目指すはお客さまのビジネスパートナー。SmartHRアカウントサクセスの役割と挑戦
SmartHRでは2024年1月から、エンタープライズ領域のカスタマーサクセス組織に「アカウントサクセス」という新部門を立ち上げました。主にエンタープライズ企業に対してSmartHR導入から運用拡大に向けたプロジェクトマネジメントを行い、お客さまの働き方改革を支援する役割です。
SmartHRの活用のみならず、お客さまの経営戦略も見据えて伴走するアカウントサクセスの挑戦について、組織を率いる児玉さん、中村さん、生井さんに話を聞きました。
経営戦略や人事戦略にも踏み込み、解決できる課題を見極める
──まず、アカウントサクセスの役割を教えてください。
児玉:アカウントサクセスの役割は大きく2つです。ひとつは、お客さまにSmartHRを使いこなしていただき業務に定着させるまでの導入プロジェクトをリードする役割。そして次のフェーズとして、お客さまとの関係を深め、継続的に新たなプロダクトの提案や導入を進めていく役割です。
アカウントサクセスとは、「SmartHRが持っているあらゆる武器を活用し、あらゆるステークホルダーを巻き込みながらお客さまに提供する価値を最大化する。そして、その価値を享受いただいた結果としてご契約範囲を最大化する、その推進役」だと、私は考えています。
──SmartHRでは、もともとカスタマーサクセス部門にエンタープライズ企業の担当がいる体制でした。アカウントサクセスを新設したのはどういった背景からでしょうか?
児玉:全社一丸でマルチプロダクト戦略を加速する中、各プロダクトに特化したカスタマーサクセスマネージャー(以下CSM)に加えて、複数のプロダクトを横断的に見て、全体最適の視点で提案する役割が必要だと新たに感じるようになったのが理由のひとつです。
CSMは日々の運用の細やかな点までフォローして、お客さまにSmartHRを使いこなしていただく役割を担っています。しかしプロダクトが増え続ける中、ひとりのCSMがすべてのプロダクトの専門性を極めていくのでは、いずれキャパシティに限界を迎えます。
そこで、プロダクトに特化するCSMに加えて、プロジェクト全体を統括し、全体最適を目指す提案によって顧客への価値を最大化するアカウントサクセスが必要だと考えポジションを新設しました。
中村:大きな企業の場合、「人事」とひと言で言っても労務、企画、採用、HRBP……といった具合に担当者も細分化しています。私たちが提供するプロダクトの増加に伴い、相対する部門も多様です。そこで、全体を取りまとめる役割がますます重要になってきていますね。
生井:エンタープライズ企業の導入社数もプロダクトも増加していく中、案件が高度化していることもアカウントサクセスの必要性を高めています。数年計画でSmartHRの導入を順次、着実に進めていくプロジェクトもあれば、導入時から労務管理やタレントマネジメントなど複数の領域に興味をもってトータルで導入を進めるプロジェクトもある。その属性によって支援の手段も変わってきます。そこでカスタマーサクセスも、攻めと守りの両方の姿勢が必要になってきました。
児玉:また、プロダクトで解決できる領域が広がり、SmartHRとして解決できる課題、いわばプロジェクトスコープが大きくなると、日々やり取りするお相手が自ずとお客さまの上位役職者の方々になってきます。そういった役職者の方々との経営戦略、そこを叶える人事戦略に紐づいたディスカッションの機会がこれまで以上に増えているのが現状です。そこで求められるスキルや経験はCSMとは異なる部分も多く、役割を分けた経緯もあります。
──CSMとは性格の異なる役割を担っているんですね。
生井:アカウントサクセスは、コンサルタントの動きに近いところがありますね。目前の課題を解決するためのプロジェクトをお客さまと進めつつも、中長期的な視点で議論し課題を顕在化させ、未来の取組みを拡大する提案をしていきます。
児玉:相対するお客さまも役職者の方が多いため、こちらとしても説得力のある振る舞いが求められます。そういう意味でも、落ち着いた雰囲気のメンバーが多いかもしれません。
──それぞれの役割で力を発揮するチームになっているんですね。
児玉:そうですね。体制としては、ご契約いただいているプロダクトの領域ごとにCSMがつき、そこに全体を束ねるアカウントサクセスが加わる形になっています。できたばかりの組織で人手が足りない状況でもあるので、アカウントサクセスがつかずCSMのみでご支援にあたっている企業もあります。
中村:今、アカウントサクセスがカバーできているのは、契約しているエンタープライズ企業の半分以下です。体制の整備が目下の課題ですね。
ボトムアップでポジションを立ち上げ、議論と実践を重ねてきた
──組織改編は経営サイドの判断で行われたのでしょうか?
