見出し画像

淡水魚を巡る旅。岐阜県郡上市八幡町〜岐阜県不破郡関ヶ原町〜滋賀県長浜市。

8月上旬に郡上おどりを見に行き、その後は滋賀県長浜市へ。
岐阜県と滋賀県、中部地方と関西地方、隣り合っている割には、お互いに関係が無さそうな県どうしではあるけれど、まとめて回るといろいろな繋がりが見えてくるものです。
何より、この両県を繋ぐ道にはあの関ヶ原がある。今では新幹線であっという間に通過してしまう美濃から近江の辺りは、実は日本の歴史を大きく動かした、とても重要な地域でもあるんですね。
歴史や地理について話すと長くなるので、軽く触れながら、この両県のもうひとつの共通点、美味しい淡水魚について語ってみます。

水と踊りの町、郡上八幡に棲む、さらなる夏の主役。

前々回の投稿で郡上おどりについて触れましたが(そして9月の郡上おどり最終日にも行こうとしていますが)、真夏の郡上八幡には、踊りの他にも決して見逃すことができないものがあります。
それは鮎です。日本を代表する清流、長良川水系の川に囲まれたこの地域は、美味しい鮎が育つことでも知られています。
川魚の多くは昆虫なども餌にしますが、鮎は草食系。主に苔を食べながら成長します。となれば必然として、水質など川の環境から受ける影響は大きい。その点で、ここは清流長良川。彼らは”郡上鮎”と名付けられ、鮎のブランドとされています。

夏の郡上では必ず見かける釣り師。彼ら、プロの釣り師が鮎を納める飲食店は限られているとのことなので、地元の詳しい人に教えてもらいましょう。
では、さっそく。骨ごと食べられるので、アタマから丸ごと行っちゃってください。ほんのり感じる果実のような味。いろいろな食べ方があるようですが、やはりシンプルな塩焼きがいいなぁ。

毎年、鮎釣りが解禁される6月が待ちきれない人は多いことでしょうね。ただしその時期は、まだ鮎は成長しておらず、小さいものが多い印象。ちょうど郡上おどりが行われている頃に、プリップリに太った鮎に出会えます。
この日、夕方の5時頃に店に入ったら、「たった今、釣り師さんが届けてくれた鮎がありますよ」とのことだった。
川の音に涼みながら、店内では郡上の踊り唄が流れ、テーブルには、冷たいお酒と鮎の塩焼き。もうこれ以上、何を望むと言うのでしょう。

鰻について。

焼くのか蒸すのかという問題。
こればっかりは好みの問題に過ぎないけれど、僕は”焼き派”です。これほど歯ごたえの良い食べ物を、わざわざ蒸して柔らかくせずに、焼きでカリッと、プリッといただいた方がよろしいのではないか。
ということで、僕は関東ではまったく鰻を食べません。まぁ、調理法だけではなく、お値段の問題もあります。数年前、急に値段が高騰してから、ずっと高止まっている印象。スーパーで売られている鰻でも3000円くらいしますからね。その金額を払うんだったら、もっとほかにも美味しいものがあると考える次第です。

美濃地方では、鰻はもっぱら丼でいただくのだとか。なぜなら…
蒸さずに焼く代わりに、丼の蓋で蒸すから、なんだそうです。もっとも、出てきてすぐに蓋を開けてしまいますが。

郡上八幡には、何軒かの鰻屋さんがあり、僕が必ず行く店の鰻は三河産とのこと。三河から運ばれてきた鰻は、郡上の澄んだ井戸水で飼われ、胃の内容物をすべて出した空腹の状態で調理される。あぁ、鰻さん。最後はお腹が空いていたんですね。ちょっとかわいそうだけど、美味しくいただきます。
ちなみにこの店、ミシュランガイドで紹介されていますが、予約は取らない(とは言え、ほとんどの場合、待たずに入れます)、お支払いは現金のみ。僕はこういう、昔ながらのスタイルの店が好きです。ちなみにうな丼一杯3500円。値段の評価については人それぞれございましょうが、ここでこうしていただくことさえできれば、関東で鰻を食べずに生きて行くことができます。

