そもそも論文ってなに?~今さらの疑問に迫る~
私はよく「研究論文に基づいている食情報は信頼度が高いですよ」とか「論文にどう書いてあるか内容を確認しましょう」というように、「論文」という用語を特に説明することなく、自然に使って発信をしています。そして前回のnoteでは、医療の現場でも日常でも「たくさんの論文の結果を使って方針を決めることが大切」という記事を書きました。
では、論文っていったいどういうものなのでしょうか?みなさんは説明できますか?論文を読んだことがない人や、実物を目にしたことがない人がイメージしている「論文」というものは、実際とは少しずれているかもしれませんね。そして「論文とは?」といったそもそも論を、わざわざ説明してある記事ってあんまりないような気がしてきました。そこで今回のnoteでは、そもそも「論文ってなに?」というところに迫ってみたいと思います。
●辞書や書籍での説明は?
広辞苑(第6版)を無料検索できるサイトで「論文」という語を調べてみたところ、「研究の業績や結果を書き記した文」と説明されていました。そのとおりで、研究者も、研究結果を説明している文章のことを論文と言っています。
私の恩師である村上健太郎先生の著書(文献1)では、「論文とは、ある研究テーマについて得られた成果を、論理的な手法を用いて書かれた文章のこと」とありました(P.47)。
論文は専門的なことを詳しく説明しているので、一般の人に向けては書かれていません。その分野の専門家が読んで参考にすることが多いです。そして、その分野の人たちが多く読む専門の「雑誌」に発表されることになります。とはいえ、なるべく専門外の人でも理解できるように、詳しく説明をしてあることが求められます。
私が「研究論文に基づいている食情報は信頼度が高い」というときに使っている「論文」というのは、主に医学や栄養学といった分野の論文、つまり科学論文になります。世の中には人文学系の分野の論文というものもありますが、こういった分野の論文は科学論文とは特徴が少し異なるようです。これ以降は特に科学論文というものがどういうものか、さらに実態に迫っていきましょう。
●2番目ではダメなんです
科学的な研究は世界中で行われています。そして研究者は日々、世界中の研究者と競いながら、自分が第一発見者となるような発見をしようと研究に取り組んでいるのです。世界で1番になることを追求していないと、研究者としては認められないんですよね。今までにできなかったことをできるように、知られていなかったことを明らかにできるように取り組むのが研究で、それを追求することが、社会の進歩や発展につながるわけですから。
そういえば、もう10年以上前になるでしょうか、とある政治家が研究者に対して「どうして1番になる必要があるのでしょうか、2番ではダメなんでしょうか?」というような内容で問い詰めている場面があったような記憶があります。そうなんです、研究は2番目ではだめなんですよ。2番でもよいという考えでいては、研究者とは言えないように思います。
●新規性があることが求められる
そういうわけで、研究とは、今まで明らかにされていなかったことを明らかにするために行います。そしてその結果を発表した論文には、常に今まで明らかにされていなかった内容が含まれています。これを「新規性」といいます。自分が初めて調べ上げた独自のこと、つまり独自性(originality)がある内容を発表した論文のことは、原著論文(original article)と呼びます。
新規性がないと論文としては発表できないわけです。となると、発表できる研究テーマってそんなにあるのかな?と思われるかもしれませんね。新規性といっても、ちょっとした初めてのこと、新たなことが明らかになれば、ほかの論文の真似をして研究していても(参考にしても)、その分野の専門家たちから認められます。たとえば「30~55歳のアメリカ人女性では甘い飲み物の摂取量と心疾患の発症に正の関連がある」という論文があります(文献2)。これを参考に、同じような検討をアメリカ人の男性で行う、食習慣の異なる日本人で行う、年代が異なる若年者や高齢者で行う、という場合は、それが初めて実施された研究であれば、いずれも「新規性あり」と言えます。
●英語で書いて世界中の人に読んでもらおう
世界で一番であることを知らせるためには、世界中の人に自分の研究結果を知らせる必要があります。そのためには、英語で論文を書いておく必要があります。科学の世界では、英語が共通語のように使われていて、英語であれば世界中の人が読んでくれるんです。そのために、私も英語で論文を書き、海外の雑誌(国際誌)に発表原稿を送るように、という指導を受けていました。日本語の雑誌というものもありますが、それは日本人に特徴的で、他の国の人には関係の薄いことなどを発表するときにはそういった雑誌に発表するのもいいかな、という感じがします。そういうわけで、英語で発表された論文というものは、体裁としてはこんな感じで最終的に発表されます。
●審査(査読)に合格できてようやく発表
実際の論文は、原稿を雑誌社に送っても、すぐに雑誌に掲載してくれるわけではありません。雑誌の編集者や、その分野の他の研究者が「査読」という審査をして、論文内容が問題ないか、研究は適切な方法で実施されているか、結果の解釈は間違っていないか、といったことを評価します。内容が不十分であれば、修正を求められたり、その内容では掲載できないと断られたりします。1報の論文を掲載させるのに1年以上査読のやりとりをすることもあります。そんな大変さは以前FOOCOMのコラムでも紹介しました。今後noteでも改めて紹介できたらいいなと思います。
●論文の中身は?位置づけは?
こういった背景で発表された論文には、実際にはどんな構成で書かれているのか、それをどう読めばよいのか、といったことは、今後少しずつ紹介できたらなと思います。または、先ほど挙げた村上先生の著書(文献1)では、第3章の「研究論文の読み解き方」で、論文とはどういうものか、どうやって入手して、どう読み進めていくか、詳しく説明されています。こちらの書籍を読むととても参考になると思います。
そして論文というのは、研究者の業績となります。研究者として優秀かどうかは、論文を何報発表してきたかで、研究の世界ではお互いに評価して、競っています。書籍で有名な先生がいらしたら、その先生が何報くらい論文を書いてきたか、前回ご紹介したPubMedなどの論文検索サイトで調べると、その先生が研究者としては優秀かどうか、わかるかもしれません。
●まとめ
今日は、「論文ってなに?」という疑問に迫ってみました。論文とは、ある研究テーマについて得られた成果を、論理的な手法を用いて書かれた文章のことです。何らかの新規性を含んでいます。査読という専門家同士の客観的な評価を経て発表されており、研究者の業績として認められるものです。
こういったものであるからこそ、論文結果をもとに作られた情報は信頼度が高いと考えられているのですね。
【参考文献】
1. 村上健太郎. 基礎から学ぶ 栄養疫学研究. 建帛社. 2022.
2. Fung TT et al. Am J Clin Nutr 2009; 89: 1037-42.
すべての100歳が自分で食事を選び食べられる社会へ。
みなさんの人生10万回の食事をよりよい食習慣作りの時間にするため、できることからひとつずつお手伝いしていきます。
また読みにきてください。
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