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【Episode.000】出会いは続くよ、どこまでも

2019年、ワーホリの最後のタイミングだからと始めたオーストラリア一周の旅路は本当にいろいろなものを、僕にもたらしてくれた。

一人で、レンタルした普通乗用車で、ブリスベンから反時計回りに巡ってブリスベンに戻ってくる。ビザの期限からタイムリミットは65日間だった。

毎日、移動がつきまとう中でさまざまな出会いがあった。それは簡単なあいさつだけのものもあれば、酒を飲みじっくり話したこともあった。かたちに決まったものはないが、それは絶えず続き、オーストラリアを出て日本に帰ってきたとしても途切れるものではない。

これからも大切にしたいことを思い出せるように、ここに残しておきたい。


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# 01

始まって3日目は、ブリスベンから少し北に位置するサンシャインコーストを経由し、きれいなビーチが広がる観光地・ヌーサを訪れていた。夕方にかかる前から本日のキャンプ地を目指そうと、グーグルマップに目をやったとき、ふとそそられるワードが目に入ってきた。

「The Big Pineapple」

なに、これ?

分からなさすぎるのと、とりあえず行っておくしかないという変な好奇心から車を走らせた。

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あった。

でかい。

なに、これ?


メインエントランスまで来ると、ようやくここが動物園や子どもたちが遊べるようなアトラクションが備えられた複合的なスポットだということが分かった。

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さまざまな動物たちが描かれた大きな看板が掲げられたエントランスは、すでに閉まっていた。ただ、奥に緑色が広がっているのが見えたこともあり、ぜひとも中がどうなっているのか探検してみたくなったのは性なのだろうか。

どこかアクセスはできないものかと辺りを見回すと、脇に1本下りられる道があった。

緑の上に降り立つと、遠くにうっそうとした木々が立ち並び、目の前はただただ開けていた。

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ちょっとして気づいたが、だだっ広い緑の敷地を歩いているのは僕1人だけだ。大丈夫だろう、というよく分からない自信から高を括り、優雅な散歩を続ける。

ふと、横に目をやると機関車が停まっていた。

「すごい! こんな列車が走るほど、この敷地はでかいんだな!」

う〜ん、と興奮やら高揚やらで一人ではしゃぐことができるほど、満足感を得ていた。

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よ〜し、もっと奥へ! と勇んで歩みを進めようとしたとき、後ろから声が聞こえた。周りには一人もいないのだから、その声が僕に向けられていることはすぐに理解できた。

しまった! あかんことしてたか・・・と、急に頭の中が瞬間冷却される。

その人が目の前まで来たときには、すぐに敷地の中に入った理由を説明して出ていこうと考えていた。そして、そんなやりとりをしていると、連れ戻しに来てくれた方(クレイグさん)が、

僕が日本人だと知ると、

「私のパートナーも沖縄出身なんだよ!」

と教えてくれた。


さらには「私はあの機関車の運転手をしているから、あれに乗るといい。出口まで乗せていくよ。なんならこの敷地内のおすすめを紹介していくよ。ラッキーだったな!笑」と、誘ってくれた。

名前を聞いて、「『009』のダニエル・クレイグと同じ名前じゃねーか、すげー」と、そんなことで頭をいっぱいにしていた僕にとって、その機関車に乗れることのラッキー度合いをこの時点では測れていなかった。

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「頼むっ! 前を見て走ってくれ!」
そんな思いとは裏腹に、全力の笑顔とピースサインをくれるクレイグさん


体が放り出されないよう、横のロック付きのドアをしっかりと閉め、出発進行だ! 一番後ろの車両に乗ったからか、本当に一人で乗っているのだなとガラガラの席を眺めながら、VIP感を味わえているのか、単に寂しいのかまだ分からなかった。

走り出すやいなや、クレイグさんは両側になにがあるのかを矢継ぎ早に話してくれた。そして、その説明が止まらないだけでなく、カメラで撮っておいた方がいい! と撮影ポイントを細やかに指示してくれる。

けれど、あまりにも教えてくれるので目とカメラが追いつかない状態だった。

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アボカドの木なんて初めて見た!


