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5/16開催レポート前編「防災と自治 相互扶助の起点づくりから考える」

今回のテーマは「防災と自治」
今年度からは「防災と自治」を中心に、誰もが当事者となりうるテーマを入口にして、いかに備えるかを共に考え、人と人とのつながりを持って「防災に強いまち」をつくりたいと考えています。

昨今、町内会を軸とした防災の取り組みは比較的進んでいる一方で、仙台市は、地縁組織とは縁遠い人も多くいます。仙台は約110万人の都市ですが、そのうち30%~40%の人が進学や就職、転勤などで4~5年で入れ替わるまちです。つまり、110万人のうち約3分の1の人々が地縁とはつながらないまま仙台に入り、仙台から出ていくことになります。

防災は地縁組織をベースに成り立つものなので、都市構造上、良い状況とは言えません。そこで、血縁関係や地縁組織に限らず、いろいろなタイプの「共助の輪」の入口や拠点をつくれたらと考えています。

今回は、多様なコミュニティづくりを実践している社会福祉法人拓く独身女子防災プロジェクトの2組のゲストから話題提供していただきました。

社会福祉法人拓く

福岡県久留米市で20年以上福祉事業を展開し、地域食堂やコミュニティスペースを運営するなど、住民主体で地域づくりに取り組んでいます。
今回は理事長の馬場 篤子さん、鴨崎 貴泰さんと「本業+αプロジェクト」代表の村谷 純子さんにお話をお伺いしました。


小さな拠点づくり「本業+αプロジェクト」

久留米では、近年、大規模な水害が頻繁に起きていますが、「指定避難所」には支援物資が届いても在宅避難者には物資が届かないなどの支援格差もあり、行政や社会福祉協議会だけには頼れない状況で住民自治が必要です。
このような状況にも関わらず、市民の防災・減災意識や当事者意識がそこまで高くないのが課題になっています。

これらの課題を解決するために共創プロジェクトを立ち上げ、「小さな拠点づくり」に励んでいます。平時には相互扶助の拠点として、発災時は防災備蓄を届けたりする拠点となるよう地域の居場所をつくっています。
いざという時や「ちょっと困った」という時も、拠り所となる居場所となる「小さな拠点」が、私たちの通勤・通学、買い物、習い事など毎日の生活動線上にいくつもあります。

現在、「本業+αプロジェクト」として、36か所の「小さな拠点」があり、地域密着型の商店や事業者と共に取り組んでいます。コロナ禍では、自主防疫の拠点としてネットワークをつないできました。
今後、3年間でこの「小さな拠点」を36か所から100か所まで増やし、つながる住民の数も現在の1,600人から4,000人に増やすことを目標にしています。平時からつながっておくことで、災害時も相互扶助ができるコミュニティを育てています。

「本業+αプロジェクト」の活動の始まり

「本業+αプロジェクト」代表の村谷 純子さんは、前職は社会福祉法人で相談業務などを担当していました。そこで寄せられる相談は、ハイリスクになってからのものが多く、問題が大きくなるもっと手前の段階で、身近なところで話せる場があったらいいと思い、前職を退職して「みんなのサロンSORA」を開業しました。そして、拓く代表の馬場さんと、2019年度から地域資源を生かして住民の「困った」を解決し人々がつながる「本業+αプロジェクト」の活動を始めました。

「本業+αプロジェクト」の機能や役割

「本業+αプロジェクト」は、唐揚げ屋さんや魚屋さんや薬局など、さまざまな本業を持つ商店や事業者の方が「本業+α」で地域にとってやさしい活動をしています。それを「α力」と呼んでいます。

村谷さんがお話をしている様子

●生活圏の中の相談機能
日々の暮らしの中で相談したいことがあっても、なかなか相談所に行って話すのはハードルが高いので、地域に根差す商店で、たわいもない日常の会話から住民のちょっとした「困った」を拾う、「つぶやきひろい」をしています。暮らしの中で話すからこそ身近で住民主体で色々な解決ができると考えています。

●コミュニティの場
皆さんの声を大事にしながら、イベントを通してつながるきっかけをつくっています。例えば、普段入りにくいお寺でお泊り会やマルシェを開いたり、魚屋さんが学校で魚のさばき方を教えたり、薬局では「まちの保健室」として、病気のときだけでなく、平時から様子を知るようにするなど、皆さん創意工夫でさまざまな取組みをしています。
コロナ禍で、地域の子育てサロンや児童センターが閉鎖になった際には、地域の商店が連携して場所を提供し、小さな子どもたちが遊べる場をつくり、母親たちが孤立しないようにコミュニティづくりを行いました。

●チャレンジ実現の場 (つぶやきひろい編集実践の場)
つぶやきひろいで拾った「困った」や「したいこと」を取り上げて地域資源で解決する場があります。例えば、飲み屋さんに集まる、孤立した初老の男性を集めて「ショローズ」というソフトボールチームをつくり、そこに飲み屋さんのママさんたちも加わり、毎週日曜日にみんなでソフトボールをしています。

