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英語力「日常会話レベル」の誤解

就職する際の募集要項などによく書かれている英語力を表す3段階のレベル「日常会話レベル」「ビジネスレベル」「ネイティブレベル」。これ、そもそも何だか変だと感じたことありませんか?

日本で広く使われている3段階の英語力レベル

私が所属している富士通のマーケティング部門は、メンバーの約半数が海外メンバーで構成され、国籍も日本人以外のさまざまなメンバーが働いていて、言語も文化も変化に富んだ環境です。

空きポジションに人を募集する際にはジョブデスクリプション (JD) を書くことになりますが、入力フォームにあるのが日本語と英語の言語力を表す3つの選択肢「日常会話レベル」「ビジネスレベル」「ネイティブレベル」です。この分類は当社のJDだけではなく、日本においては外資系も含む他社でも広く使われています。

しかし、この分類、よーく考えてみると実は疑問が沢山浮かんできます。疑問点について、順番に紐解いていきましょう。

ビジネスで使う英会話とは?

まず仕事で使う英会話がどんなものかを想像してみましょう。たとえば新入社員が大学英語を修了しているレベルで入社してきたとすると、通常の日本語の英語教育を受けているだけだと、英文の読み書きはできても実務レベルの英会話をスムーズにできるところまではなかなか行かないかもしれません。

かく言う私も、社会人に成り立てのときは実務レベルの英語は話せませんでした。英会話教室等で勉強はしていたものの、英会話教室で習う内容と業務で話す内容があまりにも違いすぎて、正直なところ殆ど役に立ちませんでした。

それでは、私はどのように英会話を学んだかと言うと、当時勤めていたマイクロソフトでDynamics CRM (今のDynamics 365)の最初の日本語バージョンを開発する責任者となったときに、開発チームが居たインドのハイデラバードと毎日30分、1年間英語で1対複数人の電話会議を行いました。

毎日30分、1年間、自分の好きなように実務で英語を気兼ねなく話せるという環境のおかげで、1年が終わる頃には (少しインド訛りになっていましたが😄) 実務でなんとか通じるレベルの英会話ができるようになっていました。この機会と環境を与えていただいた当時の関係者の皆様には大変感謝しています。個人的には、英語はOJT (On the Job Training)で学習するのが一番効率的だと思っています。

ただし、話せるようになった英会話はソフトウェア開発にかなり特化していて、社内の少し異なる業務、たとえばマーケティング、営業、経理等の分野の内容は分からないことも引き続き多くありました。でも、自分の担当範囲の業務をこなすには十分でした。このように、「ビジネスレベル」で必要な英語力というのは、自分の担当分野の狭い範囲に比較的特化して特定の職種のメンバーと会話ができるレベル、ということになります。

そういう意味では、実は「ビジネスレベル」の英会話力を身につけることはそんなにハードルが高いことではありません。読者の皆様がかつて日本語を習得したように、業務で英会話が必要になる環境で一定期間逃げずに頑張って順応しようと努力していれば、「ヒトが言語を学ぶ」という大抵の人が持っている能力により、ビジネスレベルの英語力をつけていくことができるのです。その際に大事なのは「自分を追い込んで英会話が必要な環境に身を置くようにして逃げないこと」になります。

日常会話は簡単だと思いますか?

それでは、今度は「日常会話レベル」というレベルの英語力について考えてみましょう。ところで読者の皆様は「自分は日常会話レベルくらいの英会話ならできるかも」と思っていませんか?

日本の小学校や中学校で初めて英語を習ったときは、身の回りの "日常的" な内容からスタートしたはずです。日常会話レベルといえば、挨拶、買い物、公共交通機関の利用等、旅行ができるくらいの会話ができるレベルの英語力だと思うかもしれません。しかし、私はこれには異議を唱えたいです。

実は私自身は「ビジネスレベル」の英会話よりも「日常会話レベル」の英会話のほうが難しいと思っています。これは何故かと言うと今の私は「ソフトウェア開発」に加えて営業、マーケティング、経理等、業務に必要な色々な分野の英会話力を身に着けていますが、それでもビジネス英会話は扱う分野の枠が決まっており、その枠の中の単語やイディオムさえマスターしてしまえば会話を成り立たせることができます。一方、日常会話となるとこの枠が外れて相手に話題を合わせる必要が出てくるからです。

日常会話では、たとえば趣味、スポーツ、食事、病気、教育、社会問題、政治など、様々なことが話題になる可能性があり、話し相手や話すタイミングによってどういうボールが投げられてくるか分かりません。つまり、相手のペースで使われてくる様々な分野の単語やイディオムを知っている必要があります。

これは実は日本語でも同じで、読者の皆さまが普段付き合っている仕事仲間、家族、友人と会話をする際には問題なく話ができるはずですが、全く別の分野の知らない人との会話、世代が離れた人との会話、全く知らない地方の方言がまざった会話をすることを想像してみてください。きっと相手が言っていることの理解に苦しむ場面が想像できませんか?

日本語であれば、それでも質問をすることでなんとか会話について行けるかもしれませんが、英語の日常会話では英語でこれに対応する必要があります。しかも、相手と1対1であれば、まだ相手もこちらのペースを気遣ってくれますが、一番難しいのはネイティブスピーカーが何人か話しているところの話題に入っていくことです。相手はこちらのことを全く気遣わずに自分のペースのスピード、話題、単語を使ってきますので、そこに日本人が入っていくことは相当な英語力とコンテキストの共有が求められます。

つまり、「ビジネスレベル」の英会話では、お互いの共通の特定分野について英会話ができればよいのですが、「日常会話レベル」は、相手のペース、話題、単語に合わせて英会話ができる必要があり、実はとても難しいのです。私個人としては「日常会話レベル」=「ネイティブレベル」だと思っています。そして先に出てきた「日常会話レベル」「ビジネスレベル」「ネイティブレベル」の3つの段階の分類は、英語がちゃんと話せる人が考えたのかどうか疑ってしまいます。いわゆる基礎レベルとしての意味の "日常会話レベル" は、「旅行会話レベル」とでも言ったほうが良いのではないでしょうか。

T型、下駄型の英語力アップ

英会話力にも、学校で習うような基礎的な「旅行会話レベル」、自分の特定の専門分野で会話ができる「ビジネス会話レベル」、そして誰からどんな話題が振られても対応できる「ネイティブレベル (日常会話レベル)」と、段階があることを見てきました。

英語力も、前に記事で書いたキャリアの話と同様、最初は広く浅く基本的な能力を身に着けてから、自分の得意な専門分野を1つ2つと身につけていき、最終的にはいろいろな専門分野を持っていきネイティブレベルに近づくという勉強の仕方になると、私個人は考えています。つまり、最初は水平に広く浅く、次にT型に専門分野を深く掘り下げ、その専門分野をマスターしたら他にもいくつか「下駄型」のように専門分野を作り、深い知識を様々な分野で広げて塗りつぶしていく、という具合です。

英語レベルの上達の図解

ちなみに、英語力のレベルは英語の勉強とともに連続的に上がっていくと言うよりは、ある段階ごとに壁が出てきてそれを順番に乗り越えていく必要があります。その話はまた時間があれば!

最後までお読み頂きありがとうございました!

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