見出し画像

三分豚足の秘密【ショートショート】【30日間毎日note:その13】


 玄関を入ると、醤油と砂糖の混じった湯気の匂いがした。

「適当に座ってて」

 初めて入った彼の部屋は、キッチンが充実していた。棚には、沢山のスパイスと調理器具。

 その日のメインは、初めて見る肉の煮込みだった。ほろりと柔らかく、舌の上で溶けた。

「美味しい!」

「良かった。俺に作れる一番のご馳走なんだ」

「何て料理?」

「三分豚足」

「えっ! これ、三分で出来るの?」

「いや、手間が掛かるよ。何でこんな名前なんだろな。昔、母親が友達に教わった料理らしい。けど、その友達も由来を知らなかったみたい」

⭐︎

 そんな会話と、料理の味は覚えている。

 好きだった筈の笑顔は、もう思い出せない。

⭐︎

「お母さん、これ、どうして『三分豚足』っていうの?」

 娘が尋ねる。

「分からない。昔、友達に教わった料理だけど、友達も由来を知らなくて」

 ——お母様から、あなたにレシピが伝わった時も、こんな感じだったのかな。

 何食わぬ顔で娘に答えながら、胸の中で、遠い笑顔に語りかけた。




田原にかさんの企画、「毎週ショートショートnote」に参加しました。

お題は「三分豚足」。

「半分ろうそく」の裏お題です。


★表のお題「半分ろうそく」への参加作品は、こちら。


タイトル画像は、yukiotaさん
みんなのフォトギャラリーから使わせて頂きました。
ありがとうございます。


★お詫び 

間違えて、校正完了前に、公開してしまい、下書きに戻しました。
校正完了後、再投稿したのがこちらです。
田原にかさん、yukiotaさん、通知失礼しました。
もしかして、間違い投稿を見つけて下さった方も、ごめんなさい。

お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。