児玉:カスタマーサクセスの体制はこうすべき、と経営層からトップダウンで指示が来ることは、今回もそしてこれまでもなかったです。基本的には、カスタマーサクセスのメンバーから日々あがってくる現場の課題感をベースに、また中長期で見据える事業展開をベースに今後の組織としての最適解を議論して、ある程度の仮説を持って意思決定しています。
生井:経営戦略として、タレントマネジメント領域に進出する、マルチプロダクトに舵を切っていくという意思決定があり、それを受けて、組織のあるべき姿を話し合っていきましたね。
──必要を感じてボトムアップでポジションが生まれたんですね。
児玉:現場で感じていたリアルな話をすると、「事業としてはタレントマネジメント領域に進出します」「プロダクトもリリースされました」という中で、僕たちが向き合うお客さまは労務の担当者で。「タレントマネジメントの導入、いかがですか?」と話を持ちかけても、ご担当の方も自身の担当領域ではないので困らせてしまうこともありました。かといって人事企画や他部署の方を紹介していただけませんかとお願いしても、大きな企業ではなかなか部署を横断して物事を動かしていただくことが難しい、という状況がほとんどです。
マルチプロダクト化を進めながら顧客との関係を深めていくには、このままの体制では埒があかないなと。営業的な動きも含めて、時間をかけて違う手法でアプローチしていく必要を感じていました。
生井:カスタマーサクセス部門でエンタープライズ企業を担当していたメンバーが中心になって、アカウントサクセスの組織を立ち上げました。
これまでのコアスキルとは異なるアカウントマネジメントのスキルを、個人としても組織としても新しく身につけなければならないというのが課題で。顧客と目線を合わせて中長期的な視点でプロジェクトを動かすには、どのようなプランニングが必要なのか、メンバー同士で話し合いながら仕組みをブラッシュアップしていきました。
さらに、アカウントマネジメントの経験者の採用にも力を入れていきました。戦力になってくれる新しいメンバーの力も借りながら、組織の力を向上させていっています。
中村:導入いただいた企業に対して、契約を継続していただきながら、さらにその企業の経営課題なども見据えて新たな提案をするというのは、営業的なスキルなんですよね。過渡期のカスタマーサクセスにはそのノウハウが不足していました。アカウントサクセスを立ち上げて、メンバー間で情報共有しながらノウハウを積んできて、今はようやく役職者の方々、いわゆる決裁層にアプローチできる体制ができてきたなというところです。
児玉:部長・役員クラスの方々に対してすべきことは、いち機能の活用提案ではありません。IRや中期経営計画も見ながら、人事戦略やDX戦略の推進において課題になっていそうなことを仮説立てて、メンバーみんなでレビューしながら資料に落として提案して……ここまで随分と手探りでやってきました。
今はやっとアカウントサクセスが「御社のSmartHR活用の責任者として参画し、体制を強化させていただきます」とSmartHR社としての姿勢を示すことで、決裁権をお持ちのの方々との関係構築の糸口をつかむことができるようになってきました。
それはCSMが導入プロジェクトの推進や、機能を活用いただくためのオンボーディングを適切に行い、お客さまの満足度を向上させてくれていることを前提になしえていることで。彼らが築いてきた信頼をベースにさらにSmartHRの価値を最大化していけるよう、実践の中で学びながら組織としての力をつけています。
人事領域の課題が出てきた時、第一想起していただける存在になりたい
──アカウントサクセスを立ち上げてまだ1年も経たないところですが、手応えを感じていることはありますか?
