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ラプンツェル ファイナルステージ

他者と話をする時、私が気をつけていることは
要点をまとめて簡潔に話す、ということ。

わかりやすく、相手に伝わるためにそうするのが正しいと学校でも習った気がする。

だけど。


幼稚園の年長さんの男の子と話していた時の事。

1枚の写真を見ていた。
ラプンツェルのお城の絵。

「すごく高い建物だね」と彼。
『そうだよ、お家なんだよ』と私。

「一番上にお部屋がある」
『そうだよ、女の子が住んでいるんだよ』

ふんふん、と和やかな時間が流れていたはずだったのに。

「あれ?これは何?窓から出ているのは?」と彼が尋ねたのが悲劇の始まりだった。
『あ、それは、髪の毛だよ』と私が答えた瞬間。

みるみるうちに彼の顔は訝しんだものに変わっていった。

「え?髪・・・の毛・・・?」
『そうそう、髪の毛』

「・・・・・」
『・・・・・』

「・・・・・」
『・・・・・』

彼の知り得る限りの知識を総動員して考えている様子だった。

そして、ゆっくりと確かめる様に言った。




「なんで?」





確かに。情報としては、高層マンションのようなものの最上階に住み、そこから髪の毛を垂らしている女の子がいる、ということだけだ。

想像すると狂気しか感じない。


「え?自分で窓を開けてわざわざ髪の毛を垂らしてるの?」
『そうそう』


何それ怖い。


「・・・・・」
『・・・・・』





「・・・何のために?」






ほんとうにその通り。もっともな疑問。

『お母さんに頼まれてるんだよ。そうして、って』


とんだクレイジーなお母さんが誕生してしまった。

わが子に狂気の沙汰を強いる母親。



このままではいけないと思い、言葉を足した。

『お母さんは髪の毛につかまって部屋まで登ってくるんだよ』


恐ろしい体力、恐ろしく強い毛根。


消防署の壁をロープ一本で登るオレンジのつなぎの隊員さんを想像しているのだろう。その何倍もの距離を己の体一つで上ってくるお母さん。
もうそれはSASUKEのファイナルステージ。



「たくさんの髪の毛が抜けるだろうね・・・」
『そうだね、普通の人でも髪の毛洗ったりしたらお風呂場の排水溝に結構たまったりするもんね』


排水溝にたまる長い髪の毛の束。


もうここまで来たら行くところまで行こうと少し意地悪してみた。

『その女の子は好きな人に自分の髪の毛を巻きつけて歌ったりする』


ご機嫌だ。

完全にご機嫌でクレイジーな親子が誕生してしまった。






「妖怪、なんだね」

彼の中で出た結論を反芻しながら、私はどこで道を間違ったのだろうと考えていた。


伝えることって難しい。


可愛いプリンセスを妖怪にして、素敵なラブストーリーを一気にホラーにしてしまった。




思えばなんでもそうなのかもしれない。

同じ事実も見方を変えると全く違う見え方をする。

今自分がつらいと思っている事も、悲しいと思っている事も、別の見方をすればそれはサクセスストーリーの一部なのかもしれない。



あなたの悲しみがこれから来る輝かしい未来の伏線でありますように。




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