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「レジ袋メイワク物語」#4 大人の自由研究

分解が面倒では、割に合わない


人が暮らしていくには、節制だけでは息苦しくなってしまいます。CO2増加と、日本の145年間の温度変化は相関が見えないことが判りました。更に企業努力によって少ない資源でも、サービスの質を落とさずに暮らせる社会に転換してきました。

「絞った雑巾」に新たな改善の道を見い出すには、今の産業構造に立脚したうえで心地よい生活への意識変化が必要です。

今までは、我慢を重ねて倹約に勤めた社会の改善でした。
しかし今以上に倹約を続けることは難しいです。

現代の生活を向上させた様々な製品は、鉄・ガラス・樹脂・ゴムなど多様な素材を複合的に組み合わせて機能や性能を実現しました。特に電気製品や自動車などは、部品点数・素材の種類も多岐に亘っています。

例えば、クルマのタイヤはゴムと鉄の2つの素材でできています。
(実際はもう少し複雑ですが、簡略して例示します。)
廃棄や再生をする時、夫々の素材はどうしたら活かせるでしょうか?

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まずは、部品を分解しなければ始まりません。
ゴムのタイヤと鉄のホイールを分離したらやっと処分ができます。

鉄は高温で溶かせば再び鉄にできます。しかし、ゴムは高温で溶かしても再び同じゴムに戻せません。詳しい説明を省きますが、処分が簡単ではない理由に分解のしにくさがあります。

スマホも電子基板や電池・ガラスモニターなど複雑に組み合わされて異素材を多く用いています。

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今までの物づくりは、目的の機能を実現することのみを考えて、複雑な部品が産みだされました。

しかし、役割が終わって処分する時、素材を分離して選別するのは、製品を作る以上に手間が掛かります。環境への影響が見過ごされた時代は、面倒な手間を避けて全てを焼却して済ませていました。


素材組合せの弊害、「分解性能・素材統一性」という新基準


「PETボトル」の項で、アルミ蒸着フィルムリサイクルできないことを紹介しました。まさにタイヤのゴムと同じ問題を含んでいます。

今までの部品開発は、設計要件から分解しやすさがおろそかでした。しかし、廃棄や分別が当たり前になった時代には相応しくありません。

アルミ蒸着フィルムは、酸素と水分の遮蔽に必要な機能材なのですが、樹脂の薄膜にアルミを薄く固着させるので、積層した金属と樹脂は、熱で溶かす時に樹脂とアルミが混ざり込んで再生しにくいのです。

今後、更に環境の負荷を下げるには分解を簡単にしたり、異素材の組み合わせを少なくしたり、同種の素材で機能部品を作り出すような工夫が望まれます。

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分解が簡単になれば、取り出して活かせる素材が増えますし、素材種が減れば少ない処理で再活用できます。素材が同一であればひとつの加工で処分できます。 近年、メーカーの物作り方法(主に設計についての考え方)を、環境負荷の視点で捉えると感心できないなと思います。

特に酷いと感じるのはAppleです。

自身も愛用しているし、その製品を快適に使うための製品開発をしていますが、往時のジョブズが存命の頃のAppleは、自社製品の保守についてそこそこサードパーティの部品をオープンに流用や組み込みができたり、ソフトについてもユーザーが手を加えられる自由度がありました。そのオープンさがApple製品の良さでもあり、保守が稚拙な点をオープンさで補っていました。

iPhoneを発売し出した頃を境に、ハードとソフトの囲い込む方針に変わり、保守についても外部が手を加える事を強く制限するようになりました。分解がしにくくなり、バッテリーは数時間しかもたず、毎年大した差がないモデルを「CPUが早い!、画面がきれい!、カメラの画質が向上!程度の謳い文句(カメラの売り文句ですか?)で売り出し、翌年も似たり寄ったりのセールスポイント。手元から落とせば一発で壊れる華奢なボディ、分解しにくい上に、純正パーツはすぐに手に入らない、窓口で数時間も待たせたうえに、満足に直せなかったり、挙句に新しい製品への買い替えを進めたり、経済合理性の権化のようです。工業製品は、物理的に少なからず10年オーダーの耐久性があります。言葉を換えれば、壊れにくさ、朽ちにくさがあります。経済合理性では、どんどん製品をつくり、毎年陳腐化させ、買い替えを促すことが善かもしれません… 蒼臭いかもしれませんが、ひとかた也の企業は、それに応じた社会的な責任を自覚して経済と環境に向き合うべきでしょう。


サステナブルな社会目標に照らして、物事を多元的に捉えれば、設計方法によって燃やす他なかった今までの部品や製品を「サステナブル・エンジニアリング」の視点を盛り込めば、分解性と素材の統一性を工夫し、ひとつの製品に「第一の機能」「第二の機能」「第三の機能」と多元的な枠割を与えられるかもしれません。そうすれば副次的に長く製品や資源を活かす道が拓けます。


排出したCO2は、健康な森で吸収しよう



人が社会活動をすればCO2が発生してしまいます。いくら無駄を排しても、社会の大きさに応じた排出は0にできません。

さりとて、CO2を増やし過ぎるのも悩ましい…

「自然・生物・人の社会」を大きくひとつに捉えれば、森と河と海は複雑な循環で繋がっています。

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現代は都市に人口が集まり、緑と人の距離が開き森林が荒れています。大戦後日本の森は住宅復興の一環として、建材向けのヒノキやスギがたくさん植樹されました。

