フォローしませんか?
シェア
うぉーけん
2023年10月26日 19:33
「わたしが死んだ時、蠅の羽音がした」──エミリー・ディキンスン、465番の詩 乾いた風が吹くと、まず崩れるのは眼球だという。 私は目を細める。茫漠とした砂塵の彼方では、天衝く排気塔から煤煙が吐き出されている。 昼夜を問わず稼働し続ける火葬場。熱と灰が無尽蔵に供給され、大気をさらに脱水していく。 視線を移す。老人が死んだ幼子を抱いている。子の盲いた眼窩には黒い虚があるだけだ。 も
横島孝太郎
2023年10月25日 19:54
扉を開けると月面だった。 反射的に閉める。 もう一度、恐る恐る開ける。 黒い空、灰色の荒野、立ち尽くす星条旗。写真でしか知らなかった光景が、廊下の代わりに広がっていた。「輪郭が、異様にはっきりしてる」「空気が無いからだ。可視光を邪魔するものがないのさ」「でも普通、生身で宇宙に晒されたらただじゃ済まないと思う」「こちらの技術力の賜物だ。そもそも現在の地球の方が、余程普通からかけ離れ