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ウェビナーの参加率がそろそろ厳しい!?

新型 コロナ 禍になってからそろそろ3年目に入ります。日本でも業種によってはリモートワークがある程度定着してきたようです。B2Bマーケティングの世界でも、新型 コロナの前は潜在顧客の発掘は会場を借りてのセミナーやイベントが一般的でしたが、新型 コロナ 禍になった後は開催者、参加者共に対面での感染リスクを嫌い、ウェビナーやオンラインイベントが一般的になりました。しかし、オンライン開催が長引くことで最近では参加者の意識も変わってきているようです。

ウェビナーのメリット・セミナーとの違い

ウェビナーは単なるセミナーのオンライン版と思うかもしれませんが、受講者にとっても開催者にとっても従来のセミナーとは企画も運営も視聴の心構えもだいぶ異なります。これらについて主要なものを改めてまとめてみます。

受講者側のメリット

受講者にはセミナーと比べるといろいろなメリットがあります。

  • 会場に行く必要がない、時間を効率的に使える: まず大きな違いとして、わざわざ会場に行く必要がありません。通常はセミナーに参加する場合、少なくとも半日、場合によっては1日をセミナーのために確保しておく必要がありました。そのため、前もって計画を立てたり上司に承認をとったりして参加する必要がありました。ウェビナーの場合は職場、または自宅からすぐに参加できるため、他の仕事をしている合間に視聴することも可能になり、移動時間も不要になるため時間を効率的に使えます。

  • 世界中のウェビナーに参加できる: 特に地方在住の場合、自分が住んでいる地域以外のセミナー、東京や大阪で開催されているセミナーに参加するには1日または泊りがけでの移動での参加になり不利でした。ウェビナーなら地方からでも東京/大阪の参加者と同様に参加できます。また、日本国内ではなく世界中で行われているウェビナーを日本から視聴することもできるようになりました。このため英語さえできればアメリカの最新情報を直接仕入れることも可能になりました。

  • 日時の制約がなくなる: ウェビナーの場合、ライブで開催された後に録画を視聴できる場合が多いため、ライブの時間に都合が合わなくても、後から自分の好きな時間に視聴することができるようになり、受講者に意思さえあればコンテンツの視聴がしやすくなりました。

  • 何回も見返したり早送りができる: セミナーの場合は当日の録音や録画をすることが難しく、受講者は当日に配られた資料にメモ書きをして後日組織内で共有することが多かったですが、ウェビナーでは録画を何度でも見返したり、他の人にも同じ録画を見てもらったりすることが可能です。60分のウェビナーも2倍速で見れば30分で完了することができるなど、効率的に視聴することが可能になりました。

  • 人気セミナーにも参加しやすくなる: オンラインの場合、定員の上限も気にする必要がない場合が多く、人気の講演者がいて多くの登録者が殺到した場合に、セミナーの場合だとたちまち満員で募集終了になってしまいましたが、ウェビナーの場合はいくらでも参加を受け付けている場合が多く、受講者が参加しやすくなりました。

開催者側のメリット

実は受講者だけではなく開催者にとってもウェビナー開催にはセミナーにはない様々なメリットがあります。

  • 開催コストが激安: 開催者にとって一番メリットが大きいのがこれです。セミナーの開催には会場を借りたり、受付や誘導など当日のロジを行ってもらうメンバーを雇ったりと様々なコストがかかります。オンラインで実施できると、ウェビナーツールのライセンス以外はほぼ手持ちの機材だけで追加費用無しで始めることが可能です。このため費用をかけたけど見返りがないことを心配せずに様々なことを気軽に試すことが可能になります。

