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意外と答えられない!?「『科学』ってなに?」

私は普段から、信頼できる食情報かどうかを確認したいと思ったら「『研究結果に基づいているか』を確認することが大事!」とお伝えしています。

医療や健康などの自然科学の分野の専門家にとっては、このときの「研究結果」というのは「論文」化されているものですし、論文化を目指して実施する行為のことが「研究」でしたよね。詳しくは、研究とは?論文とは?を解説したこれらのnote記事が参考になるかと思います。

研究論文はこういった位置づけで出来上がるものだからこそ、科学的根拠つまりエビデンスとして参照して活用しできるんですよね。そして医療の分野では、ヒトで調べた研究の論文結果をエビデンスとして参照し、それを活用して臨床判断を下す、Evidence-based Medicine(EBM)と言われれる方法がとられています(文献1)。この、エビデンスのある情報を活用するという考え方は、日常の健康情報を活用するときにも使えます。

ところで、ここで使われている「科学的根拠」の「科学」ってなんでしょう?どういうものが「科学」で、どういうものが「科学ではない」になるんでしょうね。問われると意外と答えられない人も多いのでは?

このnoteでは、私を含めた多くの自然科学分野の専門家が認識している「科学とはなにか?」そして、研究者たちが「科学的であるために注意していること」に迫ってみたいと思います。


●辞書での説明は?

毎度ながら、一般の人向けに「科学」がどう説明されているのかなと気になり、広辞苑(第6版)を無料検索できるサイトで「科学」の語を調べてみました。そこでは「観察や実験など経験的手続きによって実証された法則的・体系的知識」と説明されていました。ここで重要なのは「法則的」かなと感じました。「法則」を同じくこのサイトで調べると「いつでも、またどこででも、一定の条件のもとに成立するところの普遍的・必然的関係」とあります。

つまり、科学という学問は「ある条件で観察や実験をしたときに、いつでもどこでも同じように示される事実を得る学問」のことを言っている、という説明になりそうです。

●論文の「方法」の項に「科学」を垣間見る

自然科学の研究論文を書くときには、この「科学」的な姿勢が求められるんですよね。つまり、誰がやっても同じ結果が得られるときが「科学的」なんです。そして、それが再現可能なように(その論文を読んだら誰でも同じことができ、同じ結果が得られるように)、特に研究の「方法」をとても詳しくする説明する必要があります。研究者はみなこの感覚を持っていて、科学的に研究が行われるよう気をつけているように感じます。それでは具体的に、どんなふうに気を付けて「科学的」に論文を書いているか、見てみます。

●当たり前でも書く

たとば、医療分野で良く使われる指標であるBMI(ビー・エム・アイ)。これは肥満度を判断するときの指標です。正式名称はBody mass indexで、その略語になります。体重(単位はkg)を身長(単位はm)の二乗で割った値のことで、この値が大きいと「肥満である」などと判断します。医療やヘルスケアの分野の人にとってはよく聞く指標で、わざわざ説明の必要がない場合も多いのです。けれども分野外の人にとっては、説明なくいきなり「BMI」と略語が出てきても通じないかもしれません。分野外の人でも誰でも、示してある内容を同じように理解してもらうためには、こういった略語は、その分野では当たり前のものでも、論文の中では説明することが好まれるんです。それを説明する姿勢が科学です。

それで、論文の中では研究の「方法」説明のところで「研究対象者は、食事の質問票の中で、身長と体重を自己申告で回答した。body mass index(BMI)は、この体重(kg)を身長(m)の二乗で割って計算した」というふうに、身長と体重はどういうふうに測定して、その値をどう計算したのか、詳しく説明します。実際に、私が執筆した論文(文献2)の中でも、こんなふうに書いてあるんですよ。

●違うものを想像させない

BMIのように、もともと一般的に定義が決まっているものでも説明しておく必要があるのですから、人によって勝手に色々な想像をしてしまいそうな用語の定義を説明しておくことは絶対ですね。使われているその用語がどんな読み手にとっても同じものを指すように「定義」を定めておかないと、科学的とはいえません。

たとえば先ほど紹介した私の論文(文献2)の中では、「動物性たんぱく質」と「植物性たんぱく質」にわけてたんぱく質の効果を調べる、ということをしています。それでは「動物性たんぱく質とは何か?」「植物性たんぱく質とは何か?」というと、けっこう難しいんですよ。

たとえば「パンを食べたときに摂取したたんぱく質は、動物性たんぱく質か植物性たんぱく質か、どっち?」と考えると難しくないですか?パン自体の主な材料は小麦なので、小麦に含まれているたんぱく質、つまり植物性たんぱく質が多く含まれているのですが、パンを作るときには卵や牛乳なども使っていて、そこに含まれている動物性たんぱく質も摂取しているんですよね。だから、パンには動物性たんぱく質も植物性たんぱく質も両方含まれているわけです。けれども、この研究で使った質問票では、そこまで細かくは分類できなかったんです。この研究の中ではパンから摂取したたんぱく質を、動物性たんぱく質か、植物性たんぱく質のどちらかに決めなければ研究が進みませんでした。それで「この研究の中では、パンから摂取したたんぱく質はすべて植物性たんぱく質にする」と決めたんです。そういう説明も論文の「方法」の項に書いてあります。

●とにかく「定義」が大事!

こういった、当たり前のように使っている用語を、この論文を読んだ人がそれぞれに別のものを想像してしまっては、実際に行った研究を正しく伝えたことになりませんし、この研究が正しいかどうかの再現もできません。つまり、科学的でなくなってしまうんです。だからこそ、科学を追求するために、研究論文の中では「定義」を大切にするんですね。そして、論文の「方法」の項で、細かく詳しく説明していきます。

●まとめ

今回は、「科学ってなに?」に迫ってみました。私なりに説明すると、研究者などの専門家が認識している「科学」とは、「ある条件で観察や実験をしたときに、いつでもどこでも同じように示される事実を得る学問」で、「科学的」とは「いつでもどこでもだれがやっても同じ結果が得られるように説明しようとする姿勢で臨むこと」のように感じています。定義を大事にすることは科学の基本です。論文はこの「科学的」な姿勢を貫いて、誰がやっても同じ結果が得られるという前提で発表されているために、科学的根拠として使うことができるんですね。

科学的根拠(エビデンス)に基づいて議論するというのは、個人的な感情などで議論するときのような水掛け論にならなくて済みますし、とても有用な方法だなと思います!

【参考文献】
1.     Jenicek M. J Epidemiol 1997; 7:187-97.
2.     Kobayashi S, et al. Nutr J 2013; 12: 164.
 
 


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