本州の、”くびれ”あたりに、関ヶ原(←五七五にしてみた)。

郡上から、さらに関西方面に向かうには、東海北陸道をいったん北へ向かい、富山あたりから福井に向かう。あるいは、同じく東海北陸道を南に向かい、いったん愛知県を掠めてから再び岐阜県に入り、関ヶ原へ向かう。岐阜県と福井県との間にある山地を避けるからです。
目的地は近江長浜なので、南に向かおう。最後には名神高速道に入るのですが、この道、東海道ではなくて中山道に沿っているんですね。ついでに言うと、琵琶湖のすぐ北に日本海がある。本州って、このあたりで大きく弓形に曲がっているからですね。
いずれにしても、名神高速を関ヶ原で下りる。この方が最短距離だし、日本の歴史を大きく動かした関ヶ原を見ておきたいではありませんか。

レンタカーのナビが古かったので、とりあえず関ヶ原駅を入力。着いてみると、知名度の割に、とても小さな駅であることに驚く。ここ、都に向かうためには必ず通った交通の要衝なのに。
鉄道路線で見ると、位置関係はこんな感じです。戦国時代に出てくる地名が並ぶ。関ヶ原の戦だけではなく、淺井朝倉vs織田信長、柴田勝家vs羽柴秀吉の時代から、この辺りはキナ臭かったわけだ。
関ヶ原の駅からクルマで5分も走らない道沿いに、『岐阜関ヶ原古戦場記念館』がある。大河ドラマ『どうする家康』が始まるまで、ここを訪れる人は圧倒的に西軍びいきだったらしい。東軍西軍ともに、こうして仲良く旗印が並んでいるようすを見て、平和っていいなぁ、と思う。

この記念館のオープンは令和2年。コロナ禍の真っ最中だった。実はそれ以前にも関ヶ原を通ったことがあるのだけど、この辺り一帯、どこにでもあるような田園地帯だった。日本に住んでいれば誰でも知っている歴史の舞台が、なぜ放置されているんだろう? と、不思議でならなかった。とは言え、あれはあれで資料を片手に、陣が張られた山を探す楽しみはあったと思いますが。
そこにできた記念館。関ヶ原の地形と、東西の陣形と、何より古戦場の広さがリアルにわかる、とてもよく考えられた施設のようです。記念館そのものは、徳川家康が最後の陣を張った場所に建てられているという。
入ろうと思いましたが、間もなく関ヶ原には雷雲がやって来るとの予報。やはりこの土地は風雲急なのだ。ということで、長浜には午後2時頃までに到着したいという事情もあり、先を急ぐことにする。

とは言え、ここには寄りますよね。周りの道が狭いので、クルマで来た人は、ここから左に少し走った石田三成の陣跡が無料駐車場になっているので、そこに停めるのが大一大万大吉。
ついでにもうひとつ。令和の関ヶ原では、小早川秀秋に意外な人気があることに驚いた。この『裏切りスナック』のほかにも、記念館のレストランには『小早川秀秋の裏切りカルボナーラ』というメニューもあった。あれから400数十年。こんなことでは、義の武将、大谷吉継も浮かばれないではないか。
ということで、関ヶ原を後にする。また来るぞ家康。

そして琵琶湖へ。世界で三番目に古い湖の、食文化に驚く。

関ヶ原を出ると間もなく、伊吹山の峠を越える。この辺りの山中で、敗軍の将である石田三成は彷徨ったことだろう。などと感慨に耽ってみたいのだけど、道そのものはトラックがバンバン通る普通の国道です。そして間もなく長浜市内へ。関ヶ原と長浜って、こんなに近かったんですね。
宿にチェックインを済ませ、とにもかくにも、鯖そうめんを目指す。これね、あまり食べずにいると、禁断症状が出るのですよ。

午後3時閉店の店にギリギリセーフ。売り切れと同時に閉店してしまうので、油断ならんのです。

かつて、琵琶湖畔の街であれば、どこへ行っても鯖そうめんが食べられるものだと思っていた。それで彦根に行ったときに店を探したのだけど、どこにも無かった。もちろん禁断症状が爆発しましたっけ。こればっかりは、長浜に来ないと食べられないのです。
あ、サバは、今回のテーマである淡水魚ではないけれど、例外として認めてください。オマケに鮒寿司を一切れつけました。オトナって楽しいです。
こうして無事に禁断症状が治まり、宿に戻る。町家をリノベしたとても居心地のいい宿なのだけど、その話を始めると長くなるので、またの機会に。
そして夕刻、この旅の大きなテーマでもあった「ビワマス」を食す。

