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房総つれづれ

君ヶ浜の方から犬吠埼に向かうと、海岸の向こうの岬の先端に、どっしりとした灯台が立っているのが見えた。
犬吠埼に着いたのは朝6時過ぎだった。今日は、天気が悪かった。鹿島からここまで、雨が降ったりやんだりした。犬吠埼に着いたときは、たまたま、雨がやんでいた。
犬吠埼は、岩に波が、ざばーん、とかぶって「東映」って出てくるオープニング、通称「荒磯に波」の撮影場所だというのをネットで見つけて、東映のオープニングみたいな写真が撮れる観光ポイントがあるんじゃないかと期待していた。灯台の周りを取り囲む遊歩道を歩いた。そういう写真が撮れそうな場所は、見つからなかった。遊歩道のずっと下の、岬の周りに、それっぽい岩がいくつもあるのが見えた。それっぽく波をかぶっているのも見えた。どれが「荒磯に波」の岩なのかは、わからなかった。
 
銚子アリーナの遊歩道から、屏風ヶ浦を眺めた。
海の向こうに、同じ高さの切り立った崖が、見渡す限りに続いていた。崖の上には、草原の緑が薄くかぶさっていた。手前の海岸で、サーフィンをしている人たちがいた。どこか、外国の風景のようにも見えた。屏風ヶ浦の上を通る道路には、ドーバーライン、という名前がついている。ドーバー海峡は、見たことがないけれど、この景色はドーバー海峡にそっくりだ、と言われたら、素直に納得しそうな景色だった。
銚子アリーナを出て、ドーバーラインを走った。ドーバーラインからは海はあまり見えなかった。でも、赤茶色の崖の上の草原の間をうねるように伸びる道を走ると、さっきまで見ていた屏風ヶ浦の上を走っていることが実感できた。見たことはないけど、ドーバー海峡沿いを走っている気分になった。
そんなドーバーラインの終点は、イオンモール銚子だった。交差点で止まると、向かい側に、大きなイオンモールが見えた。
 
ドーバーラインの後も、海沿いの道を走った。房総半島の海沿いの道路には、国道とか県道の番号以外に、いろんな名前がついている。屏風ヶ浦の上を通る道路はドーバーライン、その先は九十九里ビーチラインで、さらに進むと外房黒潮ライン、房総半島の先端では房総フラワーラインになって、房総半島の西側に来ると内房なぎさライン、となる。ルートを考えているとき、地図の海沿いの道にこういう名前がついているのを見て、その道を走る様子を想像した。そこから見えるはずの景色は、それは、爽やかなものだった。
実際に、走ってみると、まず、海は、あまり見えなかった。海沿いの道路、ではなくて、海に近い道路、だった。それから、景色も普通だった。町を抜けて、郊外を通り、次の町へ、と続いていた。簡単に言うと、名前がちょっとにぎやかな、普通の道路だった。そんなもんか。そんなもんだよな。にぎやかな名前がついているからといって、観光道路とは限らない。
その中で、九十九里浜沿いを走る有料道路からは、海がしっかりと見えた。砂浜沿いをまっすぐに走り抜ける、爽やかな道だった。この道路の名前は、九十九里有料道路だった。他の道路には、カラフルな名前を付いているのに、ここは、ずいぶんあっさりしていた。地元の人にとっては、ただの高速道路みたいなものなのだろうか。せっかく、いい景色が見えるのだから、もうちょっと頑張ってもいいような気がした。
砂浜を横目に見ながら、まっすぐな道を走ると、静岡の浜名バイパスを思い出した。浜名バイパスは、東日本大震災の後、海沿いに大きな堤防ができて、道路からは、海が見えなくなった。東北に行った時も、海沿いの道は、どこも堤防を建設中で、海が見えなかった。今となっては、海の近くを、砂浜を眺めて走れるのは、貴重なのかもしれない。

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