住宅事情が満たされる中で、コスト圧力で外産材が国産材の活用を阻み国内林業全体が疲弊しています。戦後にできた人工林は、原生林と樹種が異なり人が手入れしないと荒れ果て、森のCO2吸収力が衰えます。

森林荒廃の改善には、国内の森林資源を産業として成り立たせる必要があります。産業的な価値を失い人の手が入らなくなった植樹林は、木枯れを起こしやすく根緩みによる倒木や地滑り・水害・土砂災害などを誘発します。

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産業として林業を立て直すには、国産木材の社会活用が必要です。生活の中で木材を原料にした製品を使うことは産業を助けます。国産木を活かせば、森の手入れが進みCO2の吸収効果が向上します。

人は息をするとCO2を吐き出します。物を燃やしてもCO2がでます。人類がCO2と共にあるのなら、空気をきれいにする森をないがしろにできません。

わたしたちは、息を止められずゴミを燃やすことを0のできないのなら、国内の森に手を入れ、木の成長スピードとバランスを取りながら、自然と持続可能な「消費」サイクルを築くことが必要です。


新しい豊かさを「消費」で実現するには?


デフレ下の平成の20年間は、バブルの反省から「CO2削減」が耳障りよいキーワードでした。官民が取り組んだ社会転換は、少ない資源を活かしながらサービスの質を損なわない仕組みへと見直されてきました。

しかし世界全体では、スローガンに反して資源を浪費しています。環境負荷を抑えながら経済が持続できる消費の形は、どうのような姿が望まれるでしょうか。

過去のエントリー「里山の持続性を、今の暮らしに活かす。」で里山と古民家の生活を例に、森から木を採り、柱・手道具・薪を暮らしに使い尽くして、最後に畑の土に戻せたことをお話ししました。

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里山と古民家にあった生活の智慧には、どんな樹木が何に使えて?どこまで使い尽くせるかが、お百姓さんの手仕事として暮らしに息づいていました。

街が大きくなり、森から離れたライフスタイルに移り変わることで、人が大きな自然から隔絶され、手仕事の中にあった智慧が失われています。私たちは物事が一面しか見えず多様な価値を活かせていないのかもしれません。


「消費」から「承費」へ


人が物を使うことを「消費《なくし・ついやす》」と書き表すのは、里山の手仕事にあった智慧を思い出せなくしてるかもしれません。

「消費」「承費《うけつぎ・ついやす》」書き換えたらどうでしょう。

木のお箸《例えば割り箸》は、木が原料の簡便な使い捨て箸ですが、BBQの時に、炭火の焚付けで使ったり箸を蒔きに焚べた経験はありませんか?

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食卓で使うお箸も、木ですから燃やせそうですよね。

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資源は、手の加え方によって多面的な性質を現します。

発想を変えると、道具としての木材も、燃料としての木も素材の性質は変わりません。燃やして残る灰の質まで考慮して生産すれば土に還しても植物に悪さをしない機能材に成り得ます。


「レジ袋の有料化」は愚策。


日本は、国民や企業と行政が工夫を重ねて環境改善を進めてきました。しかし闇雲な削減一辺倒ではそろそろ限界かもしれません。

環境施策と経済施策は相互に影響を及ぼすので、日本社会の様々な分野で複合的にバランスを取りながら進めることが肝要です。

環境省次官やセクシー大臣が「有料レジ袋化」を

「税収改善の効果が乏しく、国民教育のため」

…との趣旨の発言をして批判されています。この程度の見識で実行しては、国民総出でゴミとCO2削減に努めた社会を納得させるには甚だお粗末です。

yahoo:
https://news.yahoo.co.jp/articles/74a99c4ffd2915cb5b87ac07760f526701434a0b

「レジ袋の有料化」の課税商品の購入を罰することと同じです。罰則税は便益を強く抑制します。

環境負荷の低減が進んできたのに、GDPが通年4割減となりそうな景気悪化の情勢に(前期比で27.8%)、レジ袋を有料化して消費を制限する必要性は乏しいと指弾されて仕方ありません。

ピントがボケた節約意識は、経済成長をおざなりにします。物事には、関連付けてよいトピックと悪いトピックがありますが、CO2増加と気温上昇の因果関係については、縷々現実を見渡すと正しい相関について疑義もあり慎重な見極めが必要です。

なにより「10%増税の不況」と「パンデミック不況」によって、経済が著しく疲弊している現在には相応しいとは言い難いです。思慮に欠けた、レジ袋の有料化はたいへんな迷惑です。


自由研究の発表は以上です。

お読みくださり大変ありがとうございました。
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もっと簡単に、肩肘張らずに書くつもりでしたが、堅苦しい書きぶりになってしまいました。 m(_ _)m ご容赦ください。


追記:note の記事で、前々から注目していたナノセルロースについてインタビューがありました。この材について樹脂の代替素材への実用化に期待をしています。

木材のセルロースを細かく微粒子化することで、透明度やプラ樹脂と似た物性を持たせられる技術です。

実用化に期待する理由は、プラスチックの樹脂が石油から作られるのに対して、ナノセルロースは、木材を原料にするので、国内の遊休林を活かすことができ、樹脂原料の地産地消が可能になります。

現在、私たちの製品は、木材に絞って開発を進めていますが、ナノセルロースが実用化した暁には是非とも取り上げてみたいと期待しています。

セルロースナノファイバーについて。

https://found.media/n/nf3d70e36783c?magazine_key=m6363f6fac6ca

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