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プロのMIXエンジニアを雇うことのメリット・デメリット

音楽制作で色々学んでいく中で、「MIX」ってみんな自分ですごくやりたくなるみたいで、「どうすればいいMIXができますか?」って聞かれるのはまぁまぁ日常茶飯事。できる限りは伝えれるけど、説明が深くなればなるほど自然と湧いてくる質問が「プロのミキサーを雇うことのメリットは?デメリットは?必要ある?自分でできちゃわない?」みたいなんです。

「MIXエンジニアです。」って言い始めてかれこれ15年(MIXに固まったのは10年前ぐらいかな…?)以上経つけど、ずっと減らない質問。

自分でやりたいけどなんか思ったよりもややこしいぞ?これはもしかしたらお金をかけてでも、「プロ」に依頼する価値はあるんでない?

ミキサーとして生計を立ててる僕としては、「雇った方が当然いい!」と言いたいところなんですが、そんなにシンプルでもないんですよね、この答えって。なんで、僕がこれについてどう思うか、そしてその理由と考えを共有します。


雇う利点とその理由


俯瞰・視野・フレッシュ

音楽制作の過程って、曲が先か、詞が先か、もしかしたらトラックが先かもしれないし、いろんな流れがあると思うんですよね。でも、その中で一つ共通してることは、制作の過程で、理想と現実の差が出てくること、それに対して、脳内で微調整しちゃってて、「聞いている音」が微妙に脳内変換されちゃっていること。スピーカーやヘッドホンから流れている音をそのまま聞くのって、意外と難しかったりするんですよね。それは制作時間が長くなればなるほど顕著になってきます。

まず最初のポイントとして、プロはバイアスなしのそのままの音で現在地を判断して、そこからよりよい音楽にするためにどういう方向に進んでいけばいいのかを明確にしてくれます。もちろん、アーティストがイメージしてる音を理解して、それを踏まえた上でレコードの全体像を俯瞰して、自分だけだとできない音作りだったりをしてくれるんですね。

経験上、アーティストやプロデューサーが何をイメージして、何を目指しているのか、どうすれば最も効果的な方法でそこに到達できるのかを見極めることに慣れているっていうのもあります。

もちろん、その判断が100%正解ではないんで、そこからアイデアを擦り合わせていく作業に入ります。よく聞く「人に任せる事への心配な点」で、自分の欲しい音・イメージを無視して、その人が思う「いい音」に勝手にされちゃう…っていうのもあるんですが、どの方向性で行くかの最終判断は自分でできるんで、「この音にしないとダメ!」みたいに言われる恐れはないです。すくなくともプロとして経験積んでる人たちは… hopefully…

真っ暗な中を闇雲に手探りですすんでいくのか、それとも色々経験してきてる人にいくつか選択肢を提供してもらうのか。ここでポイントなのが、正解を押し付けられるのではなく、あくまでも選択肢をもらって、そのなかから自分のビジョンにあったものを選んでいけるってことです。

さっき言ったフレッシュな視点っていうところにも関係してくるんですけど、やっぱり自分の曲・プロダクションは長い事作業していくので、「足す事」が多くなっちゃうんですね。いろんなプラグインを足して、どんどん音を変えていって。それって、別に悪いことではないんですが、たまにちょっと立ち止まって振り返ってみるのも悪くない。ただ、難しいんですよね、それって意外と。

何もしない選択

MIXERとして仕事を長く続けて経験を重ねるにつれて、だんだんと平気になって来たことがあります。無茶苦茶たくさんプラグイン刺してプロセスしまくっても、逆に何もしなくても、別に違和感を感じないんですよね。だいぶ矛盾した感じの状態かもなんですが、最終到達地点へむかうために「何をするのか」っていうところが重要になってくるので、「引き算」というか、何もしない、もしくは減らすっていう作業もたくさんミックスに組み込めるんです。

よくプロのMixerが、「セッションを受け取ったら、まず最初にすることは、プラグインの90%を外すことです。」って言うんですけど、一旦フラットの「元」の状態に戻して、そこからミックスをスタートするっていう作業ができるんですよね。まぁ、大量のプロセスが必要であれば、逆にプラグインなんかの数はあまり気にせずにバンバン使っちゃうことも問題ないです。あ、僕はプラグインとか抜かずにそこからスタートすることも多いですよ。

これは、プロに依頼することの大きい利点。
結局、自分でするのが何かしらの理由で難しい時に、それをしてくれる人を雇う。っていうのは王道だと思います。

セルフテスト…というか、判断基準の一つとしては、「YouTubeで誰かがボーカルにはこのプラグインを使うといいって言ってたから」とか「どっかの誰かがギターにはこのリバーブが合うって聞いたから」とか「ドラムはこういうテクニックがいいって誰かが言ってたから」っていう感じでミックスしてる人は、「誰か違う人」にミックスしてもらった方がいいんだろうなーって思います。


自分でミックスした方がいい時もある?


