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西九州新幹線開業をまったく喜べない理由を書いてみた。

本日9月23日、西九州新幹線が開業しました。ただし、開業するのは、武雄温泉駅~長崎駅なので、博多駅~武雄温泉駅間は、在来線特急リレーかもめが走ります。
武雄温泉を経由する博多~佐世保の特急みどりにも、飛行機でいうコードシェアのような形でリレーかもめとしての役割を付与します。そのため、リレーかもめ、みどりで共通の特急の番号が割り振られます。

九州人の一人として、この西九州新幹線の開業、まったく喜べません。理由はシンプルです。

この先、お先真っ暗だからです。

なぜならば、この西九州新幹線、これまでの経緯もさることながら、武雄温泉~新鳥栖間をどのように整備するかの方針が全く立っていないという、これからのことも含め、関係者の対応があまりに酷いからです。

さらに、この問題は根が深く、根が深いだけに強引な解決が図られようとしていることに強い危惧を覚えるのです。

西九州新幹線、問題がいくつもあることをご存じない方も多いと思います。トラベル系YouTuberのスーツさんがうまくまとめておられます。

正論でしかない佐賀県の主張と結論ありきのJR九州

佐賀県の主張が西九州新幹線の問題を突きつけています。

焦点は2つでしょう。
・フル規格で整備してしまえば、在来線はJR九州から経営分離されてしまう。地域の足としての鉄道網が脅かされる。
・フリーゲージトレイン(FGT)を導入するという約束で、同意した以上、開発がとん挫したなら、議論は白紙になるのは当然である。それどころか、一度たりとも望んだことのないフル規格で整備を強いられるの理不尽である。

正論ですし、佐賀県がごねているので西九州新幹線が実現しないなどという言説が一部でありますが、まったくの誤りです。

最後は政治力でねじ伏せて、武雄温泉~新鳥栖間をフル規格でつなげるのでしょうか。

武雄温泉~長崎をフル規格で整備したから、投資効果のためには、武雄温泉~新鳥栖もフル規格で・・・というのは、JR九州が目論んだシナリオであろうと思いますが、ハッキリいって愚かな思考としか思えません。

ビックチャンスと考えられない思考

私は、問題をこじらせている最大の理由は、佐賀県の主張ではなく、FGTを早々と放棄していることだと思います。実は、FGTが開発できれば案外問題は先に進展します。佐賀県もFGTに焦点を当てていることが、共同通信の記事でもよくわかります。

日本は技術立国だったのではないか。そんな国の姿勢として、「FGT?無理ゲーっしょ」と早々に白旗を挙げる姿勢はどうなのかと思います。

FGTという需要が創造されているのに、これに挑まない姿勢は問題が大きすぎる。西九州新幹線を政治解決したところで、問題は放置されたままです。国の姿勢として、佐賀県の主張を取り入れたうえで、問題を解決するためには、国家の威信をかけてFGTを開発するしかないのではと私は感じます。

目の前にイノベーションを起こせるせっかくのチャンスが来ているのに、それをテコに国力を高めようと思えない思考は、私には「ありえない」としか映りません。

衰退国家仕草、大概にせえよと言えるのではないでしょうか。

佐賀県の主張は、炭鉱のカナリア

整備新幹線の問題は新しい局面に入っていると思います。首都圏や関西圏に組み込まれている千葉市、相模原市、堺市などを除けば、人口50万人程度以上の都市で新幹線が通る予定がないのは、四国の松山市くらいです。

今後、新幹線でなくても、高速鉄道網は国の政策として推進しなければならない課題です。民間で整備することは無理で、国が投資をして需要創造する機能を果たさなければならない。

ただ、高速鉄道網が整備されれば、従来の在来線をどうするかは大きな課題となります。地域社会の重要なインフラとして在来線をどのように活用していくか知恵が求められます。

政治家が我田引「鉄」の再来とばかりにフル規格で整備を求めるのは、彼らのアルゴリズム的思考として理解できる部分がありますが、在来線切り離しが議論にならない人口100万人以上の都市間をフル規格新幹線で整備をする段階は終わったことはもっとしっかりと受け止めるべきです。

これからは、在来線の活用を視野にいれた高速鉄道網が整備されなければいけない局面になったのではないでしょうか。ここで新しい考え方を取り入れていくことも一つのイノベーションでしょう。

そのような視点が決定的に足りない。西九州新幹線問題は、それを突きつけているのではないでしょうか。

佐賀県の主張は炭鉱のカナリアなのではと思います。

20年間、乗り換えの覚悟はあるのか

武雄温泉~新鳥栖間の整備方式の議論は全く進展がありません。仮に整備方式が解決し、予算がつき、着工しても現状のままでは、少なくとも20年はこのままでしょう。

この西九州新幹線問題の結末として、政治的アプローチでフル規格で整備され、新幹線の恩恵にあずかれると長崎県は考えているのであれば、随分と楽観的ではないかと思います。長崎県は、人口流出で言えば、ワーストの部類に入ります。フル規格で整備がかなったとき、長崎県はどうなっているのかよく考えるべきです。