すると、駅に着いた。

停車駅があるほど大きいのか、この機関車が周回するコースは! と驚くのも束の間、すぐさま他の場所で遊んでいたのであろう親子らが乗ってきた。

自分の席でゆるりと小休止していると、クレイグさんが「今、停まって時間を取るから、正面からこの機関車の写真を撮ってきたらいい」と勧めてくれた。

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本当に待遇がすごすぎて、申し訳なく思うほどだ。けれど、ありがたいチャンスなので、そそくさと席を立ち、駅のホーム最前まで走っていき、凛々しい機関車の顔をカメラに収める。


さて、後半周の始まり。隣を見ると、いろいろな動植物たちを見ることができる。空は少しずつオレンジ色に変わろうとしている。

グーグルマップで「The Big Pineapple」の文字が気になったというだけで訪れたが、来て良かった。面白い出会いと経験が、そこには広がっていた。

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# 02

オーストラリア一周も後半にさしかかり、首都・キャンベラから北上してシドニー 方面へ向かっていた50日目。

キャンベラを発ち、およそ100キロ北へ進んだゴールバーンという街を目指していた。日本でいう高速道路やバイパス道路のような道であるハイウェーを、車内を爆音の音楽で満たし、快適に走り続けた。

やはりシドニー 方面へ向かう車やトラックが多いのだろう。ゴールバーンへ行くための出口でも渋滞が発生していた。ゆっくりと進んでは止まりを繰り返し、ようやく休憩だー! と下道を少し走ったところで、気づいた。


なんか、いた!

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・・・なんか、いた!

なんだ、これは、ヒツジ!?


すぐさま車をUターンさせ、巨大ヒツジの元へと急いだ。すぐにグーグルマップで調べてみる。

大体、何かあるとグーグルマップを見ているが、ほとんどの場合、そこに載っているから「すごい!」のひと言しか出てこない。リサーチ結果はこちら。

「Big Merino」

ビッグメリノ!

ヒツジには「メリノ種」と呼ばれる羊毛でおなじみの品種がいるのだという。角の形状から「アモン角」をもつヒツジだということまでは分かった。後のウールとなる素材をまとう者たちだから、あのだるんだるんの波打ったデザインは羊毛を表現しているのだろう。

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ゴールバーンへの訪問を歓迎してくれる、マスコット的な存在として、遠くからでも分かるように大きな姿のヒツジ=ビッグメリノとなっているのだろうが、その表情がどう見てもキリリとしすぎていて、やや怖さを感じてしまうほどだ。

なんでこの表情なんだろうか・・・。


本当に見上げるほどの大きさなので、そのビッグ感を出したいと思い、僕が写真に入ることでビッグメリノさんの巨大さを表す作戦を決行することに。

持っている一眼レフのカメラで誰かに撮ってもらおうと、キョロキョロしていると、困った顔をしているように見えたのだろう、地元の子どもたち3人が駆け寄ってきてくれ、写真を撮ってあげるよと言ってくれた。

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本当にでかかった! 何メートルあるんだろ?


子どもたちはカメラで写真を撮ることが楽しくなったのか、僕と一緒に撮ろうという。

一眼レフはそこそこ重たいから、スマホのように片手で持って自撮りなんてできないと話すけれど、そんなことは関係ないと言わんばかりに「ハイ、チーズ!」となる。

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カメラは渡したものの、自分も写りたいと思っているもんだから、片手で持ったカメラはグラグラで、写った画もブレブレでピントが定まっていない。

でもブレブレだからこそ、記憶に強く残っているし、この屈託のない笑顔はみんな全力で楽しんでいる証拠なのではないかなと思ってる。


その後、もう一人の子がツーショットを撮ろうと。

さらに、グッと握手を求められ、なんだかうれしさがこみ上げてきた。ただただ、純粋に楽しいだけの笑みが止まらなくなってしまった。

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「どこかの首脳会談かよっ!」とツッコミを入れてしまいたくなるほど、ビッグメリノさんの前での固い握手は、強烈な思い出となった


趣味である写真やカメラがコミュニケーションツールとなり、ひたすら笑いをもたらしてくれた出会いは、僕にとって貴重な経験となった。

今でもついさっきのことのようにこのときのことが思い出されるし、なんならこの場所に脳内だけですぐにワープできてしまう。めちゃくちゃ笑ったのを覚えているし、子どもたちが楽しんでくれていたのが焼きついている。

ビッグメリノさんが引き寄せてくれた面白き出会いに感謝である。

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名残惜しい時間だったが、最後にビッグメリノさんの偉大な後ろ姿を拝んで帰ろうとすると、正面からは威厳のある立体的なその姿に圧倒されたものだったが、おしりの直角さと言うか、その平べったさに、吹き出してしまった。

ただ、「なんだ、こいつ?」で立ち寄ったスポットが、最高の時間を届けてくれたことだけは確かだ。


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まだまだ、ふとした出会いは終わらない。

旅が終わりを迎えてもそれに終着点はなく、日々生活をしていく限り、その連綿さは複雑に絡み合いながら、僕の歩いていく道をもしかしたら編んでくれているのかもしれない。


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