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【連載小説】0n1y ~生物失格と呪われた人間~

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人間というのは随分と身勝手だ。 自己中心的で自己満足的で自己保身的で自己保存的だ。 自分が一番可愛くて、そんな自分を穢されるのが許されなくて、他人を貶して貶める。 その貶し貶めが…
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2021年8月の記事一覧

小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 8)

小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 8)

1話目はこちらから。

Episode 8:決着。正しいナイフの使い方。 鉄パイプを掴んで走り出した。たったそれだけ。
 それだけで、怪物は怯んだ――が、流石は『怪物』を名乗るだけある。動揺はしながらも戦闘態勢には入った。
「クソがあああああああああっ!! クソが、クソがッ!! このガキ、殺してやるッ!」
 『殺す』か。
 その言葉は聞き飽きた。他者の命の価値を軽くするだけの――そして価値を軽くす

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小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 7)

小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 7)

1話目はこちらから。

Episode 7:可愛い狂気と狂人君子。「えーた、えーたぁ!」
 思わず鉄パイプを床に落とした自分に、カナの悲痛な声が届く。
 まあ、それはそうだろう。ナイフが恋人である自分の腹に突き刺さっているのだ。こんな異常事態を前にして冷静でいられる筈がない。
「えーたぁっ! え――」
「うるせえ、餓鬼。黙らないとコイツをとっとと殺しちまうぞ」
 目の前の幽霊――いや、『幽霊を騙る

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小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode -1)

小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode -1)

1話目はこちらから。

Episode -1:人間の断末魔、怪物の産声。「……残念ですが」

 今から3年前。とある病院。
 素っ気ない診察室で、初老を迎えたであろう医者は顰(しか)め面をした。
 目の前にいる、皮膚の爛(ただ)れた19歳の青年。隣には姉が付き添っている。
 良くない結果が待ち受けている、ということが姉弟には、なんとなく分かっていた。
 なんとなくでも分かってしまったからこそ、医者

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小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 6)

小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 6)

1話目はこちらから。

Episode 6:シャイニング・オン・ベリー。 結論から言えば、2階には何もなかった。
 あれだけ『帰れ』と言わんばかりに、下手に過剰に配置された装飾品はすっかりと消え失せ、シンプルに廊下が伸びるだけ。
 進むにあたっての障害もない。それどころか、電気がついている。
 ……幽霊屋敷と言われているくせに、誰かが律儀に電気料金を支払っているらしい。最早それは幽霊屋敷と言わない

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小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 5)

小説『生物失格』 1章、英雄不在の吸血鬼。(Episode 5)

1話目はこちらから。

Episode 5:過剰心霊スポット。 人間が恐怖を感じる原因は、主に2つだと思う。
 1つは、正体不明や意味不明を目の前にした時。何もしていないのに物が壊れるとか、それが長い間続くとか、プリンターから意味不明な文字列が勝手に印刷されていくということになれば、人間は怖く感じるものだ。その不明さを超常であると思えばこそだ。
 もう1つは、あまりにも強大な脅威を目の前にした時。

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