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急なストレスに適応しようとする「アロスタシス」とは?【お金をかけずに健康長寿5】

人生100年時代といわれる昨今、「ストレス」に注目することで、お金をかけずに健康長寿&アンチエイジングを実践し、いつまでも元気な生き方を始めてみませんか?

前回の記事では、老化につながるストレスを減らすためには、何でも自分の思い通りに物事が進まないということを前提にして生活してみることが大切だと述べました。

このことは別の言い方をするならば、思い通りになることを予測するのではなく、「予想外」を予測するのです。

本当に予想外の出来事はそもそも予測できないわけですが(想定外)、ある程度予想外の出来事も起こるということを予測するようにすれば、余計なストレスを減らすことが出来ます。

(かく言う私自身、今は以前よりもマシになりましたが、若い頃は特に何でもスムーズに進むことが当たり前だと思っていたふしがあり、日常生活のなかで、いつもとは違う予想外の出来事が遭遇すると、そのことに動揺してしまい、そのたびにストレスホルモンが放出されていたように思います。)

「アロスタシス」(動的適応能)とは?


なお、ここまで述べてきたのは精神的なストレスのことですが、ストレスに直面すると、生体内でも変化が起きています。

気温の変化など外の環境が変わっても、深部体温や血中酸素濃度といった体内の環境を常に一定に保とうとする機能は「ホメオスタスシス(生体恒常性)」と呼ばれています。

いつもの状態を保とうとするこの「ホメオスタシス」はよく知られていますが、もうひとつ「アロスタシス」という反応もあります。

 
この「アロスタシス」(動的適応能)とは、生体の恒常性を維持するために、生体のシステムを変化させることを意味しています。
 
 
つまり、急性のストレス(外部環境の変化)に対し、体を変化させ、調整することで適応しようとするのが「アロスタシス」なのです。
 
もし車にひかれそうになったり大きな地震が起きたりするといった突然の危機に見舞われることでアロスタシスが起きたとしても、危機が去れば生体は安定した状態に戻ります。
 
すなわち、たとえ環境が過酷で一時的に強いストレスが与えられても、このアロスタシスの働きがあることによって、体はいつもの状態を保てるのです。そして一度経験したストレスに対しても強くなることが出来るのです。
 
 
ところが問題となるのは、「アロスタティック負荷」(アロスタティック・ロード)と呼ばれている、ストレスが長引くことで、アロスタシスが正常に働かなくなってしまうことです。
 
このことはストレスホルモンが放出され続けるなど、ストレスが慢性化することで心身に有害な影響が与えられることとも関係してきます(注1)。


アロスタティック負荷によって心身が疲弊し、体調不良が引き起こされてしまう例としては、たとえば、職場や学校などの新しい環境にいつまでも馴染めず、親しい友人ができずに孤立感に悩まされる、突然の自然災害で住居を失い、避難生活を余儀なくされる、両親の不仲やDV(ドメスティック・バイオレンス)に悩まされるなど家庭環境がつらいものであるといったことなどが挙げられます。
 
しかしアロスタティック負荷とは、言うなれば、不安や悩み事などのストレスがいつまでも発散されずに溜まっていくことでもありますので、ストレスを溜め込むことなくうまく発散できれば、心身が疲弊するのを避けることが出来ます。


 
このことに関してたとえば神経科学者のダニエル・レヴィティン氏は、『サクセスフル・エイジング』のなかで、認知行動療法や運動、瞑想、音楽を聴くこと、自然に身を浸すこと、友人と話したり社会的支援を受けたりすることを挙げています。



またレヴィティン氏は、アロスタシスは予測システムであるとし、アロスタシスの効果的な調節に「不確実性の低減」を挙げています。
 
なぜなら、脳の重要な仕事は予測することであるため、もし人生が大きな不確実性に満ちていたら、将来の出来事の結果を予測し、自らのニーズを満たす方法を事前に計画するのに代謝的にコストがかかり、「脳はそのリソースを簡単に使い果たしてしまい、結果的にアロスタティック負荷の有害な増加を招いて」しまうからです(注2)。


つまり、「これからきっと良くないことが起こる」など、実際に起きるかどうか分からない心配事がずっと続いて、いつまでも安心出来ないでいると、これまでのパターンから勝手に危機を予測する脳は、いざという時に備えて生体内の限りある資源を使い果たしてしまうのです。


また、脳の仕事は、考えることではなく「予測すること」だということに関して、ノースイースタン大学心理学部特別教授であるリサ・フェルドマン・バレット博士は、

脳のもっとも重要な仕事は、エネルギーの需要が生じる前に〈予測〉しておくことで、身体をコントロール――アロスタシスを管理——することにある。それによって、必要な動作を効率よく行ない、ひいては生き延びることができるのだ。

としたうえで、
 
「要するに、脳のもっとも重要な仕事は考えることではなく、恐ろしく複雑化した、もとは小さな生物の身体を運用することにある」
 
と述べています。



さらに、
 
「重要なのは、人間の脳は慢性ストレスの数ある要因を判別できないという点を理解しておくこと」
 
であり、
 
「身体予算に対して恒常的に負荷がかかっていると、通常はすぐに回復できるようなたぐいのものを含め、一時的なストレスが次第に蓄積していく」
 
とも述べています。


前回の記事で、ストレスを減らすために大切なことは、現実は自分の予想通りになるとは限らないということを知っておくことだと述べましたが、もし慢性的なストレスに悩まされている場合は、(PTSDなど専門家の支えが必要となるような深刻な心の傷を抱えている場合を除き)あえて不測の事態が起きやすい環境に長時間いないようにし、自分のメンタルが安定するような落ち着ける場所に身を置き、「不確実性」を低減することも必要なのです。

