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日本のものづくりの特徴は「多様性」と「もったいない」?!

■日本の消費者の特徴

日本の消費者は、高度経済成長期を経て、その後の経済の成熟と変遷を経験してきました。このことが、現在の日本の消費者行動に深く影響を与えています。

1950年代から1970年代にかけての高度経済成長期には、日本経済は急速な発展を遂げ、国民の生活水準は大幅に向上しました。品質の高い製品が市場に適切な価格で供給され、基本的な生活ニーズが満たされたことで、消費者の行動や嗜好は多様化し、個々のニーズに合わせた製品やサービスへの要求が高まりました。

しかし、1990年代初頭のバブル経済崩壊後、日本は長期にわたるデフレ期に突入します。この時期、消費者は価格に対して非常に敏感になり、コストパフォーマンスを重視する傾向が強まりました。単に安いだけでなく、品質や機能性、デザインなど、多様な価値を求めるのが日本の消費者の特徴です。

また、大量生産、大量消費の時代を経て、環境問題への意識の高まりと共に、「もったいない」すなわちものを大切にしてなるべく長く使うことで無駄を避けるという伝統的な日本の価値観が再び注目されるようになり、持続可能な消費行動への関心が高まっています。

このような変遷を経て、現在の日本の消費者は、自分自身のライフスタイルや価値観にフィットした製品を選ぶ傾向が強まっています。野村総合研究所の「生活者1万人アンケート調査」では、3年おきに、日本の消費者の消費スタイルについて定点観測しています。

「安さ納得消費」スタイル(製品にこだわりはなく安ければよい)の消費者が2000年には40%を占めていたのが2021年には24%まで低下したのに対し、「利便性消費」スタイル(購入する際に安さよりも利便性を重視)の消費者が37%から41%、「プレミアム消費」(自分が気に入った付加価値には対価を払う)スタイルの消費者が13%から24%と増加しています。(図-1)


出所)野村総合研究所
「生活者1万人アンケート(9回目)にみる日本人の価値観・消費行動の変化」を元に筆者作成

■多品種少量生産に適応できた日本の製造業
伝統的に、工場は規格化された製品を大量に生産するための装置として機能してきました。これは、大量生産・大量消費の時代においては効率的で経済的な生産方式でした。しかし、消費者のニーズが多様化し、個々の要望に応える必要が生じたことで、多品種少量生産の需要が高まりました。

日本の製造業は、ものづくりの伝統、すなわち職人芸や細部に至るまでのこだわりという文化を受け継いでいます。このことが顧客のニーズに応じた製造ラインの柔軟な組み替えや効率的な在庫管理を受け入れる基盤となりました。トヨタ生産方式に源流を持つリーン生産システムやカイゼンを取り入れることで、生産プロセスの柔軟性を高め、多品種少量生産に適応しました。

これらの手法は、無駄を排除し、生産効率を最大化することを目指しています。その結果、少ないリソースで多様な製品を効率的に生産することが可能になりました。

しかし、この生産方式にはいくつかの問題も生じています。

第一に、多品種少量生産は、生産管理が複雑になることを意味します。各製品の生産計画、在庫管理、品質管理など、管理すべき要素が増加し、それに伴うコストも増大します。
第二に、生産ラインの頻繁な変更は、労働者に高いスキルと柔軟性を要求します。これは、熟練労働者への依存度を高め、人材不足の問題を引き起こす可能性があります。さらに、市場の変動に迅速に対応する必要があるため、予測が困難な場合、過剰在庫や品切れといった問題が生じることもあります。

こうした要素は生産コスト、ひいては製品価格に反映されます。バブル崩壊やリーマンショック、長期間続くデフレ傾向により、消費者の多様なニーズに応えつつもコストを抑えるための効率化が求められるようになりました。

■マスカスタマイゼーションによる解決

マスカスタマイゼーションは顧客ニーズの多様化と大量生産の効率性を両立するソリューションです。デジタル技術、特にデータ分析、AI、3Dプリンティング、クラウドコンピューティングなどの技術の進歩により、顧客のオーダー、生産計画システム、製造プロセスを連結して、カスタマイズされた製品の受注から生産までを自動化することが可能になりました。これにより、消費者の個別のニーズに対応しながら効率的な生産が可能になります。

マスカスタマイゼーションは様々な分野で取り入れられています。以下にいくつかの例を紹介します。

紳士服メーカーのコナカが展開するオーダースーツブランドDIFFERENCEは、スーツやシャツなどのアイテムをカスタムオーダーで提供します。店頭で採寸を行い、形とボタン、裏地などのオプションを選択して工場に送信すると、工場でパターンを作成して裁断、縫製を行い、最短2週間でオーダースーツが完成します。採寸データは記録されているので、2度目以降はアプリでアイテムや生地を選ぶだけでオーダーが完了します。

ユニクロのUTme! は、スマートフォンのアプリを使って作成したオリジナルデザインのTシャツ、パーカー、トートバッグが1点から作成できるサービスです。作成したデザインは、UTme!マーケットで販売することが可能です。消費者は自分の好みの商品を購入できるだけでなく、自分のデザインした商品を販売することが可能になります。

ネスレのチョコラボは、オンラインで写真やメッセージを入力してオリジナルパッケージのキットカットを作成できるサービスです。10個~20個程度の小ロットで注文でき、記念日のギフトやイベントでの配布に利用されています。

自動車業界では、発注時に色、パーツの選択、オプションの装備などによるマスカスタマイゼーションが以前から行われています。よりカスタマイズの範囲を広げ、顧客のニーズに応えるための技術開発が行われています。例えば、日産自動車が2019年に公開した対向式ダイレス成形は、金型を使わず2台のロボットで薄鋼板を成形する技術です。この技術で、カスタマイズ部品や既に生産が停止された補修部品の少量生産などが可能になると期待されています。

■「長く大切に使う」ためのものづくり

昨今の日本の製造業では、製品をできるだけ長く使うために、設計段階から配慮がされています。

配慮の一つは、修理・交換に必要な部品の標準化です。製造業者は、製品が廃盤になった後も一定期間重要な交換部品は提供しますが、その期間が過ぎた後に製品が故障した場合、部品がなくては修理ができません。部品を標準化することで、製品間の互換性が高まり、部品の在庫管理や供給が容易になり、後継製品の部品を流用することで修理が可能となります。

もう一つは、設計のモジュール化です。これにより、特定の部分のみ修理したり交換することで、製品を長く使い続けることができます。また、モジュールを交換することで製品自体のアップグレードや機能追加が可能となります。

インターネットを利用して、不調時に状態をリモートで診断できるサービスも提供され始めています。パナソニックは、対応家電を専用アプリに登録することで、通常1年間のメーカー保証を3年に延長する「IoT延長保証サービス」を開始しました。

これに伴い、IoT対応のエアコンと冷蔵庫について、状況把握と故障検知をリモートで行う遠隔診断サービスを提供しています。消費者の利便性を高めるとともに、家庭における製品の使用状況や故障のデータを蓄積することで、製品開発へのフィードバックが期待されます。(板垣朝子)

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

出展に関する詳細&ご案内はこちらからご覧ください。

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