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ただ、何者かになりたくて。

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ただ、何者かになりたくて。その4

 何者なのか知りたい。僕は一体誰なのか。そんな素朴な疑問から社会学の扉を開いた。社会学は、個人的な問題を社会的な問題に置き換えて、個人間に連帯をもたらす学問だと思っている。自分事だと思っていた問題は、実はみんなの問題で、みんなの問題だからこそ、団結して、正面からぶつかることができるのだ。
 その考え方、学問観に僕は心の底から叫びたくなるような衝撃を覚えたものだ。もちろん、すぐにそのことに気がついた

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ただ、何者かになりたくて。その3

 何者かになりたい。いつしか、それだけが僕の生きる原動力になっていった。あるとき、本屋さんでふと、自己啓発本を手に取った。何気なく手に取ったその著者の本は、僕にぽっかり開いた穴を塞いでくれるような気がした。ちょうど高校を卒業して、家に引きこもっていたときだ。
 それからというもの、その著者の本を貪るように読み漁った。一冊読み終える度に、何者かに近づいている、そう思い込んだ。奇妙な万能感だけが僕を覆

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ただ、何者かになりたくて。その2

 僕は何者かになりたかった。勉強ができるやつ、スポーツができるやつ、物知り博士、植物好きのやつ…etc。でも、何者にもなれなかった。僕を僕たらしめているのはアザだけだ。皮肉なものだ。あれだけアザを疎ましく思っていたのに、アザはいつの間にか僕をすっぽりと覆い隠し、僕に成り代わっていたのだ。人とは違う、その心が肥大化し、僕という存在を失わせた。
 よく中学のクラスメイトに陰口を言われたものだ。あいつ何

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ただ、何者かになりたくて。その1

 アザ、ただアザが在る。今思えばただそれだけのことなのに、僕はそのアザに振り回され、心の奥深くまでアザに蝕まれていた。アザを中心に僕の世界は回っていた。周囲からのアザを嘲笑うかのような視線に、僕はいつもビクビクしていた。まるで得体の知れないものを見るような周りの反応に、僕は人とは違うんだと、物心つくころにはそう思い至り、悩み、葛藤した。
 今ではユニークフェイスとか、見た目問題とか、容貌障害とか、

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