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黒歴史のラノベエッセイ 縮まらない距離、放した手

 彼女と付き合いだした。うきうきとワクワクで、僕はこれから始まろうとしている恋人生活に胸を膨らませていた。でも、そう易々とうまくはいかなかった。彼女はいわゆるヤンキーや不良と呼ばれる人で、いつもその取り巻きの渦中にいるような子だった。それはまるで壁となるかのように僕に立ちふさがった。僕はそうした人たちとはあまり関わりを持ちたいとは思わなかったから、なおさら学校で話をすることは難しい。不良同士の付き合いもあるのだろう。下校の時間になるとその人たちと一緒に帰っていくことがほとんど

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黒歴史のラノベエッセイ 劣等感と告白(仮)

 僕が中学一年生のころ、ちょうどORANGE RANGEというバンドの『花』や『以心伝心』という曲が流行っていたころのお話。流行というもの意識しだして、髪型や服装など自分や周囲の容姿に敏感になる、そんなお年頃だ。いわゆるヤンキーや不良と呼ばれるような人たちがタバコに手を出し始めるのもこのころだろうか。クラスの中にある程度序列ができて、隣の机や同じ班の異性(または同性)が誰になるのか、席替えの度にウキウキわくわくしていた当時の自分を思い出す。  僕は男性で異性愛者だ。思春期真

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初対面と言語化。

 僕は人見知りはしないほうだ。でも、「初対面」の人と出逢うとき、いろいろと考えを巡らせてしまう。まず、僕の口元のアザのことについて。それから、精神障害への配慮について。「初対面」の人にはなるべくこの二つのことについて、話の流れを遮らないように話すことにしている。自分の「構え」を取り除くこともそうだけど、何より他者の「構え」を取り除くことに重きを置いている。  アザ持ちの人と出逢う機会はありそうで、実はあまりないと思う。少なくとも僕が大学生になるまで、そういった人たちが集う場

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階段。

 救急隊員「〇〇さんの息子さんですか?」  突然の母からの電話で、知らない人が話し出した。  救急隊員「救急隊員の△△です。」  僕「えっ、はい・・・。」  救急隊員「〇〇さんが階段で転び落ちたようで。今から急いで来れます           か?」  僕「はい!すぐ向かいます!」  状況が全く飲み込めないまま自宅を出た。当時、僕とは別々に暮らしていた母はパートナーと同棲していた。とにかく急いで向かわなければ。思考がまとまらないまま指定された場所へ着いた。救急車が

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消火器。

 「ピンポーン!ピンポ!ピンポ!ピンポ!ピンポーン!」  「ガチャガチャ!ドンドン!」  母の彼氏(以下、Aさん)に違いない。そう思った僕は居留守を決め込んだ。Aさんは今にも乗り込んで来そうな勢いで玄関のドアを叩いたり、インターホンを鳴らしたりしていた。肝心の母はというとそのKさんのことで誰かに相談しに行っていた。ただただ怖かった。  母「もしAさん来ても絶対家に入れないで!なんかあったら電話して!」  親にとって自分の子供はいくつになっても子供だとよく言われている。

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ふたり飯。

 僕は「ふたり飯」が好きだ。「ひとり飯」は人とのお喋りがなくて、食事が単なる作業になってしまって、あまり好きではない。ひとり飯、特に外食するときは決まって、行きつけのお店で店員さんとお喋りしながら食事をする。だからそういった意味で外食でお喋りのない、ひとり飯をすることは滅多にない。  はじめて外食でひとり飯をしたときの記憶はもう残っていないけど、はじめの頃は店内のお客さんや店員さんを敵だと感じていた。店内に入って、店員さんに席に案内されて、テーブルにひとりで座るまで、周囲か

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ただ、何者かになりたくて。その4

 何者なのか知りたい。僕は一体誰なのか。そんな素朴な疑問から社会学の扉を開いた。社会学は、個人的な問題を社会的な問題に置き換えて、個人間に連帯をもたらす学問だと思っている。自分事だと思っていた問題は、実はみんなの問題で、みんなの問題だからこそ、団結して、正面からぶつかることができるのだ。  その考え方、学問観に僕は心の底から叫びたくなるような衝撃を覚えたものだ。もちろん、すぐにそのことに気がついたわけでもなく、2013年から大学に在籍して、必死に勉強してようやくその考えに至っ

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ただ、何者かになりたくて。その3

 何者かになりたい。いつしか、それだけが僕の生きる原動力になっていった。あるとき、本屋さんでふと、自己啓発本を手に取った。何気なく手に取ったその著者の本は、僕にぽっかり開いた穴を塞いでくれるような気がした。ちょうど高校を卒業して、家に引きこもっていたときだ。  それからというもの、その著者の本を貪るように読み漁った。一冊読み終える度に、何者かに近づいている、そう思い込んだ。奇妙な万能感だけが僕を覆い、いつしかアザの存在が小さくなった。決してアザが消えたわけではないけど、僕の心

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ただ、何者かになりたくて。その2

 僕は何者かになりたかった。勉強ができるやつ、スポーツができるやつ、物知り博士、植物好きのやつ…etc。でも、何者にもなれなかった。僕を僕たらしめているのはアザだけだ。皮肉なものだ。あれだけアザを疎ましく思っていたのに、アザはいつの間にか僕をすっぽりと覆い隠し、僕に成り代わっていたのだ。人とは違う、その心が肥大化し、僕という存在を失わせた。  よく中学のクラスメイトに陰口を言われたものだ。あいつ何もないんだよね、と。僕はそれが心底悲しかった。何かなくちゃいけない、何もないやつ

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ただ、何者かになりたくて。その1

 アザ、ただアザが在る。今思えばただそれだけのことなのに、僕はそのアザに振り回され、心の奥深くまでアザに蝕まれていた。アザを中心に僕の世界は回っていた。周囲からのアザを嘲笑うかのような視線に、僕はいつもビクビクしていた。まるで得体の知れないものを見るような周りの反応に、僕は人とは違うんだと、物心つくころにはそう思い至り、悩み、葛藤した。  今ではユニークフェイスとか、見た目問題とか、容貌障害とか、僕自身を指し示す言葉はたくさんあって、それこそニュースに取り上げられたり、本が出

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