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大事な彼女

これは、いまだに私の中で
消化できてない出来事で、
かなり重い内容である。

それは、高校一年生の頃のお話。

ひとつ上の同級生の女がいた。
見た目は、
いわゆる美人で体のラインが
強調された露出の高い服装を、
いつも着用していた。

その女は、
入学してから次から次へと、
同級生を食い物にしていき、
先輩達にまで手を伸ばす。

私は、入学して程なくして、
彼女が出来たので、
あの女が何を言おうが、
色仕掛けしろうが、
無視をしていた。

むしろ気持ち悪くて、
仕方なかった。

あの女は、それが面白くないのだ。
プライドが高く、
必ず男を落として見せる。
鼻につく女だった。

何度か付きまとわれて、
仕方なしに、

オレ大事な彼女いるから、
近寄ってくんな。

と女をあしらった。

女は、
その彼女ってあの子でしょ?
あんな乳臭い女のどこがいいの?
ダサいし、可愛くないし、
なにより、私の方が勝ってるじゃない。

勝ち負けの問題ではない。
私はその女が嫌いなのである。

オレは、あいつの全部が好きなんだ。
お前の言う乳臭いだの、ダサいだの、
関係ない。それに訂正するが、
彼女は、とても笑顔の可愛い女性だ。

女は、フンッと大袈裟に怒り、
近くにいる同級生の男達に、
私の悪口を言っては、
かまってかまってとまとわりついてた。

正直、吐き気が出てくる。

それから、女は絡んで来なくなった。

だが、女の執念を知る。

いつも通り、
学校帰りに彼女を家まで送ろうと、
彼女を探したがいない。

今まで一緒に教室で、
授業を受けていたはずなのに。

どこにもいない…。

あれ?アイツどこ行ったんだ?
何かあれば一言私に声をかけるはず。

しばらく教室や廊下を見渡したり、
職員室に行ってみたりしたがいない。

先に帰ったのか?

不思議な感覚に襲われて、
彼女の家に行ってみる。

彼女の母親が出てきて、
まだ帰ってきてないと話す。

しばらく彼女の家に、
上がらせてもらい帰りを待った。

だけど、待てども彼女は帰ってこない。

時刻もすでに日をまたごうとしていた。

彼女の母親が、
今日の所は帰りなさい。
もう少し待って帰ってこなかったら、
こっちで捜索願い出したり、
探しとくから。

私は、しぶしぶ帰った。

次の日
彼女は学校にも来なかった。

休み時間に、公衆電話に走り、
彼女の家に電話する。

すると彼女の母親が、
あの後、近くの交番に行き、
捜索願いを出したけど、
まだ帰って来てないの…。
あの子どこいったのかしら…。
ねぇ、お願い何か知らない?

と彼女の母親は心配そうな声で、
私に彼女の事を聞いてきた。

すみません…僕にもわからないんです。
学校にも来てなくて、僕も心配で、
電話したんです。

そう言うと、
彼女の母親は、
そう…どうしましょ…。
あの子に何かあったら…。
だから夜間学校に行くの反対したのに…。
と涙声になっていた。

私は、
とりあえず、学校終わったら、
僕も彼女を探してみます。
大丈夫です。きっと見つかります。

となんの説得力のない言葉を、
彼女の母親に言って電話を切る。

それからの授業は、
何にも耳に入らない。
ただ、彼女の無事を祈っていた。

学校が終わり、急いでいると、
あの嫌いな女が、
数枚のポラロイドカメラの写真を
私に見せてきた。

そこには、
目を疑う光景が写っていた。

彼女が襲われている写真だ。

私は一気に血の気がひき、
その女に詰め寄る。

おい!これは何なんだよ!
ここはどこだ!お前は何を知ってるんだ!
お前、彼女に何をしたんだ!

女は、
私をみくびった罰だよー。
私の交友関係はひろいんだよねー。
私が体を売れば、何でもしてくれる。
強姦だろが、レイプだろうが、
喜んでやってくれるんだなー。
あんたの彼女もこれで乳臭くは、
なくなったんじゃないの?

私はプツリと何かが弾けた。

大声で何かを叫び、
その女を殴っていた。

すぐに職員室から先生達が止めに入った。

私は女が持っていた写真を隠す。

女は、高らかに笑って、
あー面白い。お前ら二人とも、
地獄に落ちればいいんだよ!