  • 直前に企画、集客できる、日時に縛りがない、より多くの視聴者にリーチできる: 会場を事前に借りたり大掛かりな準備をすることが不要なだけでなく、受講者側も開催直前の数分、数時間前まで新規参加をしてもらえる可能性が高いので、セミナーに比べると準備期間が短くて済みます。セミナーだと小規模のものでも大抵1ヶ月半前、大型イベントでは数ヶ月前には集客ページを公開しないと思うように登録者が伸びませんが、ウェビナーでは1ヶ月未満、場合によっては1週間前の集客でも満員にすることが可能です。ウェビナーへの登録も直近1週間前くらいのほうが集客が大きく伸びる傾向があります。また、会場の人数制限もなく日本全国/全世界から集客ができるため、セミナーよりもより多くの視聴者を呼び込むことも可能になります。

  • 講演者の幅が広がる: 実はこれも結構大きいです。以前のセミナーやイベントでは、有名なゲストに登壇してもらう際には現地で生出演をしてもらうのが暗黙の了解でした。しかしイベントやセミナーはあらかじめ日時と場所が決まっているため、その日時と場所に直接来られるゲストを探すのが結構な手間でした。そのため何ヶ月も前、場合によっては1年以上前から念入りに出演交渉をする必要がありました。たとえばマイクロソフトのサティア・ナデラCEOやアップルのティム・クックといった大物になると簡単には出演を依頼できません。彼らが年何回か来日する中の忙しいスケジュールの中で空いている時間がたまたま自分のイベントの日時と場所にあった場合にのみ交渉のテーブルに乗ることになります。もちろんこれは必要条件を満たすだけなので実際に出演してもらうにはそこからさらに大きなハードルがありました。しかし、オンライン開催であれば、来日しなくてもビデオ会議でアメリカから参加でき、さらに時差があるのでアメリカ西海岸の業務終了後に出演してもらう、といったことも可能になり、実際にビデオ会議でのリアルタイム出演を実現した企業もありました。※ 出演料がかかるゲストには今まで通りかかります。

  • ハプニングを減らすことができる: 事前収録を行うことができるので、本番一発の勝負ではなく、失敗した部分をカットしたりやり直したり、公開前に内容をあらかじめチェックすることが可能になったため、実施方法によってはハプニングを大幅に抑えることができるようになりました。多くの大型ウェビナーでは、事前収録が行われ、ウェビナー当日には開催者側では放送をしているだけ、といったことも増えてきました。

  • アクセシビリティ対応/多言語化対応がしやすい: 翻訳や字幕の付加を事前に行うことができるため、聴覚障害を持った人への対応が簡単になりました。会場への移動も必要ないため、身体に障碍を持つ人への対応も必要なくなります。同時通訳といった高価なサービスを導入が不要になり、英語が分からない人への対応も安価に行うことができるようになりました。

ウェビナーで意識が必要なこと

このように、ウェビナーには受講者にも開催者にもいろいろなメリットがありますが、その反面、メリットを裏返したデメリットもあります。以下はその一例です。

● 気軽に参加できる反面、当日の参加率 (歩留まり)も悪くなる傾向がある。
● 講演者からは受講者の顔が見られないので、反応がわからない。
● アンケートの回答率が極端に悪くなる傾向がある。
● 受講者はウェビナー中も時間拘束されていないので、コンテンツをよく見ていない傾向がある。
● ウェビナーの内容はすべて受講者の画面上に表示されるため、会場限りの秘密を守るのが難しく、ウェビナーで出した情報は拡散されるリスクがある。
● プレミアム感が低く感じられる傾向にある。

これらのデメリットを考慮した上で、ウェビナーのメリットをうまく使いながら活用する必要があります。

推奨事項

以下に私がウェビナーをいままで実施したり、他のマーケッターが実施した結果を聞いたりした結果、こうしたほうがいいと考えたことを並べてみました。

  • 1セッションの時間は15~30分と短くしたほうがいい: オンラインでの聴講は自宅や事業所から行われる場合が多く、セミナー会場で聴講するために拘束しているわけではないため、まわりから色々な邪魔が入ったり集中力が続かない可能性があります。このため、セミナーでは1セッション45~60分程度で2~3セッション続けるといったことが一般的に行われていましたが、ウェビナーではより短い時間で、かつブツ切り視聴をしても意味が通る構成に変更したほうが良いです。1セッション15~20分程度が望ましく、最長でも30分以内に抑えたほうが良いです。逆に15分より短いセッションもありです。内容も飽きられないようにするためには、最初から最後まで聴講しないと結論がわからないようにするのではなく、短い時間で結論を出す構成を重ねていくことをお勧めします。

