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車:5速MTのルノー・トゥインゴⅢは、令和のお前に家畜の安寧を許さず、愛と理解と忠誠を強いるサディスティック・ラブ・マシーンだⅢ

 ドーモ、素浪汰狩人だ。前回、前々回と続き、先代マイカーのステラから2代目マイカーのトゥインゴに乗り換えた話。もっと考察を深めて行こう。


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☞初回の記事☜

【収録内容】
序章:初代マイカー、239,000kmで没す
第1章:買った、壊れ(て)た、治した。

☞2回目の記事☜

【収録内容】
第2章:そして4ヶ月の月日が経った
第3章:何の因果かフランス車(※要出典)
第4章:激突! ステラRN1 vs. トゥインゴⅢ!

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第5章:装備を大雑把に見て行こう

 初回、2回目と購入経緯や基本情報について述べたので、今回は現時点で私が3ヶ月ほど、トゥインゴⅢを運転して感じた、個人的なフィーリングを中心に語っていきたいと思う。興味がある人は是非ご一読いただきたい。

 右ハンドルだ。これは言うまでもない。右ハンというならイギリス仕様を想起する御仁も少なくないとは思うが、興味深いことにイギリス流通仕様のトゥインゴは早々にMT仕様が、ついでにガソリンエンジン仕様すらも消滅の憂き目に遭っており、右ハンかつMTの個体は日本(ルノー・ジャポン)にて売られている物が大多数なのである。ちなみにハンドルの左右に生えているウィンカーとワイパー/ウォッシャーのレバー操作は、左右逆である。

 最初は戸惑ったぜ。割と直ぐ慣れたけど。しかし困ったことに、というか当然ではあるが、社用車は国産車であり、自分の車以外に乗るとワイパーとウィンカーとが反転するので間違いが頻発する。私の住む鹿児島は活火山・桜島の灰が降ることがあり、フロントガラスに灰が降った状態でワイパーを動かそうものなら、ガラスにガリ傷が入って悲惨なことに……参ったよ。

 もう他人の車乗れないねぇ。

 当然だがマニュアル車なので、5速MTのギヤレバーが生えている。これを左手で握り、左足ペダルのクラッチ操作と併せて、1-2-3とシフトアップして加速していくのが、手動変速機の醍醐味だ。面倒と思う人も多いだろうが。

 ギヤレバーは私の車の2017年式を含むフェイズ1と、鹿児島ディーラーで試乗した2022年式を含むフェイズ2とで、大分デザインが違う。画像が無く申し訳ないが、フェイズ2のレバーは棒状の軸が突き出た先端に、機械的な円筒の握りが備わったSFチックなデザインで、後期型の方が私の好みだ。

 まあでも、前期型の古典的でスポーティな見た目も悪くないけどね☆彡

 あと地味な点だが、レバー前方に2つの円が光るシーソー型のスイッチはクルーズコントロールだ。実は車両引取前に取説を読んでおらず、使い方はおろか存在すら知らなかった。それから高速は何度か走っているが、未だに一度も使ってない。便利なんだろうが、うーんなんか面倒臭そうだし……。

 センターコンソールに浮かんだ3つの円形ノブは、マニュアルエアコンの操作盤だ。先代のスバル・ステラRN1もマニュアル式だったので、馴染みが深くこちらの方が手に馴染むし、何なら運転しつつ前方を見ながら左手ではエアコンを弄るという荒業も可能(真似しないように)。スバルのヤツよりクリック感が小刻みかつ軽く動いて良い。とはいえコストカットで妥協して備え付けられた代物だろうが。試乗車の2022年式インテンス(原則ゼンより高級グレードとされている)のエアコンがどうだったかは覚えていない。

 つーか、覚えていられるような心の余裕がなかったって! マジで!

 閑話休題。この車の核心である、ナイスなケツの部分に話を移そう。

 説明不要! ケツである。キュッとしてカワイイ小尻ちゃん。頭の小さなリアスポイラーの空力性能は押して知るべしだが、白黒パンダ塗装と併せてチャームポイントだ。テールゲートはボタン開錠できるので地味に便利。

 ただのトランクだと思うかね? ところがどっこい、隠し扉があるのだ。

 エンジンを護りつつ、車体剛性に寄与する鉄板。プラスチックの頭を持つ締め付けボルトは、手でも開け閉めできるほど良いトルク感。この蓋の下にトゥインゴⅢのキモでもある、RMRに配置されたエンジンがあるのだ!

 詳細は2回目で説明しているので、写真が見たい方はそっちを見てくれ。

 見た目は愛らしいポニーのようだが、こいつが想像を絶する頑固なロバであったことを、4ヶ月前の私はまだ知らない。MT車に淡い夢を見て、自分が運転が上手いつもりでいた、大抵の車は運転できるつもりでいた、根拠なき自信過剰さと高すぎる意識で居丈高になっていた、身の丈に合わない理想を車に投影して過度に美化していた、そんな私を現実の鉄拳で打ち砕くとは。

 ルノー・トゥインゴは、そしてMT車は、そんな生易しい物ではなかった。


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第6章:気に入っているところは?

