三分豚足の秘密【ショートショート】【30日間毎日note:その13】
玄関を入ると、醤油と砂糖の混じった湯気の匂いがした。
「適当に座ってて」
初めて入った彼の部屋は、キッチンが充実していた。棚には、沢山のスパイスと調理器具。
その日のメインは、初めて見る肉の煮込みだった。ほろりと柔らかく、舌の上で溶けた。
「美味しい!」
「良かった。俺に作れる一番のご馳走なんだ」
「何て料理?」
「三分豚足」
「えっ! これ、三分で出来るの?」
「いや、手間が掛かるよ。何でこんな名前なんだろな。昔、母親が友達に教わった料理らしい。けど、その友達も由来を知らなかったみたい」
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そんな会話と、料理の味は覚えている。
好きだった筈の笑顔は、もう思い出せない。
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「お母さん、これ、どうして『三分豚足』っていうの?」
娘が尋ねる。
「分からない。昔、友達に教わった料理だけど、友達も由来を知らなくて」
——お母様から、あなたにレシピが伝わった時も、こんな感じだったのかな。
何食わぬ顔で娘に答えながら、胸の中で、遠い笑顔に語りかけた。
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