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こちら世界制作委員会 #シェアードワールド

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シェアード・ワールド関連のノートを入れていきます。
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#小説

甘い

 安さだけが自慢の軽で、峠を登る。
 風の無い月夜の晩に、無粋なエンジン音が響き渡る。街中だって迷惑だろうが、森の中だって迷惑がられそうだ。
 ここにだって、眠ってる奴はいる。

 ぐねぐねと何度も道を左右に曲がり、細かった道が少し、開けた後のカーブ。
 他より新しいガードレールが白く反射するその場所。
 何度も車が来ていないか確認して端ギリギリに駐車した。

 エンジンはつけたまま。開けてある窓

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君とコーヒー

目を覚ますと日が大分高い所にあった。
休日なのをいいことに昼近くまで寝てしまったらしい。
隣を見ればもぬけの殻だった。
一気に眠気が覚めていく。
飛び起きてリビングに行くと、ミズキは奥のキッチンにいた。鼻唄を歌いながら洗い物をしているらしく、声をかけるまでセナに気付かなかった。
「おはよ」
「うわ。びっくりした」
ミズキは手を止めて振り返る。
「何か食べる?」
「いや、コーヒーだけでいい」
「わか

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「コーヒーメーカー」

「コーヒーメーカー」

グビッ、グビッと喉を鳴らして飲み干したコーヒータンブラーを見つめる。
(もう一杯!)

席を立ちコーヒーメーカーまで移動する。
スイッチを入れるとガリガリと豆が削れる音と、
ほのかにフレグランスが鼻腔を刺激する。
この豆の香りが好き。
目を閉じて包まれる時間。

豆から削るコーヒーメーカーを手にしたのは、友人の勧めがあったからだ。
興味はあった。

それでも中々、買おうとは思わなかった。
旨いコー

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【超短編】奇跡

確かにその光景を目撃した。吉谷さんは目の前で、ペットボトルの水をコーヒー色に変えて見せた。種も仕掛けもわからない素敵な手品に拍手を送ると、吉谷さんはため息をついた。
「信じてないんでしょう」
「すごいよ、どうやってやったの?」
「この水、飲んでみて」
吉谷さんは先ほど店員が置いたグラスを示す。ペットボトルの色水の方を飲めと言われるかと内心穏やかではなかったので、話がわからないなりに安心した。

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