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栄養を業務にする専門家のみなさんに知っておいてほしい論文レビューの大切さ

医療の場面で使われるガイドラインには、標準の治療法や、病気であると判断するときの基準値が示されています。私たちの命にもかかわるものになりますね。このガイドラインの中身が、とってもたくさんの研究論文を参考にして定められているってご存知ですか?もしもたったひとつの研究を根拠に決めてしまっては危険であるため、世の中に発表されているあらゆる研究論文を集めて、読み込んで、結果を比べて、それらを統合して、ようやく方針がひとつに定まっていくんです。この論文収集と精読作業、そして結果の全体像を把握する一連の作業を「論文レビュー(review)」といいます。研究者は日常的に行っていることです。これがどんな作業なのか、なぜ論文レビューが必要なのか、お届けしていきますね。

●論文レビューってなに?

レビュー(review)という英語は、日本語に訳すと「批評」などの意味もありますが、「過去の出来事の説明、総括」といった意味もあります(文献1)。研究の世界で使うときには後者の意味で使うことが多いです。論文レビューとは先ほど説明したように、論文収集、それを読み込む精読、そののちに結果を統合して全体像を把握する、という一連の作業のことを言います。そしてこのときの論文収集では、自分が調べたいテーマの内容(たとえば「食塩摂取量と高血圧の関連を調べたもの」などと設定します)の論文のうち、現在世の中に出回っているものすべてを収集する必要があるんです。つまり「網羅的」に検索した結果得られたものであることが求められます。内容によっては論文数が数十報とか数百報存在することもあるかもしれません。

●なぜすべての論文が必要になるの?

それでは、どうしてこういった網羅的な論文収集が必要なのでしょうか?それは、収集した論文の内容が偏っていたり、一部であったりすると、最善のガイドラインを作れないからです。というのも、ガイドラインを作るときに参考にする論文というのは、ヒトでどうなるかを調べた研究、つまり疫学研究の論文になります。こういったヒトを対象に研究をした場合、動物実験や細胞実験などの研究結果よりも結果がばらつきやすいんです。ヒトは個人差が大きいです。遺伝子など、生まれつき違うことも多いですが、生活習慣や環境など、生まれたあとの状況によって個人差はさらに大きくなります。そのために、たったひとつの研究論文の結果があったとしても「その結果はその研究に参加した対象者だけに限ったことかもしれないよね」と考えられることができます。そういった状況では、どんな人にでも使われるようなガイドラインは作れませんよね。他の人にも研究で得られた結果を当てはめるためには、別の対象者のときはどうか、少し条件を変えるとどうか、などを確認することが必要です。そういったことを複数の研究論文の結果を合わせて検討してみて初めて、多くの人に有効と考えられる治療法や基準値ができあがるんです。

こんなふうに、複数の研究結果を統合して導かれた研究結果は信頼度が高いという考え方は、研究の世界で広く採用されている考え方です(文献2)。

●どうやって「すべて」の論文を収集するの?

それでは、「現在世の中に出回っているすべての研究論文を収集する」にはどうしたらよいでしょうか?途方もない作業のように思われますね…。おそらく30年くらい前はそうでした。図書館で雑誌のページをめくりながら作業した、という先生方のお話を聞いたこともあります。けれども今は「網羅的な検索」が可能な時代になりました。私たちも日常で気になる事柄や調べたいことがあったらインターネット検索をしますよね。それと同じ考え方です。

医学系の研究論文であれば、アメリカの国立医学図書館が運営しているPubMedという検索サイトがあります。このサイトに、これまでに発表された研究論文の情報がデータ化されて保存されています。検索窓に検索語を入力して、自分が調べたい研究論文があるかを調べることができます。まさに私たちが日常的にインターネットで調べものをするときと同じです。

PubMedという医学論文の検索サイトを使えば論文情報を収集できます。

ある程度質の高い疫学研究論文の雑誌情報であれば、このPubMedにほぼすべて収載されています。そのため、PubMedを使って情報をすべて収集していれば、他の研究者から、だいたい網羅的に調べている、と納得してもらえます。論文検索サイトはPubMed以外にも存在しますので、もっと入念に調べる場合には、他の検索サイトでの検索をすることもあります。

ちなみに、PubMedは無料で誰でも使うことができます。アメリカの国立医学図書館が運営しているために、使っている言語は英語ですが、他の言語の論文の情報も収載されてはいます。とはいえ、英語は科学の世界では世界の共通言語みたいなものです。英語で書かれた論文というのは「世界中の人に読んでもらいたい」という思いで書かれているために、信頼度の高い、レベルの高い論文が多いです。そのために研究の世界では、英語の論文を網羅的に収集していれば、信頼度の高い論文をだいたい収集できている、とみなせるような雰囲気があります。

ただし、ほしい論文情報すべてを得るには、用いる検索語などに工夫が必要です。そこを考えなしに行うと、せっかく存在している論文の一部を取りこぼしてしまいます。そのあたりのテクニックや、収集した論文情報から実際に読むべき論文を決めるまでの一連の流れなどは、今後お伝えできたらと思います。

●日常で活用するときにはたくさんの研究結果が必要

今回お伝えしたかったことは、たったひとつの研究結果をもとに行動を変えるのは危険ということ。医療の世界では、現場で研究結果を活用するために、膨大な論文結果を参考にしています。そのために必要な論文レビューが行われています。

日常生活でも同じです。「食品○○が△△の病気に効果がある」といった情報があり、それが研究論文の結果をもとにしたものであったとしても、たったひとつの研究結果ですぐに「食品○○を食べよう」と行動に移すのは早すぎます。ひとつひとつの情報を過信して活用しすぎないようにしましょう。そういった研究結果があるんだな、くらいに思って、今後の研究結果を待ちましょう。珍しい情報、新規の情報はみんなが飛びつきやすいですが、本当に活用できるようになるタイミングというのは、既に周知の事実となったときです。

【参考文献】
1.     リーダーズ英和辞典 第2版. 研究社. 1999.
2.     Murad MH et al. New evidence pyramid. Evid Based Med 2016; 21: 125-7.


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また読みにきてください。
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