今が旬のビワマス。焼いても炙りでも刺身でも。

以前、京都の割烹料理屋でいただいたビワマスの味が忘れられず。そして、京都のビワマスは上品な小鉢で出てきたけれど、本場長浜では皿一杯にドカ〜ンと出てきた。

写真はレモンが目立ちすぎてますが、軽く炙ったビワマス。魚体は30〜40cmはあったという。

ビワマスの旬は6月〜9月。サラッとした脂が乗って、身は引き締まり、食べ応えは充分。これは美味しいですよ。
琵琶湖で美味しいと思うものは、そのほとんどが固有種。つまり、ここに来ないと食べられないものばかり。だから来るんです。とは言え、ほんのわずか南の彦根に行くだけで、僕が知る限り、ビワマスはどこにも無かった。それほど琵琶湖の食文化は多様なのですね。

ビワマス弁当は刺身とソテーで。なんちゅう贅沢なことか。とてもさっぱりとした魚なので、これほど食べても全く胃がもたれないのです。

ちなみにこの店、ほかの魚は置いておらず、ビワマスだけなのだった。長浜に来れば、ビワマスでも鮒寿司でもイサザでも鯖そうめんでも、何でも揃っている居酒屋があるのかと思っていたけれど、それぞれこのように専門店となっている。

ちなみにこれは、翌日の居酒屋でいただいたビワマスの塩焼き。刺身を勧められたものの、前日に食べたので、熱中症対策で塩焼きにしてもらった。店主は「やや痩せている」とは言っていたけれど、薄いピンクの身はホクホクでしたよ。

鮒寿司の専門店はお休みだった、けれど。

長浜を代表する食材には、それぞれの専門店がある。ということで、翌日のターゲットは鮒寿司の専門店に定めた。ところがですね、店は開いていたのだけど、その日は臨時休業でテイクアウトのみ。もうすっかり頭の中が鮒寿司になっていたので、どこかほかに鮒寿司の美味しいお店はないものか聞いてみたところ、だったらいいお店がありますよ、とのこと。さっそく向かったのが、上の写真に出てきた塩焼きを出してくれた居酒屋です。

好き嫌いはあろうかと思いますが、僕はこれだけの鮒寿司があるだけで、一時間は幸せに飲むことができます。ちなみに飯(いい)と呼ばれる発酵したご飯も大好きだと言ったら、飯だけでも売ってくれるお店を紹介してくれた。良質な発酵食品なので、お腹の調子も良くなるんですよ。

観光地の黒壁スクエアから少し離れたこのお店には、地元のお客さんが集まっていた。つい最近、6日間かけて琵琶湖を一周歩いてきた人とか、農家さんとか。彼らから琵琶湖の話を聞くうちに、お酒を飲むのも忘れてしまうほど、奥深い琵琶湖の沼に(湖だけど)はまってしまうのでした。
このお店にはナマズ料理が多かったけれど、鮒寿司をチビチビと楽しんでいるうちに、食べそびれてしまった。いろいろな人から勧められたイワトコナマズは無かったので、それは次の機会に。ホントに次の機会を作ろう。9月の郡上おどり最終日の後は、また長浜に来てしまおうかな。

そんな調子で2時間ほど。楽しく話しているうちに店が混み始めたので、新参者はこのあたりで失礼させていただく。
〆はイサザという小魚で出汁を取った小鍋にて。この小魚の旬は真冬で、まさかこの季節にお目にかかれるとは思っていなかったのだけど、甘露煮にしたり、乾物にして残しておいたものがあるというのでお願いした。
イサザはいい出汁が取れますよ。という店主のお勧めの通り、なんという深い味わい。ネギと豆腐だけのシンプルな具材なのに、こんなに美味しいスープをいただけるとは思ってもみなかった。ラッキーでした。

写真ではわからないけれど、この小鍋のスープは、グツグツ煮立った状態で出てきました。

ということで、郡上おどりと淡水魚に溺れた四泊五日。それでもまだ行けなかったところがあるので、9月にもう一度、同じルートを辿ることになると思います。

なお、探す楽しみも残しておきたいので、僕のnoteではお店の名前や場所はお知らせしません。とは言えヒントはいろいろ置いておきましたので、もしも行くことがあれば、ぜひともネットで検索するなり地元の人に聞いてみるなりしてください。それを繰り返すうちに、誰にも真似のできない、自分だけの旅のルートができあがると思います。

これは、最後の居酒屋に置いてあったミニチュアです。溢れんばかりの琵琶湖愛ですね。






この記事が参加している募集

#ご当地グルメ

15,815件

#旅のフォトアルバム

38,648件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?