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5/18開催レポート「私たちの知らない世界。~あなたはヤングケアラーという存在を知っていますか?~」

5月の「私たちの知らない世界。」のテーマはヤングケアラーについて。
家族の世話や介護、身の回りのサポートを行っている18歳未満の子どもたちが、その状況に至った理由や、現状について、ヤングケアラーの支援を行っているお二人に話題提供をいただきました。

話題提供者
一般社団法人ヤングケアラー協会:小林鮎奈さん
NPO法人アスイク:森川ゆとりさん・ピアサポーターの天野茉莉さん


お一人目は一般社団法人ヤングケアラー協会の小林鮎奈さんからご自身の経験もご紹介して頂きつつ、ヤングケアラーの現状と課題について話題提供していただきました。

<小林 鮎奈さんプロフィール>
一般社団法人ヤングケアラー協会 看護師 兼 公認心理師
<経歴>
1990年生まれの32歳。山梨県出身。元ヤングケアラー。
8歳の頃に母が心の病気を患い悩みながらケアをしてきた。
定時制高校に進学し働きながら学校へ行く。“母の病気のことを誰か相談できる人に出会いたい“という思いから、看護の専門学校に進学し看護師となる。外科病棟を経て精神科病院で勤務。
「精神疾患のある親をもつ子どもの会こどもぴあ」を2018年に設立。
こどもぴあ副代表。看護師 公認心理師。
こどもぴあ著書「精神障害のある親に育てられた子どもの語り」
「静かなる変革者たち~」

日本でヤングケアラーの法令上の定義はまだない

最近ヤングケアラーという言葉は広まってきたが、日本でヤングケアラーの法制上の定義は今のところない。海外、特にイギリスは進んでおり、法令化もしており、国によって定義も異なる。

ー日本の定義(日本ケアラー連盟発表)
家族のケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートを行なっている、18歳未満の子ども
※18歳から30歳代までを若者ケアラーと言われており、何歳までを支援の対象とするか、ケアの範囲をどこまでとするかが議論の最中である。

家族の体の病気や心の病気など、様々な理由で家族のケアをしているヤングケアラーがたくさんいます。厚生労働省の調査では、クラスに1~2人がヤングケアラーという実態が分かりました。ヤングケアラーは日常的に行っている家事や家族の世話などにより、友だちと遊びに行ったり、進学を諦めたり、将来の夢を描くことが難しい現状があります。

ヤングケアラーが増えている背景には、人口構造、家族形態の変化に加え、雇用・労働状況、社会福祉制度の仕組みなどがあります。
ヤングケアラーがいいとか悪いとかではなくて、普通に起こることなのだと思います。

ー小林さんの経験
母親が統合失調症を発症し、家族で母親のケアを担ってきた。
父親が警察に相談するも、「家族のことは家族で解決してください」と言われ、SOSを拾ってもらえなかったことで周りに頼れず、家族で問題を抱え込むことになった。病気への偏見によって孤立を感じたり、問題の慢性化による諦めなども感じた。母親に笑っていてほしいという気持ちを抱きながら、どうしたらいいのか分からず悩んでいた。
現在は良くなって、楽しみながら過ごしている。

ヤングケアラーは18歳未満の子どもと定義されていますが、18歳を超えた瞬間に悩みが消えるわけではなく、ケアが終わるわけでもなく、状況が変化しながら続いていきます。

支援の緊急度が高いケースは支援に繋がることもありますが、支援の緊急度が低くて、なんとなくモヤモヤする、少しつらいけど、つらさが出せないという人、自分では我慢できる程度と言ってる人たちの支援をしていきたいと思っています。

家族会で研究した学校への相談歴のデータを見ると、学校へ相談したことがなかったという割合が、小学生9割、中学生、8割、高校生8割。誰に助けられたか?という質問には「近所の人」と答えた子どもが多くいました。

ヤングケアラーの周りにたくさんの支援の糸をたらしていこう
ヤングケアラーの周りにいろんな支援が存在して、ヤングケアラー自身が必要な時に必要な支援を選択できる状態になるといいと考えています。


お二人目はNPO法人アスイクの森川ゆとりさんに仙台市内のヤングケアラーの現状と取組みについて話題提供をいただきました。

NPO法人アスイク団体プロフィール>
東日本大震災をきっかけに立ち上がった団体。
どんな困難にぶつかっても自分の人生を好きになれる社会ということを<ビジョン>に、震災の仮設住宅を回る中で浮き彫りになった子どもの貧困や不登校といった社会課題に対して、自治体と協働して子どもたちの育ちを支援する事業をつくってきた。
保育園や児童館・放課後児童クラブの運営や、子どもの第三の居場所づくり、学習生活支援事業、不登校・引きこもり支援、フードバンクや子ども食堂、ヤングケアラーオンラインサロンの運営などを行っている。
様々な事業を通じて、生きづらさを抱える子どもたちと社会資源を結び付け、子どもたち一人ひとりにあった教育的機会・福祉的機会につなげて支援を提供することを大切にしている。

仙台市内のヤングケアラーの現状と取り組み

ー現状
仙台市の調査結果から見ると、仙台市内の中学生のヤングケアラーは45人に1人(全国では17人に1人)。一見多くはないが、潜在的にはまだまだいるのではないかと感じている。
アスイクが行っている学習支援や居場所づくり、子ども宅食(食品をお届けしながらの訪問支援)などの活動を通じて事業に登録している仙台市内525名のうち、ヤングケアラーに該当する子どもは41名おり、大体12人に1人くらいの割合。(※2023年2月時点)