残り20%の追求

いつもミックスを始める前に、クライアントに「今のMIXで、気に入らないところは?ここをこうして欲しい!とかってある?」って大体聞くんですよね。で、みんながみんなこの質問に対しての答えを明確にもってるってわけではないけど、大体「これと、これと、あとあれができたらいいな〜!」みたいに、自分ではできないけど、ふわっとした音の理想像とかがあって、それを誰かにして欲しいなーっていう感覚はあるのかなって感じはします。

ここで重要なのは、その「これと、これと、あれ」っていうのが、自分の音楽にどれぐらいのレベルで必要なのかを判断するのかってコトだと思うんです。自分で80%まで完結できるんであれば、残りは20%。それをお金をかけてまで追求することに、どれだけ意味があるのか…ってことですね。

芸術点として、自分の理想の音を完璧なまでに追い求める!ということであれば、当然プロに頼むことは利点しかないです。でも、商業的なことも頭に入れないとならないこのご時世。もしプロにMIXを頼んで10万円かかるのであれば、そしてそれをある種の「投資」として考えるのであれば、リリースした音楽でそれを回収できるのかどうか。

ミュージシャンも含めての芸術家って、経済的な計算は度外視して自分のアート・表現を追求するってしがちですよね。そこは、もし人を雇うのであれば計算しなければならない…

メジャーレーベルなんかだと、当然音楽制作っていうのはビジネスで、曲は会社が売るための商品なので、その最後の20%にお金をかけることでリターンが増えるのであれば、当然ミックスのプロを雇うわけです。過去にヒット曲をMIXしたMIXERなんかは、ある種の「勝利の方程式」を嗅ぎ分けられたりするかもしれないから、そこにお金をかけるのは至極当然という。

2000年代の後半から現在まででいったら、Serban Gheneaとか、Manny Marroquinとか、Jaycen Joshuaとかにミックスを頼むのって、その辺の商業的な期待も多々あるんですね。

だた、インディーズのアーティストが自主制作でリリースするとしたら話が変わってきますよね。2020年代に入って、音楽制作の場でどこにお金や時間や労力をかけるのかって、今まで以上にシビアになってきてると思います。

MIXにお金をかけたからって、CDは売れないですよね。そもそもCD売れないし。じゃ、Spotifyとかで100万ストリーム行くのに、MIXがそれほど重要なのかどうか… Instagramのフォロワーは、20%を追い求めることで増える?などなどを考えると、難しいところですよね。

そこは、それぞれが考えて決めていくところなのかなーと思います。

じゃぁ、どこにお金を使うのかっていうのが次の悩みなんですが、ちょくちょく聞くのが、お金節約のためにできるだけ全部自分でやって、マスタリングだけプロにお願いします…ってやつ。そこだけは、「ん…?」って思っちゃいます。

いや、プロのマスタリングエンジニアはすごいですよ。本当に。耳も技術も機材も最高のものを揃えてて、最後の数%を確実に埋めてくれます。
僕も可能な限りマスタリングをお願いしてる、学生時代からの友達Emも、ザ・信頼感。


ただ、マスタリングにお金を払うのであれば、MIXにお金をかけることを考慮して欲しいかも…とは思っちゃいます。基本的には、制作が完成に近づけば近づくほど、できることって少なくなってくるんですよね。修正にしても、より良くするためのプロセスにしても。ミックスが良くないと、マスタリングでできることって限られてくる。もちろん、プロダクションが良くないと、ミックスでできることも限られてくる。曲自体がよくないと、プロダクションでできることも限られてくる…

意見が分かれるかもですが、この中でも、ミックスでできることとマスタリングでできることって、かなり差があるんですよね。だから、まぁまぁのミックスを超一流のマスタリングハウスに送って、トップチャートを駆け上がる超一流の音にしてもらえると思ったら、がっかりするんじゃないかなー。だとしたら、お金をどこに使うか… できたらより麓に近いところにするべきだなというのが僕の考えです。

