脇見運転は、普通の脇見運転以上に危なかった。
正直に言うと、磐梯我妻スカイラインを走っているとき、今までのツーリングで、一番身の危険を感じた。こんなことは想像したくないけれど、もし、自分が、ツーリングで交通事故に遭うとしたら、ブラインドコーナーの先で、景色を見るために道路の真ん中に止まっている車に追突か、景色のきれいな道で、道路わきの駐車場から突然出てくる車に巻き込まれるか、どちらかになるのが、一番可能性が高いかもしれない、と思った。景色の良い道路は、どこよりも危ない。一つ、勉強になった。
ただし、そうやって、危険地帯を走っているつもりでいたら、実際にそういう車がいても(いたけど)、ある程度は予見して逃げられることも分かった。普段だったら、油断して無謀な運転をする車を見たら、しばらく後を引きずるくらいに腹が立つ。でも、そのつもりで構えていたら、それを予見してうまく回避できると、ゲームで敵機を撃破したみたいに気分がよくなって、腹が立たないから不思議だ。

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