 一番気に入ってるのは、値段だ(コマンドー) 2017年当時の新車価格で驚きの171万円。本当に外車か? ってレベルで安い。同クラスの国産車と価格面だけ見れば大差ない。蓋を開ければ、フランス製ではなくスペインやスロヴェニアで作ってるから安いんだが。それに、あくまで新車価格ならば割安という話であり、実際の中古車価格ではもう少しシビアになる。

 私の中古車では、本体価格138万円で諸経費込みの167万円、5年ローンの金利を積んで212万円となったのは、初回に述べた通りだ。何故か幾つかのステップを踏む内に、初回の金額が保たれず大きく金額が跳ねてしまう。

 こうして見ると、6年落ちの外車にしては、値下がり額が少なくて強気の値付けと言えなくもない。いや、本体価格や諸経費込み価格まではギリギリ許容範囲なのだ。しかしローン込みの値段はちょっと……ネェ。利息だけで諸経費込み価格から1.27倍に跳ねるのはえげつねー。文句垂れるんだったら何で買ったのかという話だが、単純に選択肢がそれしかなかったからねぇ。

 いいかい、九州とは、九州の中でも鹿児島とは、やはり田舎だ。田舎ゆえ中古車の選択肢も偏るし、九州全土に足を広げても中々シビアなんだなァ。

 ゆえに多少ボラれてでも、掴める選択肢を掴むしかない侘しさである。

 初回から繰り返しの話になるが、2022年製・100km落ちの新古車で本体が220万円、諸経費込み270万円、ローン含んで300万円となると、利息込みの金額で212万円 vs. 300万円の闘いであり、80万円の違いは決して安くない。

 ぶっちゃけ、212万円を出せるんだったら、ヤリスやカローラの新車とかジムニーやシエラの新車とか(納期は別としても)、N-ONEの新車にしても射程範囲に入らなく無いだろう。N-ONEは何だかんだ250~300万コースか?

 後の決め手は……ルノー・トゥインゴだから!(トートロジー) 価格を見れば同クラスの国産車と価格面だけ見れば大差ない、しかし国産車に無いRRのMT車という面白さ! とはいえゼンは廉価グレード、上位グレードのインテンスと比べても、快適装備はほぼ何もないレベルで削減されている。

 つまり、外車のステータスを望める車では断じてない、ということだ。

 もしや疑っているな? そんな君にトゥインゴ真実を教えよう。

 オートエアコンなし、オートライトなし、先進安全装備なし、MT車なのに回転計すらなし(地味にヤバイ)、電動パーキングなし、ブレーキホールド勿論なし、あるのはABSとクルーズコントロールとアイドリングストップとヒルスタートアシスト(坂次第で後退る)と、集中ドアロックとあと地味にサイドエアバッグぐらいだ。ドアロックを開けたら、柔らかな電球色の光がフロアを自動で照らしてくれて便利だぞ。その機能は他の車にもあるって?

 もうお腹一杯か? 遠慮はいらないぞ!

 エンジン始動ボタン? ハンドルに鍵を差して回すんだ。左足のペダルはパーキング? そいつはクラッチだ、車を停めるならハンドブレーキ。ならクラッチ横のステップは? ないからペダルの下に左足を置け。ハンドルのパドルシフト? MT車はギアレバーで変速するんだ! ドアミラーは自動で開閉できないの? お前には2本の手があるだろう! 何で後部座席の窓はパワーウィンドウじゃないの? 三角窓で隙間を開ければ風は通るだろ!

 正直、ない物を探せばキリがない。車にあれこれとスマホ並みの利便性を求める人間は、その余りの不便さに耐えられないだろう。探せばいくらでもケチが付けられる。知性という抗い難い進化に頑なに逆らう生きた化石だ。

 翻って、だがそこが良い。いや寧ろそれが良いのだ。澄まし顔して、やれ電動だハイブリッドだ、スマートだと宣う「時代」に中指を突き立てろ🖕

 これは相当に楽しいユニークな車だ。コストと一緒に快適性をセーヌ川へ投げ捨てたのか? 控えめに言っても現代の車か疑わしい。そこにあるのはシンプルでプリミティブな剥き出しの車、それと人間との対話だ。乗り手の感性、習熟度、あるいはが試される車であることは論を俟たない。