正直、我々ミキシングエンジニアは比較的マスタリングにあんまり変化は求めてないです。

もしミックスが窓ガラスだとしたら、マスタリングエンジニアに窓ガラスの色を変えたり模様を入れてもらうってことは考えてません。ちょっとした曇りだったり汚れだったりをぴっかぴかに磨いてもらうイメージ。

Emみたいに、信頼できるマスタリングエンジニアを見つけられたら、比較的自由にしてもらって、ほぼ毎回満足します。でも、相性も含めて自分の音に合ったマスタリングエンジニアに出会うまでは、結構がっかりすることも…

ちょっと話がずれちゃいましたが、要は麓の近くからクオリティあげましょうよ、マスタリングの前にMIX。最後の最後で詰めの10%を完璧にしたいなら、マスタリングもプロに!って感じですかね。

逆にいうと、自分で90%まで持っていけてますか?っていうところですね。60%のミックスを、マスタリングで100%にしてもらうのは無理なんで、だったら60%をプロのミキサーに90%にしてもらった方がいいのでは?

と。


ミキサー選び

余裕がない中でも絞り出した予算でMIXをプロにお願いしたい!ってなった時に、誰に頼むのかっていうのは非常に重要になってくると思います。

クイズ。どれがいちばんいいでしょうか?

  1. 予算を超えてでも、上記したような超一流のMixerに依頼する。

  2. 予算内で雇える中で一番「有名」人に依頼する。

  3. 安さをもとめて、一番金額が低い人に依頼する。

  4. 知り合いとか、知り合いの知り合いの人に依頼する。

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どれを選びましたか?まぁ、どれが正しくて、どれが間違いかっていうのはないです。ただ、それぞれ利点・不利点があるので、それを理解した上で依頼するのがいいと思います。

答え合わせ

  1. ビルボードのトップ20にMIXした曲が複数ランクインしているようなMixerたちでも、実はあまりいい結果にならなかった…なんていう話も聞きます。それはなぜか。

    • まずは、雰囲気とか音の嗜好が自分の欲しいものとずれてた。結構名前で選んじゃって、がっかりした…ってのはあるあるかも。

    • あとは、送ったネタのクオリティがちゃんとある程度のレベルまで届いてなかった。当然、超一流たちは制作側の意図を汲んで、そこに沿った音作りをするのは慣れてるしすごく上手いんだけど、ある程度のレベルを超えるとどうしても希望に対しての質と商業的な目的がずれてきちゃうことも。

    • ただ、Charlie Puthみたいな音のアルバムにしたい!Rosaliaみたいな音がいい!って時にはMannyに依頼したらそういう音にしてくれるし、TaylorのMidnightの音、大好き!って時にはSerbanに依頼したらそういう音にしてくれるし。

    • あ、あと時間も結構限られてきます、人によっては。修正もそんなにすっとしてくれないことも。無茶苦茶人気者で忙しいですからね… 自分の嗜好を傍に置いといて判断すると、無茶苦茶「いい」音にしてくれるはず!好きかどうかがやっぱり問題。

  2. 「有名」ってところは議論の余地有りですが、まぁこれは一番選んだ人が多かったんじゃないでしょうか?でも、1️⃣の人たちとあんまり変わりはないかも。 どれぐらいスケジュールびっしりで忙しい人かにもよるとは思うけど。

    • 時間に比較的余裕がある人であれば、修正(Revision)なんかも迅速にしてくれるのでは。

    • 1️⃣と一緒で、方向性が合っていなければ、残念な結果になる可能性大。

    • 自分の送ったトラックのクオリティが一定の基準に届いてないと、それでできるベストは尽くしてくれるけど、そこまで。

    • ただ、耳や技術は一流だろうし、どういう音にしたいかっていうのもすぐ汲み取ってくれると思われます。このレベルだと、機材なんかも充実してるだろうし。

  3. これは、まぁダメっぽいですよね。安かろう悪かろう。大体値段が低いっていうことは、それなりの理由があるはず。

    • 単価を下げてるのは、各プロジェクトにかける時間を減らして数を増やしてたりする可能性がある=短時間でパパッとMIXされちゃうかも。

    • 修正なんかも、適当にして終わりって可能性も。

    • なにより、いい音楽を一緒に作ろう!っていう気力が感じられん!

