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「軽い」「小さい」「心地いい」の三拍子を奏でるお財布・【Waltz DX】ができるまで

たのしく、心地よく旅するためのアウトドア小物を製作するブランド、SO FAR SO GOODの中のひと、製作と運営をしている田中です。

noteでは、Instagramやオンラインショップでは伝えきれない、製品の開発秘話や製作背景、そして製品を生み出す源の日々の暮らしなどを綴っていきたいと思っていますので、お時間あるときに覗いてみていただけるとうれしいです。

さて今日は、最近SO FAR SO GOODというブランドやWaltz DXを知ったという方にも知っていただきたく、ブランドの代表作であるお財布、Waltz DX(ワルツデラックス)についてお話ししようと思います。

私の山財布づくりの旅はかれこれ10年程前に遡るので、長くなりますが、どうぞお付き合いください。

まずは、およそ財布の名称らしからぬ「ワルツ」のネーミング由来から。

ワルツとは、三拍子の優雅な舞曲、またその音楽、円舞曲のことをいいます。

「なぜ、お財布のネーミングがワルツ?」

「軽い」「小さい」「心地いい」の三拍子揃ったお財布を目指したから。

ということと、もうひとつ理由があります。

初代ワルツの形状サンプル。DCF HYBRID製。

それは、お財布を開いた時の小銭入れの開口部と、札入れ部分を左右の側面から見た時の2つのマチ、3箇所のかたちがそれぞれ、指揮者が三拍子のタクトを振る時の三角形みたいに見え、この3つの三角形によって、この使い心地が実現されるのだ、と思ったから。

「ワルツ」という単語を知ったのは、小学生から中学3年まで習っていたクラシックバレエの楽曲。

バレエの演目としても有名な『くるみ割り人形』(楽曲:チャイコフスキー)のなかでとても好きだった曲が、「花のワルツ」でした。

ぜひ、youtubeなどで動画を検索してみてください。

この「花のワルツ」は、とにかく流れるように美しく優雅な楽曲と踊りなんです。

三拍子、三角形で、ワルツ、と考えたとき、頭にはこの「花のワルツ」の演舞シーンが流れていました。

手のひらサイズの小さなお財布のフラップを開けば、世の中に数多あるミニ財布、コンパクト財布のようにあっちを開いたりこっちを向けたりという煩わしさがなく、小銭もカードもお札も一目で見渡せ、そして出し入れがスムーズにできる。

そして、アウトドアでは良くても街中で食事や買い物をする時に、あの興醒めするベリベリッというベルクロの音がしない、ということも大事なポイントでした。

その優雅さを、ワルツという演舞になぞらえたのが、このネーミングの由来です。

そもそもなぜ山財布を作ったかというと、レディースのバッグとお財布のメーカーに勤めていた私は、登山を始めたばかりの頃、山道具を揃えようとお店を探したところ、業界では「バリバリウォレット」と呼ばれていたベルクロ式や無骨なつくりの財布ばかりでショックを受けたのです。
そこで仕方なく、当時革レディースの財布業界では既に定番化していた三つ折りで外に小銭入れのついた革のミニ財布を使っていました。

当時勤めていたメーカーのサンプル師に作ってもらった三つ折り財布。

けれど、あっちに向けたりこっちに向けたりが面倒な上、札入れやカードポケットなどの革の重なりが無駄に思え、こちらも既に二十年ほど前から革財布業界で流行り始め、自分の企画でもよく商品を作っていた通称「ミニLF財布」をアウトドア素材で作ることを思いついてMYOG(自作)してみました。

コーデュラナイロンで自作したミニLF財布。小銭が見づらいのでメッシュポケットにしていた。

しかし、小銭が出し入れしにくいことやお札を折らなければいけないことがストレスに。。。
そこで、「見た目はミニLF財布、だけど開けると長財布のように出し入れできる財布」を思い付きます。