  • 開催直前の集客をしっかりやったほうがいい: 従来のセミナーと比べると気軽に登録できる分、事前に登録した人でも当日参加しない確率が高くなります。開催直前のリマインダーや開催直前に当日やっぱり時間ができた人などをターゲットしてコミュニケーションすることが効果を発揮します。ウェビナーに参加してくれやすい開催日時については、私が試したりまわりのマーケッターに聞いた限りでは、曜日、日時であまり大きな差異はないようです。会場に行くセミナーでは直行直帰できる時間帯、曜日は外出しやすい日がいいといった話がありました。

  • 画面遷移の構成は変化をつけたほうがいい: 1つ目の項目とも関連しますが、飽きられないようにするためには単純にPowerPointのスライドをめくっていくだけではなくデモを行ったりビデオを流したりと画面遷移の構成に変化をつけることをお勧めします。ウェビナーはテレビやYouTubeなどと同じような画面装飾が求められます。余裕があればエンターテイメント的な要素も入れてみましょう。ちなみに、講演者の顔や素振りを表示したほうがいいかについては諸説あり、有名な講演者ならともかくそうでない場合は内容に集中したいので講演者を映す別窓は消してくれという受講者もいます。

  • オンデマンド視聴は数を稼ぐのではなくフォローアップのために実施: ウェビナーの開催は日時を決めてライブで行うほうが受講者数を伸ばすことができます。オンデマンドで後日まで視聴できるようにしたとしても、そこで受講者数を伸ばすことは大抵難しく伸び悩みます。また、メインのイベントと詳細な内容を実施するウェビナーを分けて開催するパターンも散見されますが、これも後日のウェビナーへの集客は成功しないです。オンデマンド視聴は数を稼ぐのではなく、少数のホットな見込み客を確保するための手段として使いましょう。

ウェビナーを起点としたコンバージョン率の目安

さて、ここまでウェビナー開催のための前提知識を中心に解説してきましたが、当日どれくらい参加してもらいどれくらいの結果が出れば成功かというKPIの話を少しします。

コンバージョン率

数字は業種業態によって異なる場合がありますが、私が目安にしている数字は以下のとおりです。

登録者1,000人 ⇒ 潜在顧客600人 (60%) ⇒ MQL 80 (13%) ⇒ SQO 40 (50%) ⇒ 受注 8 (20%)

※MQL = Marketing Qualified Lead (マーケティング創出のホットな見込み客)
SQO = Sales Qualified Opportunity (営業がフォーキャストに入れる商談)
パーセントは前の段階からのコンバージョン率

マーケティングから創出される商談の場合は必ずしも一方通行のファネルではなく、途中でナーチャリングが発生して複雑な経路をたどったり他の施策と混ざったりするので、なかなか1施策の結果だけを純粋に追跡することは難しい場合もありますが、ひとつの目安として使えます。

だいたいこれくらいの計画で見込み客の獲得、商談化、受注まで進めればまあまあ順調です。

かかる費用とROI

今度はかける費用について見てみます。これも業種業態によりますが、私の経験上1登録を得るのにかかる費用(コンタクト獲得単価、Cost Per Acquisition, CPA)は1~5万円程度です。B2B商談におけるキーマンと言われるCxOの登録を得るにはもっとかかる場合もあります。

仮に平均商談単価600万円の商材を訴求するイベントで集客込みで2,200万円※をかけて1,000人の登録を行いイベントを開催すると、先程のコンバージョン率に従い計算すると、MQLを1得るのに約28万円かかり、SQOが約40、商談金額としては約2億4千万円が生成されます。投資した金額2,200万円に対しては約11倍の金額です。

