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『異常』というタイトルを持つ本の話

  L'Anomalie


 いつもとは違った感触の本を読みたい…
 そう思っている人にはピッタリの本があります。

 『異常アノマリー』というタイトルの本をご存知ですか?

 フランスの作家 エルヴェ・ル・テリエ の本で、今年リリースされた海外翻訳本の中で静かに話題になってる小説なのです。

 "異常"というタイトルといい、このカバーデザインといい、不穏な空気感が漂ってますよね~
 同じ格好をした二体のマネキン…  身を寄せ合っているようにも、首を絞めようとしてるようにも見えて、なんか意味深なデザインです。

 …ちょっと興味を惹かれたりしませんか?

 読みたい本がたくさんある自分なので、優先順位は高くなかったものの、ずっと気になっていた本なのです。
 先日、積読本がなくなった隙に読んでみたのですが、結論から言うと、

なかなか面白かったです! はい。

 ただ、自分がイメージした物語とは違ったんですよね!
 イメージを裏切られるのは嫌いではないんですが、どんなイメージが違ってたのか、そんなとこを "note" していこうと思います。


+  +  +  +  +  +


 まず、私がどこから情報を得たかというと、本書の「帯」からなんです..

 けっこう刺激的な情報が並んでると思いませんか?

 フランス最高峰の文学賞を受賞していて、アメリカではベスト・スリラーだったりSFとミステリの融合と紹介されていたり…
 なんかスゴい小説ってのは伝わってきますよね。
 ただ、いろんな情報がありすぎるような感じで、結局、この『異常アノマリー』って、どんなジャンルなのか分からなかったりします。

 読み終えた者としては、この「帯」情報から誤解した部分もあるんで、ちょっと言いたいことがあるんですよね~w、まず….

スリラーというほどスリルはない!

 アメリカでは「ベスト・スリラー」と銘打たれていますが、私的にはスリラーなのか?と疑問符が付きました。
 「選べ。私たちが互いを滅ぼす前に。」なんて刺激的な文句が添えられていて、いかにも恐ろしげな "異常" な事件が起きて、ハラハラドキドキが連続するようなイメージを持つんですが、それほどドラマチックな展開があるわけでなく、また、強い恐怖を感じるわけでもなく、けっこう淡々と物語は進みます。
 ”スリラーではない” とまでは言いませんが、スリルやサスペンスを求めすぎると期待外れに終わるのでは.. と思います。

SFとして読むのは危険!

 帯では「SFとミステリの見事な融合」や「文学界の未確認飛行物体」などと紹介されているし、他のメディアでも、SFとして本書を紹介した書評を見かけます。
 たしかに "異常" な状況となる部分にはSFがあるんですが、本格的なSF作品として読むと、ちょっと物足りないんですよね。
 ですから、この作品は、SFではなく、SF要素を含む作品と考えた方がいいのです。


高尚なフランス文学ではない!

 フランス文学最高峰の「ゴンクール賞受賞」と大きく書かれているので、何やら高尚な文芸の香りがします。
 でも、この "ゴンクール賞" の過去の受賞作を見ると、ピエール・ルメートルの『天国でまた会おう』などのミステリーや、その他にもSFチックな作品があったりして、決して純文学専門の賞ではなく、大衆小説も含んだ文学賞なのです。
 「フランスで110万部突破」という実績からも、純文学的な面だけでなく、やはりエンタメ部分があるんです!

 

 なんか、苦情ばかりを並べた感じになっちゃいましたが…
 じゃあ、この『異常アノマリー』って、どんな本なのか、自分なりに説明してみると

”異常” な事態に対峙する人々の、それぞれの選択を描きながら、読者側の思考を刺激する作品なのです。

 ↑
やっぱ分かりづらい?w

 

 この本には、いろんな要素があって、SFやスリラーなど 

ジャンル小説として分類することは困難!

 ですが、知的なエンタメがあって、面白い小説であるのは間違いないのです。
 冒頭で触れましたが、変わった感触の小説を読んでみたい方には、特にお薦めなのです!





■  □ ここからネタバレを含みます。□  ■


(もう少し、具体的なことが知りたい方は、こちらをどうぞ!)



(あらすじ)

「もし別の道を選んでいたら……」

 良心の呵責に悩みながら、きな臭い製薬会社の顧問弁護士をつとめるアフリカ系アメリカ人のジョアンナ。
 穏やかな家庭人にして、無数の偽国籍をもつ殺し屋ブレイク。
 鳴かず飛ばずの15年を経て、突如、私生活まで注目される時の人になったフランスの作家ミゼル……。

 彼らが乗り合わせたのは、偶然か、誰かの選択か。
 エールフランス006便がニューヨークに向けて降下をはじめたとき、異常な乱気流に巻きこまれる。

 約3カ月後、ニューヨーク行きのエールフランス006便。
 そこには彼らがいた。
 誰一人欠けることなく、自らの行き先を知ることなく。

 あらすじを読むと、多種多様な人が登場するのが分かりますが、基本の構成としては群像劇となっています。

 そして、カバーデザインの二体のマネキンで暗示されてる通り、はっきり言ってしまえば、この本は「ドッペルゲンガー系」の話なのです。
 もう一人の自分が現れるというのが、本書の「異常」な現象です。
 普通に過ごしていた人たちの前に、3ヶ月前の自分たちが現れる!という現象なのですが、過去、異常な乱気流に巻きこまれたものの、無事に着陸していた旅客機が、なぜか3ヶ月後に同じ乗客(もう一人の自分たち)を乗せて着陸してしまうのです。
 その結果、乗客分のもう一人の自分たちが現れる事態となるわけなのです。


 もう一人の自分が現れたら、皆さんだったらどうしますか?

 物語の中では、この現象に関する科学的考察や、宗教的解釈、各国やマスコミ、市民の反応なども描かれていくわけなんですが、中心となるのは、この飛行機に乗っていた人々の対応で、それぞれのペアのそれぞれの展開の様子なのです。
 そこに、いろんなパターンのペアがいて面白いんですよね~。
 ”もし、こうだったら…”という思考実験が群像劇で描かれてる感じで、ここに人生に対する洞察や哲学が生じてくるわけなのです。

 繰り返しですが、「フランスで110万部突破」ですからね~
 単純に面白いだけでなく、この知的なエンタメ性に魅かれちゃうんですよね~、うんうん。


 さて、個性的な登場人物たちが、どんな選択をしていくのか、また、どういう運命をたどっていくのか、ぜひ、手に取って確かめてもらえればと思います!




 

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