中村:お客さまの事業戦略から紐解いて対峙することで、顧客理解は深まってきています。決裁層の方々を意識したアプローチも注力してやってきたので、開拓は進んでいるかなと。実際に追加のご契約に向けて創出された商談の件数もかなり増えてきていて、お客さまとの関係構築が進んだ結果として、実質的な事業貢献に繋がってきている自負はあります。
生井:企業の未来をより広く、より長い時間軸で考えられる役職者の方々と面談する機会が増え、人事課題についてもより踏み込んでお話をさせていただくようになり、その過程でエクスパンション活動に繋がる動きも増えてきましたね。
児玉:ひとつ具体的なエピソードをお話しすると──先日とあるお客さまを訪問した時のことです。これまでお会いする機会のなかった人事担当役員の方に時間をいただけるとのことで、私も同行しました。ミーティングの時間を2時間ほどいただき、導入の振り返りや今後の活用スケジュールの話をしたうえで、フリーディスカッションになりました。お客さまのIR情報なども見ながら議論をさせていただき、いくつかお役に立てそうな領域も見えてきたという良好な状態でミーティングを終える流れとなりました。そのタイミングで、役員の方が「ちょっといいですか」と。実は自社の人事評価制度にジェンダーバランスの課題があると感じているというのです。
その日ミーティングに参加した当社のメンバーは、4人中2人が女性でその場でも活躍していました。それをご覧になった役員の方から「ベンチャーで勢いもある会社の人事評価がどうなっているのか、その裏側の意図やそこに込められた想いを知りたい。当社の人事担当ともディスカッションさせてもらえないか」とご相談いただいたんです。
アカウントサクセスとしては、お客さまから信頼いただけるビジネスパートナーになりたいという想いを常に持っています。お声かけをいただいて、まさにその第一歩が踏み出せていると実感することができました。アカウントサクセスというポジションをつくって、お客さまの事業にさらに踏み込んだ活動をしてきたからこそだなと感じた瞬間でしたね。
──プロダクトに紐づいたDX推進のみならず、さらに上位レイヤーの設計の部分まで一緒に考えていけるビジネスパートナーになる、という意識をもって対峙しているんですね。
児玉:制度設計の部分からお声かけいただいたのはすごく嬉しかったですね。プロダクトの機能ベースで相談していただく段階からさらに進んで、人事領域でちょっと頭を悩ませる課題が出てきた時に「これってSmartHRでなんとかならないかな?」と第一想起していただけるような存在になることが重要です。そこまでの信頼関係を築くことができれば、僕たちが価値を提供できる範囲がさらに広がっていきます。
ひとつの事例をお話しましたが、ほかにもお客さまから「人事周りのシステム全体を見直すことになったけれど、どう進めたらいいのかわからない。相談に乗ってもらえないか?」と、システム設計の初期の段階から声をかけていただく機会も増えてきました。
──お客さまのニーズ起点の場合、自社のプロダクトだけでは対応できない領域も出てくると思います。どのように対応するのでしょうか?
