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PubMedで栄養疫学論文をヒットさせる魔法のキーワード!

前回のnote記事では、研究を始めるときに最初に「研究テーマ決め」をすることを紹介しました。

こうして何を研究するのか決まったら、次にすることは「先行研究を収集」することになります。すでに存在する参考となる論文を読んで勉強するために、該当する論文を集めるのです。その作業は、通常の世の中で情報収集するのと同じように、インターネットを活用して検索して進めていきます。今回のnoteでは、栄養疫学の研究者が、論文収集を、どんな検索サイトで、どんなテクニックを使って進めているか、私自身の例を紹介します。研究を始めるときだけでなく、気になる食情報の科学的根拠(エビデンス)を探すときにも使えるテクニックです。


●なぜ先行研究での勉強が大事なのか?

研究して論文を書くとき「新規性」が求められることは以前のnoteで紹介しました。

新たな発見がなければ研究する意味がありません。そのために、新しい研究をするなら、これまでにないことをしていかなければなりません。自分が思いついた研究テーマは、実は別の研究者がすでに実施済みかもしれません。すでにたくさんの研究が行われているのであれば、自分が今から研究する意味はないわけです。十分に研究がない場合でも、どの程度の論文が発表されているか、得られた結果はどういうものか、という傾向や、自分がどういうふうに研究すれば「新規」になるのかということを、先行研究から知っておく必要があります。それに、先行研究で類似の研究があれば、そのときの方法を真似することができますし、先行研究でうまくいかなかった部分があれば、それを克服するための工夫をしてよりよい研究をすることができます。そんなふうに、先行研究を読むということは、たくさんのことを学ぶことになるんです。先行研究は、たくさんの学びを与えてくれる先生です!

●これが論文レビュー!

というわけで、研究をするときには、その研究したいテーマに関係ある先行研究を「すべて」(!)集めることが必要になります。以前のこのnote記事で、ガイドラインを作るときには「論文レビュー」が必要、と説明しましたよね。

論文レビューとは、論文収集、それを読み込む精読、それから結果を統合して全体像を把握する、という一連の作業のことです。ガイドラインを作るときと同じように、研究を始めるときにも論文レビューが必要です。私が「たんぱく質とフレイルの関連を検討した研究」を実施したときにも、村上健太郎先生から「まずフレイルに関係する論文をすべて収集してください。食事以外も含めてすべてです。」と言われて研究が始まったんですよ。そのときは「すべて収集ってどのくらいかかるの…」とぼうぜんとしましたが…。

●栄養疫学分野の論文を探すならPubMed

では論文を収集するときに使うツールを紹介しましょう。これまでの研究をすべてとなると、世界中の人が読んでくれる英語で書かれた論文を集めると考えてください。それには以前のnote記事でも紹介したように、医学系の研究論文であれば、アメリカの国立医学図書館が運営しているPubMedという検索サイトがあります。PubMedには、これまでに発表された研究論文の情報がデータ化されて保存されています。そして、PubMedを使ってもれなく論文を収集できていれば、だいたい網羅的に調べられていると多くの研究者が考えてくれます。改めて、PubMedの画面を紹介します。

PubMedのhome画面:生物医学論文の検索サイト

このPubMedで論文情報検索すると、論文のタイトル、著者名、雑誌名、公表年、掲載ページ、抄録(要約:Abstract)などの情報が出てきて、この部分は誰でも無料で読むことができます。論文が掲載されている雑誌のウェブサイトのリンクが貼られていることも多く、無料の雑誌であれば論文の本文もそこから手に入ります。

●おすすめキーワードを伝授(有料級!!)

PubMedを使った検索の基本は、私たちが日常で知りたい情報をインターネット検索するときと同じです。情報検索サイトの検索窓に、知りたいことに関連したキーワードを入れて検索しますよね。それと同じ方法で使うことができます。ただし、使われている語が英語のため英語で入力しましょう。

PubMedには3000万件以上の論文の情報が収載されています。そして生物医学系の研究が収載されているため、実験研究の結果もかなりヒットしてしまうんです。栄養疫学研究研究を進めるときや、食情報のエビデンスとして使える論文を収集するときには、実験研究ではなく、疫学研究を効率よく収集したいですよね(実験研究と疫学研究の違いはこちらのnote記事を参照ください)。

実験研究の論文をなるべくヒットさせず、疫学研究の論文をヒットさせるためには

① ヒトの食事を表すときに使われる語:(food OR diet OR dietary OR intake OR consumption)
② ヒトが対象の研究で使われる語:(men OR women OR subjects OR participants OR patients OR adults OR children OR adolescents OR boys OR girls OR elderly OR "years old")

をANDでつないで「① AND ②」を検索窓に入れて使うとよいです。①の中でfood OR diet OR…となっていますが、「OR」は「または」の意味で、foodまたはdiet…のいずれかが含まれている論文がヒットします。そして「AND」は「かつ」の意味で、「① AND ②」とすることで「①ヒトの食事を扱っており かつ ②ヒトが対象」の論文がヒットします。これでヒトを対象とした食事の研究、つまり栄養疫学の研究論文がヒットしやすくなるのです。

さらに

③ フレイルを扱う研究で使われる語:(frail OR frailty)

を使って「① AND ② AND ③」とすると、フレイルに関わる栄養疫学の論文がヒットします。③のところを自分が探したい研究で使う語に代えれば、他の疾患の栄養疫学の論文をヒットさせることもできます。

この検索語は、佐々木敏先生の著書(文献1)の第5章の最初でも紹介されているので、お持ちの方は確認してみてくださいね。さらにもっと実験研究の論文をヒットさせないためのテクニックも紹介されています。

●最後は地道にひとつずつ確認

ちなみに、上に挙げた「① AND ② AND ③」でPubMed検索してみたところ、2024年1月30日現在で5567件ヒットしました。かなり多いのですが、研究者はこのくらいであれば、その後はヒットしたすべての論文情報のタイトルや抄録に目を通して、それぞれ収集したいと考えていた先行研究かどうかを確認し、本文まで読むべき論文かどうかを判断していきます。私も数千件ならだいたい全部に目を通していました。もしヒットした論文が数万件となると、少し多すぎて全部は読めないので、そこからさらに条件を絞るために、検索語を追加して、検索し直すこともあります。

こういうことが研究者の仕事で、地道な作業なんですよね。研究を始める前の論文レビューの作業に2か月くらいかかるのは不思議ではない、という感じです。

●まとめ

研究を進めるときに先行研究の収集は欠かせません。この論文収集、精読、結果の統合、全体像の把握、という「論文レビュー」を行うことで、自分の研究をどう進めるかが定まってきます。論文レビューのためには検索サイトPubMedを使います。栄養疫学研究の論文をヒットさせやすくなる検索キーワードを紹介しました。このキーワードを使うことで、様々な食情報のエビデンスとなる論文を探すこともラクになります。こんな食情報の根拠になる研究ってあるのかな?と疑問に思ったときには、今回紹介したキーワードを使ってPubMed検索してみてくださいね!

【参考文献】
1. 佐々木敏. 佐々木敏のデータ栄養学のすすめ. 女子栄養大学出版部. 2018



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