マーケティング施策で投資した金額(直接経費)に対して得られるリターン (商談金額)のことをROI (Return Of Investment)としてKPIに設定する場合が多いです。IT業界におけるB2Bマーケティング施策では、ROIを10倍以上に設定して成否を判断する場合が多いです。

ROIの成否は、今までに出てきた様々な数字 (費用、商談単価、コンバージョン率等)によって変わりますので、実際のケースに当てはめて考えてみてください。

ちなみに、ここで生成された商談から実際に受注する件数は約8件、4,800万円の売上となり、ここまでを見ると顧客取得単価 (Customer Acquisition Cost, CAC) でみると投資した金額の約2倍しか帰ってきません。2,200万円を集客、イベント会場、運営等にどのように割り振るかによっても考え方が変わってきますが、営業集客や繰り返し行われるナーチャリングを抜きで考えてしまうと、商談単価600万円の商品をマーケティング施策のみの集客でイベントを実施するととても非効率的なように見えます。

ウェビナーの場合はイベント会場、運営にそれほどお金をかけなくてもよく、かつ1,000人の集客も2,200万円もかけずに実施できる手段があれば、ROIはもっと格段に上がり、受注できる金額も投資金額の数倍以上にできます。

※1,000人のイベントに2,200万円もかけるというのは新型 コロナ前のイベントの金銭感覚でウェビナーはもっとずっと安価に開催できます。

歩留まりが下がる中でどう対応する?

さて、ここからが本題なのですが、ウェビナーも新型 コロナが始まった当初は歩留まりが7割を切るくらいで集客できていた頃がありました。通常のイベントでは、歩留まりの勝敗ラインはだいたい7割前後に設定することが多いため、7割を下回るくらいの数字はまずまずのものでした。

それから少し時間が経つと、ウェビナーの歩留まりは約半分くらいまで落ちました。インターネットを調べてみると他でもウェビナーの歩留まりは40~50%くらいであるとしている資料が多かったため、これが2020~2021年くらいの平均的な数字なのだと思われます。

ただ、開催者としてはやはり登録者数だけではなく実際にウェビナーに参加してもらえる人数を気にするため、歩留まりが通常のセミナーよりも低くなるということは、参加者数を同じにするにはより多くの登録者数を確保する必要が出てきます。

そして2022年に入って最近のイベントではなんと歩留まりが約20%にまで下がってきているものもあるという話を聞きました。流石にここまで下がってしまうと、当初予定の登録者の3倍くらいの集客をしなければならなくなるため、開催者側はさらに辛くなります。そろそろ受講者側にもウェビナー疲れが出てきてリアルなイベントを求めているのかもしれません。

それでは、ウェビナーはマーケティング施策としては機能しなくなっているのかというと、いくつかの考え方があるでしょう。

ウェビナーに実際に参加した人でないとその内容を理解してもらえないわけでホットな見込み客にならないという考え方もありますが、デジタルセールスなど他の施策で使うコンタクトを単に取得するための入り口と捉え、他の施策でも繰り返しアタックすることで温度をあげていくこともできます。

私個人的には、マーケティング施策はひとつだけで効果を出すことを狙うのではなく、デジタルセールス等の半営業活動や、インバウンドマーケティング、そしてマーケティング・オートメーションを活用した適切なタイミングでの繰り返しのデジタルナーチャリングとも組み合わせて中長期的に効率を上げていくのが得策だと思っています。つまり積極的に狩りをしに行く「狩猟型」ではなく、たくさん罠を張って待ったり捉えた獲物を育てる「牧畜型」です。先の数字を見ても、施策単発の数字だけだとよっぽど条件が揃わないと良い結果にならない事が多いです。

1つのマーケティング施策で得た個人情報はオプトインをきちんと取っておけば他の施策にも流用できますから、後続の施策のコンタクト獲得単価、顧客獲得単価を下げることにつながります。これはマーケティング施策で利益率をあげるためには気長に実施する必要があるという理由でもあります。

そうだとすると、個人情報の取得がきちんとできていさえすれば、歩留まりはあまり気にしなくてもいいということにもなります。

それではまた!

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