今後20年間、博多から1本でいけない鉄道を使い続け、佐賀県との間に禍根を残し、さらに長崎県内では北部に何の恩恵もないどころか、JR九州の社長が、フル規格での整備後をにらみ博多~佐世保間の特急みどり廃止の観測気球を上げているのが今の現状です。

こんなに課題が山積しているのに、それに目をつぶってフル規格で整備を願う長崎県の姿勢は、無責任すぎて、声も出ないほどありえないと感じます。

博多から近いのは実はリスク

福岡市に住んでいると、北九州市と久留米市の停滞が気になります。もっと発展していい潜在能力を感じますが、実際には現状維持が精いっぱいの印象です。それは、福岡市に近く、経済で飲み込まれているからです。
2011年の九州新幹線の全線開業が近くなったころ、熊本市に本店がある肥後銀行のシンクタンクが、「今後は福岡市のベッドタウンとしての役割を議論すべき」と提言して熊本の財界を驚かせたことがありました。
ストロー効果という現象は広く知られていることです。経済的なパワーバランスが崩れている都市間の競争に、地方都市に勝ち目はありません。

大都市へのアクセス向上は、地方都市には、戦略的によく吟味されるべき問題なのだと思います。新幹線が来ればバラ色というわけではないのです。

選択肢を増やさないと解決はない。解決の創造力が必要。

西九州新幹線の場合、現在の選択肢にはベストはおろか、ベターな解決策すらありません。選択肢を増やす努力が必要です。

第一がFGTと思いますが、本当にそれがだめなのであれば、プランBが必要でしょう。国の政策として、現在の線路幅である狭軌から新幹線の線路幅である標準軌にするなどの大胆な方針転嫁が求められるのではと思います。

西九州新幹線のように中規模都市を結ぶ高速鉄道網はどのように整備すべきなのか知恵が求められますし、問題解決能力が求められます。

JR(九州)をモンスターにしないためにも・・・

現実にはこうするしかないという思考は、一見現実的なようで、衰退を招く第一歩でしかないと思っています。

西九州新幹線の問題は、この国の創造的な思考力が問われています。このままゴリ押しのフル規格で整備を進めれば、JR九州の思惑通りに事が進むでしょう。

在来線を「合法的に」経営分離し、特急の乗客を新幹線に乗せ換えて、自社のビジネスの安泰と地域インフラを担う重荷と責任から解放される選択をするのが「民間企業の論理」として合理的だからです。

官僚が経営しているともいえるJR九州は、民間企業よりもむき出しの新自由主義の企業であることを理解しなければいけないと思っています。なまじ政治力を持っているが故に、民間企業の名のもとにその力を悪用してしまう可能性をはらむからです。

このまま、西九州新幹線がフル規格で整備されれば、民間企業としてのJR(九州)は発展するかもしれませんが、地域の鉄道網は衰退し、その維持は地方自治体の負担となり、ひいては地域住民の負担として重くのしかかっていくことでしょう。このような結末は、ロールモデルなって、整備を待つ東九州や、四国といった地方に襲い掛かってくるのではと思っています。それはつまり、JRが地域交通網を破壊する企業に変じる可能性があることを意味し、私はそれを強く危惧します。

JR(九州)をそんなモンスターにしないためにも、今、この国の問題解決能力が試されているのではないでしょうか。

解決は単眼的思考ではなく、複眼的思考で

ここまで事態をこじらせてしまった西九州新幹線の問題は、解決の難しい難題になってしまったと感じます。ハッキリいって、ここまで拗らせた主犯は、間違いなくJR九州であり、その背後にいる国土交通省も共犯の誹りを免れません。今のJR九州の思考力程度では、だれが経営者であっても判で押した結末にしかならないと思っています。

「正解」というのもをぶら下げられると、それに遮二無二突き進んでしまう偏差値エリート的思考回路では、解決策はフル規格一択となり、彼らはわかりやすいくらいにこれに猛進している。それで解決するような甘い問題ではないではと思います。この局面は、そのような単眼的な思考では解決は無理で、複眼的思考で解決が図られなければならない。

個人的には、この西九州新幹線の問題は小林一三クラスの経営者でないと解決は難しいのではないかと思っています。「近江商人の三方よし」の思考と行動ができる人間をリーダーに据えて解決を図る必要がある。

残念ながら今の世の中には、そのような知恵者がいないのでしょう。そのことをもってしても西九州新幹線の問題は、お先真っ暗だとしか言いようがないと思うのです。


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