 意固地なロバに跨って進むようなものだ。意識して手綱を握り、行く先を注意深く修正してやる必要がある。乗り物として尊厳は保証してやらないといけないが、こいつはお前の友達でも相棒でも恋人でもない。機械の分際で機嫌の良し悪しや感情の起伏めいた何がしかがある。エンジンの動作音とか半クラッチの振動とか加減速の挙動とか、計器には現れないが人間の感覚に不快感として感知される何らかのシグナルを、ちらちら垣間見せる。国産のマーチや軽トラックより、操作の許容範囲が明らかにシビアだ。回転計すらないので、動かし方は身体で覚えるより他ない。下手糞には運転させる気が微塵も無いのを感じ、運転するこっちも死に物狂いだ。慣れたつもりになりラフな運転をしようものなら、瞬時に機嫌を損ねてエンジンストールする。

 調子に乗るな、車に乗れ。運転手のお前が100%責任を持って乗りこなす必要がある。舐められたら終わりだ。度重なるエンジンストールで半泣きの目に遭うを克服してからが本番だ。慣れが全てを解決する。運転と云うはエンストすることと見つけたり、即座に鍵に手を伸ばして再始動する手癖を付けろ。アイストがウザいからと切った時に限って、急な飛び出しで急ブレーキからエンストする。エンストしなければ上出来だが、再発進でのローギヤからアクセルの開け方が甘いと、回転が上がらずエンストする。

 日本の軽トラみたいに扱いやすい車とは一味違うぞー(笑)


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終章:フランス車よ永遠に

 イギリスにTOP GEARという車番組がある。かつて歯に衣着せぬ物言いの司会者で鳴らした巨漢ジェレミー・クラークソンは、プジョーを筆頭とするフランス車を、帝国時代からの英仏対立に準えた英国ジョークで明け透けに扱き下ろしていた。学生時代の私は、ブリティッシュな皮肉の文脈も知らず指を差して笑ったものだ。あれから13年、私の隣にはフランス車がいる。

 およそどんな取り得る選択肢があったにせよ、よもや自分がフランス車に乗ることになる展開だけは、13年前の私は想像だにしなかったに違いない。

 フランス車という言葉の印象ほど、華美な車ではない。それは例えるなら農道ポルシェスバル・サンバーと日産・マーチの合いの子。ハイギヤードな5速MTで黒塗りの鉄チンを転がし、フェンダーの泥汚れも気にせず農道を悠長に走る、絵本の世界のように素朴で呑気な、日常の足。内燃機関の灯火が消えかけた現代に、フランスが捧げた国民車。東の果てに遺された手動変速マニュアルの系譜。

 エディット・ピアフの歌のように、回り続ける運命の歯車だ。

 パダン……パダン……パダン……運命の音が迫る。それは内燃機関の死の音。

 やがて燃料は燃え尽き、灯火も消え失せた。あの油臭くて騒々しい歯車も動きを止め、無段変速機に繋がれたモーターが廻る虚しい音だけが響いた。

 かつて回っていた偏屈なフランス車も、もはや記憶の中だけの存在だ。

 そうなるのが五年後の未来なのか、十年後の未来なのか、今はまだ誰にも分からない。だが遠くない将来、だけは誰もが感づいている。

懐かしい価値観ね……少なくとも今の私に、葛藤は存在しないわ(草薙素子)

 ルノー・トゥインゴⅢ。君はその車の名を思い出すことなど無いだろう。

 馬車馬のごとく働かされ、用が済んだらスクラップ置き場に叩き込まれて忘れ去られる。問わず語らず黒子に徹する誇り高き仕事人。それが実用車の背負う悲しい宿命だ。然らば私が語り継ごう。鬱屈したエコ・ファシズムが蔓延する時代にハイオクガソリンの狼煙を上げ、人間工学や先進安全装置の利便性で骨抜きにされた現代人に中指を突き立てる、反骨精神の塊のような安い車チープカー枯れた技術ローテクの粋を凝らした車が現代に未だ存在していたことを。

 とんでもねえ、待ってたんだ(コマンドー)

 MT……手動変速機マニュアル・トランスミッションは理屈ではない。一つ確かに言えることは、私にはそれが必要だったということだ。CVT……無段変速機という無味乾燥ながらも快適な文明の利器を捨て、石器時代の不便な棒切れに回帰することで、私は運転に主体性と身体性を取り戻した。但しそれは、ひりつくような緊張感と隣り合わせだ。古のサバイバル車社会の冷徹な流儀。機械に合わせられないテク無しは容赦なく路上でエンストし、立ち往生の危機に陥る。ATの運転で堕落した現代人にヤキを入れるシビアな世界。夢を見ると痛い目を見る。

 刮目せよ。5速MTのルノー・トゥインゴⅢは、令和のお前に家畜の安寧を許さず、愛と理解と忠誠を強いるサディスティック・ラブ・マシーンだ。


 以上でトゥインゴの私なりの所見は終わりだ。ご清聴、感謝感激雨霰!


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【車:5MTのルノー・トゥインゴⅢは、令和のお前に家畜の安寧を許さず、愛と理解と忠誠を強いるサディスティック・ラブ・マシーンだⅢ おわり】

From: 素浪汰狩人 slaughtercult
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