ー取り組み
仙台市と協働してヤングケアラーへのピアサポート体制の構築と、オンラインサロン運営を行っている。
・Twitter相談窓口:気軽に相談できるような窓口を設けている。
・オンラインイベント:先輩のヤングケアラー(=ピアサポーター 当事者経験のある先輩の大学生や社会人)と現状困りごとを抱えている中高生が交流できるようなイベントを企画・運営している。

オンラインイベントでは、ヤングケアラーのリアルな声が聞けました。

・自分にとっては家族だからケアして当たり前
・いろんな経験をしている人の話を聞けてよかった
・”困っている”、”大変”、って言ってはだめだと思っていた
・自分では支援のイベントに参加しづらい

支援の課題は、利用者のつながりにくさがあります。
TwitterでのDM相談件数が昨年度は年間1件、イベントの参加者数も伸び悩んでいます。

地域の大人・個人として、当事者と支援の間をつなぐ役割として、例えば学校の先生が、「最近どう?」と声かけたり、こういうイベントや支援があるというところにアンテナを立てて、「イベントに一緒に参加してみない?」など、間の役割が必要になってくると感じています。

行政と連携して、昨年度はオンラインサロンを一般に周知して募集したが、より本人たちに届くような支援をしていきたいと考えています。例えば学校に訪問して、その場で出張型でピアサポーターと交流するイベントを設けたり、地域・学校との行事と連携してお話ブースを出展して定期的に子どもたちと関わる機会をつくったらどうかなどのアイデアも出ています。

これからも子どもたちにより支援を届けたいと思っており、いろいろなアイデアやご意見を募集しています!


NPO法人アスイクでピアサポーターとして活動している天野茉莉さんにもお話をお伺いしました。

ー天野さんの経験
元ヤングケアラー。母子家庭で小学校高学年の時から幼い弟の世話や家事をしていた。自分の家庭のことなので当たり前だと思って負担というよりは日常の一部だった。子どもと関わるのも、ごはんを作るのも好きだったこともあり、自分の好きなこととして捉えていた。
当時を振り返ってみると、中学生で弟の保育園の送迎もしていたが、それが当たり前だと思っていたが当たり前ではなかったのかもと思っている。ただ、今では今後の自分のためになる経験だったと前向きに捉えている。

アスイクの利用者として話を聞いてもらえたというのが当時すごく嬉しかったです。

ピアサポーターになってみて思ったことは、ヤングケアラーはかなりの負担を担って成長してきていて、話を聞いてほしいニーズが大きい。どんな話でも聞いてあげられる存在になりたいと考えている。
ヤングケアラーに対して大変なんだろうな、何か手を差し伸べてあげなくちゃという頭で関わるのではなく、その子が何を求めているのか、その人を知るところから始めて、信頼関係を築いて一緒に子どもの未来や夢を考えてあげると子どもの未来は豊かになるのではと考えている。

アスイクでは子どもたちの“いま”を支え続ける味方をひとりでも多く増やしたいと考えています。


当日の質疑応答についてもいくつかご紹介します。

幼い頃の小林さんにどのような支援があったらよかったと今思いますか?

>小林さん
当時の私が思っていた事はただひとつ、誰か母を助けてほしいとずっと思い続けていた。母を傷つける人は自分にとっては、家庭を脅かす存在になっていたり、逆に母の味方になってくれる人は自分の味方でもあるように感じていた。ヤングケアラー支援も大事だが、子育て支援も同時に大切なことだなと思っている。あとは家とは別の場所というのもすごく大事だと思っていて、友達との時間がそのときの助けだったと思う。

DM1件について、どうして?という仮説はありますか?

>森川さん
Twitterのフォローしてくれているのは、支援に関係している大人が多い。当事者の子どもたちがなかなか情報をキャッチしづらいのではと思い、学校にチラシを配ったりもしているが、SNSで顔も知らない人とはつながりにくいところがあるんだろうなと感じている。顔が見える学校と連携することを今検討している。

さいごに、今回のヤングケアラーのちらしにある黄色のふわふわのハートを抱きながら泣いている子のイラストについて紹介します。

事前に小林さんと打ち合わせをする中で、小林さんにヤングケアラーのイメージをお伺いしたところ、黄色のふわふわのハート(=家族)を抱きながら泣いている、家族なんだから何とかしなくてはいけない、でもどうしようもない、ケアに対して前向きな気持ちと後ろ向きの相反する感情とお伺いした小林さんのイメージをサポセン(仙台市市民活動サポートセンター)のスタッフがイラストで表現しました。


さて、次回の「私たちの知らない世界~教育機会を十分に受けられなかった人たちのこと~」のお知らせです。

教育機会を十分に受けられなかったおとなの人たちの現状やその状況に至った理由、支援と取組みの現状を「仙台自主夜間中学」の実例や「自立を目指す女性のための“学び直し”を通したキャリア支援事業」を通してお聞きし、それぞれの立場で何が出来るか考えます。

「私たちの知らない世界~教育機会を十分に受けられなかった人たちのこと~」
日 時:2023年6月15日(木) 19:00~20:30
話題提供:園田淳子さん(仙台自主夜間中学)
     畠山明さん (個別教室のアップル代表) 
対 象:興味のある方、どなたでも参加できます。みなさん意見交換に参加いただきます。
参加費:無料
会 場:仙台市市民活動サポートセンター 6階セミナーホール、オンライン会場(Zoom)
定 員:30名(Zoom会場は定員制限なし)
申込み:フォームからお申込み下さい 
              2023/6/15セッション申込フォーム (google.com)


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