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ヒップホップなんて絶対聴かないと思っていた時代が私にもありました。【Z世代が愛するカルチャーとして知るべき常識の話】

ラップってなんか大麻のことばっか歌ってるし、見た目も厳つくて怖いし、絶対好きにならないな。

そう思っていた時期が私にもありました。



今日は、若者に流行の兆しを見せているラップバトルのカルチャーの分析をします。

まずは、私の好きな人の話をさせてください。

私が人生ではじめて好きになったラッパーは、大麻の話はしません。タバコはめちゃくちゃ吸います。

体は大きくない、普通の成人男性みたいな人です。
青いフィルターがかったメガネを好んでかけていますが、垂れ目で優しい顔で笑います。

人間としてはとても適当であまり興味が無いのか、誰にでも公平に平等に優しいです。

複雑な家庭事情があり、お父様に育てられたあとに憧れのアーティストが出来、ラッパーになる道を選んだとご自身の曲で明言されています。

要はもはや彼のことはラッパーじゃなくても好きになってしまっていただろうな、という人です。

多分違う形で出会っていたら絶対私なんかのことを好きにならないタイプなので、心底アーティストとファンの関係でよかったなと思います。

さて、そんな彼に会いに人生で初めてラップバトルと呼ばれるイベントに行った時に、会場の7割くらいが未成年だった時にぶったまげました。

推定10代の若い子で、おそらく真面目に学校に行って、真面目に勉強しているような、良い子ばかりでした。

俗に言う素敵な良い子の未成年が、アンダーグラウンドの極みのようなラッパーを好きになる理由を不思議に思っていたのですが、最近その考察に答えが出たので与太話として書いておきます。


今の若者たちは生まれた頃からそばにインターネットがありました。
インターネットは2ちゃんねるやツイッターなど、多くのレスバトルや争い、あるいはLINEでの顔の見えない中での心理戦に溢れています。

対して、昭和〜平成にかけてはリアルコミュニケーションが主流で、かつ、今よりも日常生活に肉声の罵詈雑言が飛び交っていました。
それが良しとされていた時代でもありましたが、要するにヒップホップ的なやりとりが日常茶飯事だったわけです。

オンラインで繰り広げられる心理戦時代と、とくに望んでもいないのに罵詈雑言が飛び交う時代。

どんな時代も、今の流行りとは逆のマイノリティに大きな価値が生まれる瞬間があります。

つまりは、顔の見えない、ある種「人の熱が感じにくく、罵詈雑言が非日常に変わった」今は、お金を払って、顔と顔を突き合わせて言いたいことを相手の目の前で言い合い、ときに罵詈雑言を聴くことができるを今の子たちは渇望しているように感じます。

少し毛色は違うものの、加工だらけの世界であえてリアルな無加工のコミュニケーションを愛するBeRealが大流行したのもこの「今とは変化した価値観に価値が生まれる」時世が影響しています。

もう一つは、世の中の「エンターテイメントを楽しむために求められる教養のハードルが上がっている」ことも1つの原因として考えられます。

今の子たちが何かを「好き」と主張するときには、それなりの知識が求められるのです。

要するに、digればdigるほど情報が無償で山のように出てくる世界の中で、好きなんだったら当たり前にdigってるよねというある意味知識マウント前提の世界になっている、ということです。

その点、ラップバトルは少なくとも国内で見る分には日本語さえ理解できていれば一定に楽しめるし、盛り上がることができます。

日本でのエンタメとしてのカルチャー遍歴は短く、過去のバトルのdigなんかも有名どころはtiktokやYouTubeでかんたんに拾うことができます。

さらに、ラッパーの皆さんは楽曲という形で自身の生い立ちやストーリーを丁寧に解説してくれます。
これにより、少しでも興味を持った演者に対しても、数曲聴くだけで平等に理解を深めることができるのです。

さらに、ラップバトルなんかは音楽と言葉という人間が好きな2大要素を備えていて、かつ、真似がしやすいです。
たとえメロディーラインに沿って歌うことは苦手でも、リズムを取りながら言葉を発することは早口言葉が流行した時代からある「誰でもできうる遊び」だったわけです。


コアな理解があればあるほど深みがあり楽しいが、省エネの情報入手でもそれなりに人やコンテンツの専門家になれた気になり、そんな人を近い距離で応援できる。

自分でも簡単に再現できる(正しくは、再現できるように錯覚する)手軽な趣味であることが、世の若者がラップバトルにハマる要因です。



さて、ここまでは極めて理性的に要因分析をしましたが、実は私がこのカルチャーにハマった最大の理由は別のところにあります。

それは物販で直接アーティストを身近に感じられることです。

ラップバトルに出るようなラッパーは、基本的にイベントのタイミングで、手売りでグッズやCDを売ります。
購入すれば直接会話をして写真を撮ってくれる人も多いです。

オンラインに慣れている若者は、そのように直接好きな人に好きと伝えられる環境にもただならぬ価値を感じ、近い存在であると錯覚することができるのです。


一方でこのビジネスモデルは、事業拡大とは非常に相性が悪いです。

ラップバトルは今はカルチャーとしてのボリュームも発展途上ですが、エンタメとしてさらに大きくなっていく時に、このような「現代で存在するヒップホップの価値」が失われる懸念があります。

カルチャーコンテンツが大きくなってdigも膨大。
コロナ禍の終わりに伴ってリアルイベントが乱立し、物販でもロクに会話がままならない。

すべて、今の界隈で起こり得る事象です。


とはいえこの課題と向き合えればヒップホップカルチャーはまだまだ大きくなるように期待を感じてなりません。

もっとも、そもそも大きくしたいかどうかはカルチャーに多く携わる人間次第ですが。





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