最初に作ったのが、左下のプリントしたハードタイベックを使ったもの。型紙を作るためバラして処分してしまったので残っていないけれど、中はこのようになっていました。この革財布も私のハンドメイド。

「見た目は普通のミニLF財布」だけど、小銭もカードもお札も一度に見渡せて取り出せる。ノーストレス!
けれど、この構造は革財布だから良いのではないだろうか。。。

ということで、ワルツの開発に着手したのでした。
当時流通し始めていたX-Pacが薄くてハリがあり、「財布にぴったり」と目をつけます。
山でよく使う小銭が取り出しやすいことから、業界では「ボックス型」と呼ばれる小銭入れを土台に、カードとお札を折らずに入れられる構造を思いつき、ミリ単位で型紙を修正しながらサンプルを作ること数十回。
ついに初代ワルツが誕生したのでした!
長い。。。

初代ワルツの最終パターンが決まるまで修正を続けたサンプルの山。
革が好きだからどこかに手触りを残したかった。

ハイカーズデポさんとの共同開発で生まれた【Waltz DX】(ワルツデラックス)では、カードポケットを増設したことにより、三角のマチは2箇所でなく4箇所に増えたのですが、スタンダードモデルよりさらに一層使いやすくなったことが、〈デラックス〉である由縁です。

デラックス試作モデル。土屋さんの「領収証入れが欲しい。でも外ポケットつけるのはプロダクトとして美しくないよね」という言葉がヒントになり、メーカー企画時代に作っていた財布の蛇腹を思い出す。
外側は一枚仕立て。折り紙を折るように組み立てて行く。

結果的に札入れ部分の傾斜が大きく開いてお札を入れやすくなり、土屋さんにもOKいただいて、無事、製品化の運びとなりました。
現在の別注カラーはコチラ

以後は豊富なカラー、ECOPAKなどの新素材や初期モデルのワルツのデザイン復刻のご要望をいただいてのカスタムオーダーなど、よりパーソナルなお好みに対応すべく、バリエーションを増やしています。

エイジングが楽しめる国産ロロマレザーを使用したベルトと真鍮無垢のギボシ金具のコンビネーション。

SO FAR SO GOODの製品は、お取扱店様の別注製品に至るまで、一点ずつ全て私自身の製作によるものです。

Waltz DXは中でも一番数多く作っていいますが、春夏限定カラーやその時の気分で作った一点ものがあるのもハンドメイドならではの魅力と感じていただけると嬉しいです。

最後に、小さな「こだわり」。
X-Pacの格子柄は生地幅に対してコンピュータで作成するデザインデータのように間隔が均一ではなく、生地の端に寄るほどXの間隔が狭くなりますが、裁断時はX-PLYの列と財布の型紙の縦の中心線が並行になるよう裁断し、できる限り格子柄が左右対称になるようにしています。
工場生産で何枚もまとめて金型でプレスして型抜きする場合にはミリ単位のズレが生じるので、こういう裁断は難しい。
一点ずつハンドメイドだからできるこだわりです。

Waltz DXの初期展開カラー。

そして、X-PLYは表から見えないけれど、一点ごとに絵柄の出方が異なる「X-Pacマルチカム」柄は、「当たり外れがある」と思われる方も少なくないと思いますが、実は裁断時、透明シートの型紙をアチコチに置いてみて、仕上がった時の色や柄のバランスが可能な限りカッコ良く見えるように裁断しています。
あくまで私個人の感覚ですけれど。

そんなところも、ハンドメイドだからこだわれるポイントかな、と思っています。

Waltz DX《SPECIAL CUSTOMIZED EDITION》の過去オーダーの一部。
オプションでサイドループをつけられます。

お問い合わせをいただくことが多いWaltz DXの「カスタムオーダー」。
東京・江戸川橋のMT.FABsにて、私が出勤している日にその場にお越しいただける方からの受注は受け付けていますし、オンラインショップでは次回は今年の年末もしくは2024年年明けに開催予定ですので、ぜひお楽しみに!

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