  4. このオプション、もちろん知り合いが誰かによるけど… でもおすすめではあります。

    • あくまでも、プロである程度経験をつんでるMixerが知り合いにいるっていうのが前提。

    • 紹介者のこともあるし、比較的親身になってお仕事してくれるのではないでしょうか。

    • ただ、方向性が合ってなかった場合に、断りにくいですよね。友達の家で勧められたご飯は断りにくいのと一緒で。

    • その代わり、お金は節約できるから、レコーディングとかのプロダクションによりお金をかけられるかも。

Mixerを選ぶときの大事ポイント

ってことで、まぁどれもいいところも悪いところもあります。なので、それを全部踏まえた、Mixerを選ぶときの大事ポイントがこちら。

  1. 自分の曲の方向性にちゃんと合った人を選ぶ。太い音、丸い音、広い音、明るい音、などなど。違うジャンルでも、意外と面白い組み合わせになったりするから、「ジャンル」っていうよりも、自分の音・仕事の仕方があるかどうかの方が大事。

  2. 方向性ってところにも通じてきますが、自分の音楽を「好き」と感じてくれる人を選ぶ。

  3. 音楽が大好きで、いい音楽を常に聴きたい・作りたい!と思ってる人を選ぶ。上の2つと共通しますが、これも「いい音楽」の定義が自分と近い人が理想。

  4. 金額に対して色々相談に乗ってくれる人。もし金額がお互いの思ってる額と合わなかったとしても、何かしらの解決策を探そうと手伝ってくれる人(違う人を紹介してくれたり)。

  5. 過去の作品が、どこかしらでなにかしら聞けること:それが自分がかっこいいと思う、いい音だと思うものであれば最高!

  6. 必要であれば、プロダクションで向上できるところがあればそれを指摘してくれる人。「う〜ん、このアレンジだと、どんなMIXしても限界があるよな…」っていう時もあるので、そういう時に「まいっか。」っていうんじゃなくて、「ここのキック、差し替えてみたら?」とか、「このシンセ、ちょっと軽いから、もうちょっと中低域が強めのパッド重ねてみたら?」とか。ま、いいミキサーは、それぐらいならMIXで向上してくれると思いますが…

因みに、1のジャンルについてなんだけど、Jason Mrazっていうアーティストは、フォークのシンガーソングライターとして活動してたんだけど、レーベルの意向で、RnBとHipHop中心にMixをしてたTony Maseratiという人にMixしてもらったことにより、フォークにしては低音が重いRnBよりのPOPアーティストしてI'm Yoursっていう曲で大ブレーク。異ジャンルが混ざると、なかなか面白い答えが出ることも結構ありますよ、と。

繰り返しになりますが、自分のプロジェクトを「好き」になってくれて、一緒により良い音楽にしよう!と思ってくれる人を見つけられたら、それに越したことはないので、頑張って探してみてください。


聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥!

値段は?

音の好みと方向性が合う人を見つけたとしても、やっぱり値段が気になりますよね。でも、上にも書いたように、みんな比較的相談に乗ってくれます。昔に比べて、我々も色々フレキシブルにやってかないとならないし。メジャーレーベルとか、予算のあるインディレーベルにチャージする金額とは別に、小さいレーベルとかインデペンデントのアーティスト用のレートがあることも珍しくないです。

「この人、高そうだから無理だろうな…」って決めつけて、連絡する前に諦めちゃうのはもったいないので、メール1本送ってみましょう。予算的に差がありすぎたら、アシスタントが安くMIXしてくれたり、違うMIXERを紹介してくれたり。

さらには、「お前の音楽が好きだから、お金は後回しにして、一緒に音楽作ろう!」って言ってくれるかも!?!?

自分でするにしても、雇うにしても。

常に自分の理想の音をイメージして、そこにどうやったら辿り着けるかを追い求めたら、誰がMIXするかは正直そこまで重要じゃないかもしれません。もちろん、かかる時間だったりはだいぶ変わってくるし、機材ひとつとっても自分でするのはアクセスも含めて手間もかかる。でも、そこは時間と根性があったらなんとかなります。自分のイメージしてる音を作るための知識だったり技術を手に入れるためのコースだったりレッスンだったりを取らなければならないということで、お金もMIXERを雇うより多くかかっちゃうかも。そこからの機材やプラグインなんかも。でも、長い目で見たらそれもいいかもしれないですね。


オススメ方法。

最後に。
今制作している曲で、MIXを自分でしようか、MIXERを探そうか迷ってたりしたら、お気軽にご連絡ください。場所的に遠いですが、今の時代はオンライン化が進んでるので問題ないし。方向性が合ったら一緒に音楽作れるし、そうじゃなくても、紹介だったり相談だったり。

日本語でも英語でも、連絡お待ちしてますよっと。

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