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奇跡の絶景と、サラリーマン

マップルドライブ関西ベストの巻頭の、奇跡の絶景特集の中に、黒滝の大きな写真が載っていた。黒滝は、兵庫県三木市にある滝で、別名は、東播磨のナイアガラ。名前の通り、幅が30mもある。幅の広い滝は見た目が涼しげで、夏のツーリングとは相性がよさそうだった。
マップルの情報だけだと行き方がわからなかったので、ネットで、周辺の駐車場や、具体的なアクセスの方法などを調べた。黒滝を紹介する地元のホームページが見つかった。マップルドライブ関西の奇跡の絶景特集に大きな写真が載っていたわりに、あっさりとしたホームページだった。他に見つかったのは、近くに行ったついでに寄ってみました、という、個人のブログがいくつかだけだった。
ほんのりと、「死ぬまで物件」の気配を感じた。「死ぬまで物件」とは、「死ぬまでに見たい世界の絶景」という本の中で紹介されている観光地には、写真は絶景だけど、実物は残念、という物件が多いことから、紹介文と写真に期待して現地に行ってみると、同じ場所とは思えないような風景が広がっている、という観光地を表現する言葉である。自分で勝手に作った。でも、黒滝の情報源は、信頼のマップルだ。何年もお世話になっているけど、大きく裏切られたことはない、はず、だった、と思います、よ。たぶん。
 
黒滝のすぐ近くまで来ても、黒滝の存在を示す看板は、全く見当たらなかった。ナビの言うとおりに、右折した。何もない民家の脇道に入った。田んぼの中の細い道は、川に突き当たって、行き止まりになった。そこに、バイクを止めた。
川沿いに少し歩くと、そこには、マップルで見た写真と、だいたい同じの、幅の広い滝があった。やっぱり、マップルは信頼できた。黒滝は、「死ぬまで物件」ではなかった。でも、奇跡の絶景、といって、巻頭の特集で扱うほど素晴らしい景色か、となると、難しかった。
言うなれば、そーですねー、マップルドライブ関西ベストの担当の人の苦労を垣間見た、とでも申しましょうか。担当を割り振られたときの、関西でドライブでガイドブック一冊は厳しくないスか、とか、作っている最中の、関西なんか何もないのにドライブすんなよ、とか、そーいう心の声が聞こえたような気がした。良い結果につながらないことが明らかな仕事でも、それが仕事ならやるしかない、という、組織の中で働く苦労を、同じサラリーマンとして、勝手に感じ取ってしまった。俺、疲れてんのかな。
でもね、マップルドライブ関西ベストの担当の人よ、私が、この日見た黒滝は、ベストなコンディションではなかったのかもしれないよ。この日は、前日までの雨量のせいか、滝の水は濁った茶色で、水量もかなり多かった。そのせいで、ナイアガラ系の滝のセールスポイントの、幅の広い岩の壁が、全然見えなかったんだ。滝の水が茶色いせいで、清涼感もなかった。もっと普通のコンディションの日に来れば、きっと奇跡の絶景に違いないさ。

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