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【ネタバレ無し感想】『ブギーポップは笑わない』を読んで

今年一月から『ブギーポップは笑わない』が放送されている。その原作一巻を読んでみた。どこか寂しげで、少し物足りなくて、でもそれ故生じる豊かさを噛みしめられる作品であった。

この物語の舞台は高校。連続女子高生失踪事件が起こる。それは宇宙から来た者によるなのだが、それに対抗するのがブギーポップというある女子高生のもう1つの人格だ。

特に特徴的なのが、事件に巻き込まれた何人かの生徒の視点から物語が語られることだ。ヒーローのブギーポップでも、悪役の宇宙人によってでもなく、ただ巻き込まれてしまった周囲の人によってだ。章ごとに物語の語り部が変わり、それぞれがその事件に対しての思い出を述べていく。コナンで例えるなら、事件の犯人でもないのに、その場に居合わせてしまった人々が、コナンと犯人の戦いを交代で語る感じだ。

それぞれの語る物語は断片的で偏りがあり、その物語の全貌を掴むには不十分だ。だがそれ故に、読者は語られた物語の一つ一つを丁寧に味わい、異なる物語が繋がる音を楽しみながら、それぞれの心に物語を描いていく。そんな小説に感じた。

この本が醸し出す哀愁や侘しさ、そんな雰囲気の中、登場人物たちの見せる未来への少し前向きな姿勢。語りたいことは沢山あるが、多くを語ることが必ずしも豊かな表現ではないことをこの物語から教わった。ぜひ気になる人は一度手にとって頂きたい。

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