つまり、いつもと同じホッとする場所にいるようにすることも、ストレスを解消し、心と身体を回復させるために大切なのだということです。

……次回へと続きます。


注釈

注1 『サクセスフル・エイジング 老いない人生の作り方』 ダニエル・J・レヴィティン 著 俵晶子 訳 アルク

 状況がストレスであると認識されると(それが新手の、予測できない、制御できない、あるいは苦痛なものであるため)、カテコールアミンとグルココルチコイドという2つの主要なストレスホルモンが分泌されます。これらのホルモンは、ストレスに反応する最初のホルモン系です。困難に直面した際にこれらのホルモンが短期的に分泌されると、適応的な目的を果たし、闘争・逃走反応(アロスタシス)につながります。しかし、生存に不可欠なその同じストレスホルモンが長期間にわたって分泌されると、身体的、精神的健康の両方に有害な影響を及ぼす可能性があります(「アロスタティック負荷」と呼ばれます)。アロスタティック負荷は、こういった主要なストレスホルモンが長期間にわたって増加すると、インスリン、グルコース、脂質、神経伝達物質など、体内や脳内の他の主要な生物学的経路の調節異常につながるために起こります。これは次いで、免疫系、消化器系、生殖系、心臓の健康、精神的健康など、他のさまざまな働きの調節障害を引き起こします。

167-168頁

 アロスタティック負荷は時間の経過に伴うストレスの累積的影響であり、人生の出来事に対応するストレスのさまざまなバイオマーカ―(血糖値、インスリン、免疫マーカー、ストレスマーカーなど)の変化の指標になります。アロスタティック負荷は、C反応性タンパク質、インスリン、血圧などをはじめとする特定の「ストレスバイオマーカー」の値を見れば計算できます。社会的支援はアロスタティック負荷の強力な予測因子であり、社会的支援が少ない人が最も負荷を示します。これも因果関係の方向が不明なケースの一つです。友人が少ない、もしくはいないとストレスが増加するのでしょうか? おそらくそうでしょう。そもそもストレスを感じていると友達が離れていくのでしょうか? おそらくそうでしょう。慰めてくれる友人がいないと、ストレスが発散されずに長引いてしまうのでしょうか? これも、おそらくそうでしょう。

168頁

 

注2 前掲書

 効果的な調節の一つは、不確実性の低減です。私たちの脳は、将来の出来事の結果を予測して、自らのニーズを予測し、そのニーズを満たす方法を事前に計画しようとします。もし人生が大きな不確実性に満ちていたら、これを行うには代謝的にコストがかかり、脳はそのリソースを簡単に使い果たして、結果的にアロスタティック負荷の有害な増加を招いてしまいます。

 アロスタシスは予測システムであるため、初期の生活のストレス因子や極端な心的外傷から影響を受けたり、誤設定されたりすることがあります。安定した胎児期および幼児期の環境は、良好に機能するアロスタシスシステムにつながります。しかし、幼少期の不利な経験は、通常なら日々の正常な浮き沈みと見なされていいものに過剰反応する、もしくは停止するシステムをもたらしかねず、過敏症、回復力低下、時には激しい気分変動を生じさせます。すなわち、正常なアロスタティック調節に到達することのない生涯です。悪条件の中で育った人は、脅迫的でストレスの多い情報を含む長期記憶を持ちます。中立的な出来事に対してさえも、何か悪いことが起こるかもしれないというのが彼らの規定値の予測であり、これが彼らのストレス反応を作動させ、数多くの無害な状況に先立ってコルチゾールとアドレナリンが放出されてしまいます。システムレベルでは、彼らはHPA(視床下部‐脳下垂体‐副腎)軸――体のストレス反応システム――を調節していないと言ってもいいでしょう。

169-170頁

  しかし、ストレスの多い幼少期を過ごした誰もが精神疾患を発症するわけではありませんし、高いアロスタティック負荷を被るわけでもありません。ストレスに満ちた経験でも、前期の要因の相互作用次第で、非常に異なる結果をもたらす可能性があります。回復力、根性、粘り強さ、集中力を発達させる人もいれば、精神崩壊してしまう人もいます。一部の人々にポジティブな人生をもたらしている、レモンをレモネードに変えるような黄金の組み合わせはまだ知られておらず、活発な研究テーマとなっています。確かなのは、思慮深い子育てや教育が、幼少期の逆境によって引き起こされる不利益を軽減して、人々をよりポジティブな道へと導き、全般的により良い人生の成果を与えてくれるということです。

171頁


注3 『バレット博士の脳科学教室 7½章』 リサ・フェルドマン・バレット 著 高橋洋 訳 紀伊国屋書店

脳のもっとも重要な仕事は、エネルギーの需要が生じる前に〈予測〉しておくことで、身体をコントロール――アロスタシスを管理——することにある。それによって、必要な動作を効率よく行ない、ひいては生き延びることができるのだ。あなたの脳は、食物、住居、愛情、身体の保護などの形態で十分な恩恵が得られることを期待しながら、つねにエネルギーを投資している。だからこそあなたは、自然が課すもっとも重要な役割、そう、次世代に自己の遺伝子を受け渡すという仕事を果たせるのである。

21頁

重要なのは、人間の脳は慢性ストレスの数ある要因を判別できないという点を理解しておくことだ。病気、貧困、ホルモン異常、睡眠不足、運動不足などの生活上の問題のせいで身体予算がすでに枯渇している場合、脳はあらゆる種類のストレスの影響を受けやすくなる。それには自分や身近な人々を脅したり、虐げたり、苦しめたりすることを意図した言葉による身体的な影響も含まれる。身体予算に対して恒常的に負荷がかかっていると、通常はすぐに回復できるようなたぐいのものを含め、一時的なストレスが次第に蓄積していく。

119頁

 

 参考記事


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