「影のないボクと灰色の猫」02-A14 第十四章:ぼく
この物語は、Twitterで自然発生的に生まれたリレー小説です。
aya(ふえふき)さんと一緒に、マガジンにまとめています。
詳細はこちら → はじめに
前回のお話(第十三章)
第十四章:ぼく
「サービスだよ」
声を掛けられて、はっとした。
red stone cafeのマスターが、ぼくを覗き込んでいる。
店のテーブルに突っ伏していたぼくは、身体を起こした。自分の足元を確認する。影がある。
「ラストチャンスだったけど、望みは叶わなかったかな?」
マスターは、ぼくの前に、珈琲を置いた。ウェッジウッドの青いカップ。
「望みは叶わなかったけど、多分、望み以上の事が叶ったと思う」
ぼくは珈琲カップを手にして呟いた。キリマンジャロのいい香りが漂う。
「ふうん。じゃあ、報酬はどのくらい貰ったらいいのかなあ」
サテンの様な生地の黒いセットアップ姿で、マスターはにやにやしている。
あの時、ぼくはマスターと取引をした。
猫をどうしても助けて欲しい。轢かれるなら猫じゃなくて、ぼくがいい。
報酬は、ぼくの人生の一部。
「それは、マスターが決めてよ。ぼくの人生なんて、何の面白味も無いし、どれだけの価値があるものかも分からないし」
「そんな事言うなら、残りの人生、全部貰ってもいいのかい?」
「いいよ」
珈琲は、酸味と苦味のバランスが絶妙だった。これが最期の一杯になるのかな。そんな事を思った。
「へえ。人間の人生って、ものすごく価値があるんだけどね。ま、折角だから貰っておこうか」
マスターは、更ににやにやした。
「と言うわけで、今日から、君がこの店のマスターだ」
思わず、珈琲を吹き出しそうになった。
「何、言ってるの?」
「俺はオーナーとして、気ままにやらせてもらうよ。ああ、珈琲の入れ方から、依頼の受け方、望みの叶え方まで、みっちりしごくからね。なんせ、君の残りの人生、俺の物だから」
ぼくは目を白黒させた。
「まあ、突然、マスターをやれって言われても、しばらくは、1人じゃどうにもならないだろう。助っ人を雇う事にしたから」
「助っ人?」
「そろそろ来るよ」
Twitterリレー小説「影のないボクと灰色の猫」
02-A14 第十四章:ぼく
書き手:清水はこべ(note、nana)
★続きはこちら(エピローグ)
お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。