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「店長がバカすぎて」の感想

本書の概要

 主人公の谷原京子は、書店で契約社員として働く本屋のスタッフである。朝礼でくだらない長話をしたり、人の名前を平気で間違えたりする「バカ」な店長にストレスを溜めながらも働いている。
 店長やお客さんなどに関するトラブルに見舞われながらも先輩、後輩の従業員、大好きな本、自身のライフステージと向き合い葛藤しながら働く様子が描かれ、有名な作家の存在なども交わりながら物語が展開されていく。

感想

 私は本書を実際に読むまで、内容を以下のように予想していた。
「人のことを悪く言うことしかできない少し仕事のできる書店員が、自分なりの哲学を持っているが鈍臭い店長のことを嫌っている。しかし、徐々に店長の良い部分が見えて、最後にはバカは自分だったと気づく」
 この予想の半分は合っていたと思う。店長の良い部分に徐々に気づいていく流れは確かにその通りであった。しかし、違っていたのは、谷原は最初からとても魅力的な人間であったことだ。

 谷原は薄給な契約社員としてひもじい生活を送りながらも、大好きな本を客の手に届ける仕事に誇りを持っている。また、書店を辞めようとする先輩や、アルバイトのスタッフ、さらには店長と真剣に向き合いながら日々働いていた。また、28歳という自身のライフステージと自身の待遇を考えて葛藤を周囲の人に吐露する場面もあるが、その人たちに支えられながら努力し続ける描写も印象的だ。

 谷原は、自身の好きな仕事を続けることに葛藤しながらも、仕事に誇りを持ち続けている。また、その葛藤を他人にストレートに打ち明ける素直さを持っている。さらに、特にアルバイトのスタッフが働きやすいようにと周りのことを考えながら、それが難しい板挟みの状態に葛藤している世話焼きの一面もある。本当に魅力的な主人公だと思わされた。恋をしてしまいそうなくらいだった・・・

 6章構成だが、文章は非常に読みやすくスイスイ読むことができた。また、色々な物語があるものの伏線が散りばめられており、最後に伏線が回収されていくのも見事だった。また、仕事ができないと思われる店長は、どこまで本当に仕事ができなくて、どれだけ能力が高いのかは結局最後まで謎に包まれている。そういった考察も人によって異なると思う。
 魅力的な主人公やその周囲の人物を軸に進んでいく物語、伏線回収、人によって解釈が分かれる要素もある、そして何より読みやすい文章。
 読書の習慣があまりない人にもおすすめできる、とても良い一冊であった。読み終わったその日に続編も買ったので、読み終わり次第感想を認めたいと思う。

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