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たかのてるこさんを知っていますか?

 もちろん知ってるよ。そう言われたら、後の言葉は続けにくい。

 だって、知っている人には、何の説明もいらない。五月に自主出版された新刊の事も、私が語るまでも無いだろう。ジュンク堂と丸善で取り扱いがある事も、ネットで買える事も、目新しい情報ではないだろうし。

 でも語りたい。たかのてるこさんは、面白くて、パワフルで、繊細で、清々しくて、とにかく素敵なので。著作を読むと、必ず元気になれるので。

 これだけ人々の興味が細分化している昨今だ。きっと、てるこさんを知らない人もいるよね。ちょっと熱く語らせて下さいな。

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 デビュー作がまず衝撃的。大学時代の旅行を描いた紀行エッセイ。タイトルは「ガンジス河でバタフライ」。表紙がてるこさんの写真。大学生のてるこさんが、本当に、ガンジス河でバタフライしている写真。ガンジス河だよ! バタフライだよ!

 内容? もうとにかく、読みながら、お腹抱えて笑いっ放しですよ。電車で読むのは絶対にお勧めできない。だけど、読み終わった時に、しん、とした気持ちになる。文章は瑞々しくて、読後感はひたすら清々しい。

 てるこさんと私は同い年だ。大学生の頃、私は演劇にばかり夢中で、とても世界が狭かった。同じ頃、こんな風に世界を広げていた同い年の人がいたんだなあ。

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 デビュー作を読み終わった直後には、また本屋さんへ飛んでいた。次々と著作を手に入れた。

 著作はほぼすべて、紀行エッセイだ。大学卒業後のてるこさんは、会社に勤めながら、年に一度くらい長めに有休を取って、世界各国を旅していた。その旅が、エッセイという形で書店に並んでいる。

 どの作品も、電車の中では読めない。笑いすぎて変な人になってしまう。なのに、どの作品も、ただ笑えるだけでは終わらない。

 旅の最中には、とても笑えない出来事だって起こる時がある。その事もきちんと書いてある。その時に感じた心の震えを、瑞々しい文章で、克明に。

 そうした笑えない出来事も、笑える出来事も、全部引っくるめて、旅で、人生だという事。旅はやっぱり素敵だ、人生はやっぱり素晴らしい、と言う事。それが、どの著作にも描かれている。読後感はいつも清々しい。

 新しい作品になるほど、その傾向が強まるのは、てるこさんが年齢や経験を重ねる事で、蓄積されていく色んな想いを、そのまま作品で、惜しみ無くシェアしてくれるからだと思う。

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 てるこさんの旅は、観光名所を訪れる事は、ほとんど無い。旅先で面白そうな人に出会うと、一生懸命話しかけて、いつのまにか友達になっている。出会いが出会いを呼んで、縁が縁を繋いでいく。

 どの本も、写真がたくさん掲載されている。笑顔の人達が、たくさん、たくさん、写っている。世界にはこんなに笑顔が溢れているのか、と、幸せな気持ちになる。

 きっと人々の笑顔にカメラを向けながら、てるこさんは、向けられている人と同じくらい笑っているのだと思う。ぐっと心を開いて。

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 震災後、てるこさんが会社を辞めて独立したという話を聞いても、そんなには驚かなかった。ファンとしては、ああ、旅とエッセイをもっと極めていくんだな、楽しみだなあ、としか思わなかった。

 勿論、ご本人にしてみれば、色んな葛藤の上での結論だった事だろう。同い年の会社員としては、ずっと勤めてきた会社を四十代で辞める、という事の重みは、とてもよく理解できる。

 それでも、独立してから、てるこさんの著作が、ますます面白さと清々しさを増しているのが、ファンとしては、ただただ嬉しい。そんな本を読める事に、幸せを感じる。

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 この町に、てるこさんが講演会でやってきた事がある。

 予想通り、キラキラしている人だった。お話も面白かったし、参加者の質問にも率直に答えていて、なおかつ笑いを取っていた。

 何より、笑顔が良かった。

 作り笑顔ではない、百パーセントの笑顔って、こういうものなんだ。心を開くって、こう言う事なんだ。この人がカメラを向けたら、そりゃあ、みんな笑顔になるよなあ。

 実は、その頃の私は、悲しい出来事があったばかりだった。毎日、一応は普通に過ごしていたけれど、何がきっかけになって涙が自動的に出てくるのか、自分でも予測が付かず、少しでも辛く感じる場所や物事を、ひたすら避けていた。

 だけど、てるこさんに直接お会いしたその日から、私はどうにかトンネルを抜ける事が出来たように思う。サイン本のおまけにつけて頂いた、緑の照る照る坊主は、今でも宝物だ。

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 五月に出た新刊「生きるって、なに?」は、自主出版だそうだ。いきつけの本屋には取り扱いが無くて、入手には少し時間がかかった。

 小さな本だ。全てのページがカラー写真で構成されている。世界中のたくさんの人達の笑顔。

 文章はそれほど多くない。声を出して笑えるという訳でもない。

 でも、このところ、自分が漠然と考えていて、言語化できていなかった事が、そこには書いてあった。

 言葉にすればシンプルな事だ。それぞれの人がそれぞれのやり方で、自分の人生を愛する事、楽しむ事の大切さ。

 本当にそれだけが書かれている、シンプルで小さな本だ。世界中の笑顔をその目で見てきた人が、年齢と経験を重ねて、内側から実感を持って語る言葉に、説得力を感じた。読後感はやはり清々しかった。

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 私はとことんインドアな人間だ。休みの日は家の中でごろごろするのが無上の喜び。近所を散歩して、公園でお茶でも飲めば、それで満足、というタイプ。

 こんな私でも、たまには新幹線や飛行機に乗って、少し遠くに出掛けていく。友達に会いに。お芝居を観に。音楽を聴きに。てるこさんと比べると、スケールが小さすぎて笑ってしまう。

 でも、そんなに小さな旅でも、何かしら収穫がある。方向音痴なのでよく道に迷うし、帰宅すると疲れ切って引っくり返ってしまうけど、旅に出る前とは、少し細胞が入れ替わっているのを感じる。

 てるこさんの著作と、個人的な小さな旅が教えてくれるのは、実はいつだって、私達は旅をしている、という事。

 一緒に暮らす大切な家族も、遠くで暮らす大切な友達も、私にとって大切な作品を生み出してくれる、直接は知らない人達も、同じ時代という船に乗り合わせた旅人だ。限られた時間の中で、一緒に過ごせる事への感謝を忘れたくない。

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 てるこさんが、同じ時代という船に乗り合わせている事の幸運を思う。リアルタイムで著作を味わう事が出来て、本当に嬉しい。

 次はどんな旅をシェアしてくれるだろう。とても楽しみにしています。

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