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自転車とバイクとスピード

六甲山を通る県道16号は林の中を走るワインディングで、山の上からの展望は、あまり見えなかった。日曜日の午前中の交通量は、そんなに多くなかった。
この道では、自転車をたくさん見かけた。みんな、体にぴったりとしたカラフルなウェアを着て、高級そうな自転車に乗っていた。あまり若くは見えない人たちがほとんどだった。みんな、終わりのない上り坂で、必死になって、自転車を漕いでいた。低いギヤを使っているせいか、ペダルの回転のわりに、全然進んでなかった。申し訳ないが、楽しそうには見えなかった。
ところで、自転車に乗る人は、どうして、全員、あんなに体にぴったりの服を着るのか。競技をする人が、ああいう服を着るのは、わかる。少しでも空気抵抗を減らしたい、ということだろう。でも、そんなにスピードが出るわけでもなく、スピードを出すことが目的でもない人が、空気抵抗を減らす必要はないはずだ。もっと楽な服を着ればいいのに。ぽっこりと出たお腹にぴったりと張り付くウェアを着たオジサンの姿は、あまり見たいものではないのに、たくさん見てしまった。
そんな県道16号は、昔からある道みたいで、道幅が狭かった。昔はそんなに窮屈でもなかったのかもしれないけれど、現代の無駄にでかくなった車が通ると、車二台がぎりぎりくらいの幅だった。そこに、一番低いギヤで、必死で上り坂を進む自転車が何台も連なっていると、車は、対向車がいないときしか、自転車を追い越せなかった。山の中のワインディングは、カーブが多くて、見通しも良くなかった。追い越せるタイミングは、少なかった。道路はみんなのものだから、自転車や車に文句があるわけではない。ここは、そういう交通事情だ、ということだ。
そこに、バイクが、ときどき混ざった。バイクは、どれも、勢いよく走っていて、音が大きかった。バックミラーを覗くと、後ろにビタッと張り付いていた。乗り方を見る限り、何やら不満がありそうに見えた。ここはこういう道なんだから仕方ないだろう、と言いたくなった。バックミラーの中が目障りなので道を譲った。一応、こちらに挨拶はしてくれた。でも、こちらを追い越す時の態度は、やっぱり、なんとなく、高圧的に見えた。私を追い越したバイクは、どれも、強引と言われても仕方がないようなタイミングで、私の前の車を追い越していった。
そうやって、しばらくは、不意にスピードを落とす車の列の後ろを走って、ヒイヒイ言いながら坂を上る自転車の列を追い越して、後ろに迫りくる大型バイクに道を譲った。そのうち、何をやっているのか、よくわからなくなった。ワインディングを走るのは楽しいはずなのに、全然楽しくなかった。
バックミラーを見た。後ろには、誰もいなかった。アクセルを閉じた。前の車が、遠ざかっていった。カーブを二つ曲がると、前の車が見えなくなった。そのまま、自転車と同じくらいのスピードで、ゆっくりと進んだ。道の上を覆う、葉の生い茂った木が、涼しげな影をアスファルトに落としていた。さっきまで騒がしかった六甲の山が、急に静かな山になった。三秒おきにバックミラーをチェックしないといけないのはせわしないけれど、前の車について走るより楽しかった。
県道16号の西の端に来たときに、Uターンするバイクが、道のわきに数台止まっているのを見かけた。こんなことは言いたくないけれど、バイクが通行禁止になるのには、それなりの理由があるような気がした。

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