他にも「昔、ヨガのインストラクターの資格を取ったけれど、教える場所がない」というつぶやきを拾ってヨガのレッスンが行える場所を提供したり、高齢者が新型コロナウイルスのワクチンを接種したくても、スマホやタブレットで接種の予約が取れないというつぶやきを拾って行政や社会福祉協議会と協働してワクチン接種の予約をサポートする活動も行いました。

住民の小さなつぶやきを拾いながら、自分たちだけで解決したり行政と協力しながら解決することで暮らしをアップデートするお手伝いをしています。

「いつも(日常)」から「もしも(非日常)」
「もしも(非日常)」から「いつも(日常)」

を掛け合わせながら暮らしの循環ができる社会、人と資源の循環が地域をともに創っていく社会を目指しています。


会場からの質疑応答・感想

Q.久留米市の人口はどれくらいですか?活動の範囲を教えてください。

A.人口は30万人の中核都市ですが福岡市に働きに行く方が多いので昼間の人口はもっと少ないです。
活動の範囲は久留米市全域で距離にして東西60kmあります。

Q.人と人をつなげると言っても、そう簡単ではないと思いますが、どのようにつなげられていったのか教えてください。 

A.(村谷さん)前職で仕事をしていた時は、皆さん相談をされる際も「問題」から始まりますが、現在自分で美容サロンを経営していて思うのは、「問題」ではなく「わくわく」から始まっているように感じます。
他の商店や事業者も同じように「わくわく」から始まる拠点だと思います。今まで私は「福祉」から「暮らし」を見ていましたが、今は「暮らし」から「福祉」を見ており、そこには若干の差があります。

どの商店や事業者の方も、お客さんとの距離感を保ちながら、自分にできる「+α」は何だろうと常に考えています。皆さんに共通して言えるのは、自営業をされているからこそ培われた対話力や創造力、チャレンジ力などに長けており、日頃からのお客さんとの信頼関係があるからこそ、防災や防疫の時に強みを生かせると感じています。

防災の啓発活動を行政と協力して実施しようとしても、住民の方にドアすら開けてもらえないといったことがありました。そこで、「本業+αプロジェクト」に携わっている商店の方から住民の方に声をかけていただいたら、スムーズに話を聞いてもらえたというケースもあります。子どもたちの相談でも親や先生には言えないけれど、ここの商店のおばちゃんには言える、といったこともあります。
身近な暮らしの中で、いつもの関係性が基礎にあるからだと思います。

(馬場さん)人と人がつながる時には、踏み込まないといけない場面も多くあります。その時に「難しい」とか「リスク」などと捉えるのではなく、「チャレンジ」だと考えるようにして、踏み込むことを大事にしています。
拓くは常に地域資源を探し、その中で異質なものを掛け合わせることをお手伝いしています。同じ人たちが活動していると停滞するので、異なる領域の方をあえて掛け合わせることで幅が広がりα力が深まると感じています。

Q.拓くはどのように「小さな拠点」づくりを広げていったのか教えてください。

A.(馬場さん)拓くでは、オーナーの方々が普段、当たり前のように行っていることに注目して、オーナーの方の持つ力や得意分野を可視化して伝えることでオーナーの自信につなげるという作業をしています。
人々の持つ「困った」も「見える化」することで他とつながって、自分も動いてみようというきっかけになります。「私」が持つ問題は自分だけが感じているのではなく、みんなも感じているかもしれません。「私の問題はみんなの問題だ」と思って活動しています。
また、若い人は若い人のいるところにしか集まらないと思っているので、若い人同士を集めてそのコミュニティをまちづくりの地縁組織とつなげるということをしました。

仙台市北西部にある八幡町商店街の会長をしています。八幡町商店街ファンコミュニティを作り2016年から活動をしています。防災に特化しているわけではありませんが、盆踊り大会を企画したり、ハロウィンイベントの際などに、住民の方々と顔の見える関係づくりを目指して活動しています。子どもたちがSOSを発信したい時に、お店に飛び込んで何でも話せる関係がつくれたらと思っています。そういった顔の見える関係づくりが防災にもつながると考えています。

福祉系の団体職員をしています。困っている方を行政や社会資源につなげる仕事をしています。困っていても手を挙げてもらえないとアウトリーチできない現状があると思います。

若者の自分としては、「時間とお金は有限である」「コミュニケーションは不安である」ということを常に感じています。
若者にとって、町内会に入るのはとてもハードルが高く、自分で足を運ばなくてはいけないのでタイムパフォーマンスが悪いと感じてしまいます。仮に、町内会に入ったとしても、どんなコミュニケーションをされるか分からないので不安が大きいです。
そんな若者がつながりをつくるためには、自分と共通する属性の人が集まるところだと行きやすいと思いました。自分と似ている人が集まるところだとコミュニケーションが苦痛になる可能性が低いと思います。そういったところから人とつながって、拓くの取組みのように他の分野と掛け合わせていくといいのかなと思います。そうやってできたつながりと町内会のような地縁組織をどのようにつなげるか考えることも大事だと思いました。


次回は独身女子防災プロジェクトの北村さんの話題提供をレポートしていきます!


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