中村:今は対応できなくても将来的にはソリューションを提供できる場合もあるので、率直にお伝えして待っていただくこともあります。お客さまから出た要望は社内にフィードバックしますし、レアケースではありますが「一緒に機能開発しましょう」と密にお客さまからご意見いただき、議論を重ねながら機能開発を推進することもあります。案件規模が大きいエンタープライズ企業ならではですね。
今は他社とのパートナー連携も整備されてきているので、SmartHRだけではなくパートナーのサービスとうまくタッグを組んで提案できるようにもなっています。最近は、プロダクトの対応領域でつまずくことは少なくなりましたね。
児玉:SmartHRでは「SmartHR Plus」というアプリストア事業も展開しています。SmartHRのデータベースを活用して、協業しているパートナーさんがアプリを開発し利用できるようにする仕組みで、それも含めて提案していくこともあります。提案の引き出しが増えている感覚はあり、完全にお手上げというケースは、人事領域ではほとんど発生しないですね。
といっても、今はSaaS、ERPはどこもマルチプロダクトでしのぎを削る時代です。特にエンタープライズ企業は数も限られ、誰もが契約獲得に向けてトライを重ねています。たとえ今、問題なく活用していただいていても、あずかり知らぬところで競合他社の提案が進んでいて、ひっくり返ることも当然のようにある世界です。
だからこそ僕たちは、“お客さまがSmartHRから離れられないほどに価値を感じていただける状態”を作る必要がありますし、その時にアカウントサクセスの役割は非常に重要です。
お客さまに伴走し続けながら“well-working”を追求していける仕事
──アカウントサクセスとして手応えも感じてきている今、この仕事の醍醐味をどう感じているか教えてください。
中村:国内でも名だたる企業がカウンターパートで、その経営層に近い方とお話しできるのは面白いところです。当然自分もスキルアップしなければならないですし、やり取りから学ぶこともたくさんあります。今はSmartHRの導入状況もよく、ブランディングが進んできているのにも後押しされているので、非常に良いフェーズに来ているなと感じますね。
生井:ありがたいことに日本を代表するような企業さまの導入も増えています。SmartHRを通じて人々の役に立っている、私たちが市場を切り拓いているという手触り感を持ちながら仕事ができるのは醍醐味だと感じます。
社内的な観点でいうと、エンタープライズ領域は1社あたりのご利用金額が大きく、中長期的に取組みを継続・拡大していくことで、SmartHRの収益を大きく積み上げていくことにも繋がります。その収益がベースとなって、さらなる採用、あるいは会社としての思い切った戦略を意思決定できるようになる。我々が、社の屋台骨を支えているんだという自負をもって日々の仕事に向き合っています。
児玉:僕からはビジョン観点の話を。SmartHRは、スケールアップ企業としてますます成長を加速させています。プロダクトも良いものが揃ってきて、カスタマーサクセスも一丸となってお客さまにとっての価値を考え、議論して、創意工夫で良い提案をお持ちし、活用いただけるようになってきました。
その先に、SmartHRのミッションである「well-working 労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」の実現がある。僕個人としては、それがひとつの理想的な社会のあり方だと考えています。そして僕にとっては、お客さまと一緒にその理想を追求していけるのがアカウントサクセスという仕事なんです。
相対するお客さまにその時々で提供する価値を最大化するのが目標ですが、そこには終わりがありません。時代が変われば世の中のスタンダードも変わりますし、その先にあるその時代の“well-working”を考えると顧客に価値を届ける、ひいては社会を良くするということにゴールはないわけで。目指すべき姿がどんどん変わっていく中で、お客さまに伴走し続けながら“well-working”を追求していけるのがSmartHRのアカウントサクセスで働く醍醐味だなと思っています。
カスタマーサクセスの“極み”、そこから広がる多様なキャリアパス
──最後にアカウントサクセスのキャリアパスについても聞かせてください。入口と出口、いずれもどんなキャリアパスが想定できるでしょうか?
中村:アカウントサクセスは、社内外のいろいろな場面でハブの役割を担います。セールスや開発組織、社外の事業パートナーなど、やり取りをするポジションが多様で、他のポジションのことも理解できていないと務まらない仕事だと思います。将来的なキャリアチェンジを考えても出口は多いですね。セールスやPMM、あとは経営企画へのキャリアパスもあります。
生井:コンサルティングの要素も含まれるので、コンサル、営業職からアカウントサクセスへキャリアチェンジしてくる人は多いですね。自社プロダクトを持ったうえでコンサルティングのスキルを発揮できるという、非常に良い環境のポジションです。
児玉:もちろん、CSMからアカウントサクセスへのキャリアパスもあります。アカウントサクセスは、カスタマーサクセスの“極み”だと思っていて。日々取り組む仕事は難しいですが、エキサイティングで事業の成長をドライブしている感覚を持てます。お客さまへの価値提供にこだわりたい、カスタマーサクセスをとことん突き詰めたいという人に、ぜひ仲間になってほしいですね。
制作協力:イトウヒロコ
撮影:@ishimayu(SmartHR)