女は、先生に連れてかれた。

私は、他の先生に隠している物を、
見せなさいと言われたが頑なに拒否し、
先生にも噛みついていた。

停学処分をくらった。

彼女の母親から電話が来た。
彼女は警察に保護されたと。
山奥で震えていたらしい。

私は、女の事や停学中だと、
母親には言えなかった。

連絡ありがとうございます。
見つかって良かった…。
彼女は大丈夫ですか?

そう言うと母親は、
うん…それが覚えてないって言うの。
なぜ山奥にいたのか、わからないって。

発見された時、
ちょっと…服が乱れててね…。
大きな怪我はないんだけど…
今も部屋に閉じこもったままなの。

彼女の母親は、
何かを察しているのだろう。
でも、どうする事も出来ないのだろう。

私は、
そうでしたか…
僕がそちらに伺っても大丈夫ですか?

と聞くと母親は、
ごめんなさいね…。
あの子私達でさえ、会いたくないって。
塞ぎ込んじゃって…。
多分あなたが来ても同じだと思うの。
あの子をそっとさせて欲しいの。
本当にごめんなさい。

と母親は今にも泣きそうな声で、
私にそう伝えた。

わかりました…。
こんな時に、
お役に立てず申し訳ありません…。
しかも僕の事まで、
気にかけてくれ
電話をいただき、
ありがとうございます。
僕の事は、ほっといていいので、
彼女の事をどうか、
見守ってあげて下さい…。

彼女の母親は一言、
ありがとうございます。
と言って電話は切れた…。

停学があけて、
久しぶりに学校に行くと、
あの女と彼女は学校をやめていた。

あの女は、
性病を持っていたらしい。
それが学校の男達に伝染していたのだ。
かなりの数がいたそうで、
学校に保護者から多数の電話で、
発覚しあの女は退学処分された。

あの女は、
魔性の女ではない。
悪魔の女である。

数多くの犠牲者を出した悪魔だ。

久しぶりに彼女の家に電話をする。

すると、電話が繋がらない。
おかけになった電話番は
現在使われておりません。
とアナウンスされている。

ウソだろ…どう言う事だ?
急いで彼女の家に行くと、
売却済みの家が、そこにあった。

…意味わかんねぇ!
…なんなんだよこれは!
…どうしてだよ!

その家の前で叫びながら、
大声で泣いた。

声も枯れ、咳き込んでも、
なお涙が止まらなかった。

彼女が何をした?
どうしてこんな事になるんだよ。
オレは疫病神か何かか?

ごめんなさい…。
ごめんなさい…。
ごめんなさい…。

何度も、
あるじをなくした家に、
泣きながら謝っていた。

その後、放心状態で
動けずそのままいた。

彼女の笑顔が大好きだった。
彼女の優しい仕草が好きだった。
こんなオレを好きだと言ってくれ、
いつも側にいてくれた。

彼女の両親もとてもいい人だった。

初めて挨拶した時には、
二人とも優しい笑顔でオレを、
受け入れてくれた。

何度もご飯をご馳走になった。

初めて、温かい家族だんらんを
味わって感動し泣いたっけな。

家を眺めながら、
あの時の温かみを思い出す。

一旦家に帰って、
すぐ空き地に行った。

あの忌まわしい、
ポラロイド写真に火をつける。

どこから涙は出てくるんだろう。
ずっと泣いてるのに、
まだ涙が出てくる。

写真の彼女が歪んで燃える。

初めて人を殺したいと思った。

この気持ちをどこにぶつければ、
いいのだろうか…。

この感情を抑える方法がわからない。

あの悪魔の女に取り憑かれたか?

写真は灰となり消えていった。

その灰を触ろうとすると、
風と共に舞い散った。

夜ふけにたたずんで、
遠くを見つめ目を細める。

さっきの感情は灰と一緒に、
消え去り、むなしさだけが残った。

高校に入って半年もしない、
そんなはじまりの出来事であった。

それから、がむしゃらに、
働いて、勉強してた。
彼女を忘れたいのに、忘れられない。



あの悪魔の女と、
彼女を襲った悪魔の手下どもは、

勇気ある女性の訴えで、
警察に捕まったと聞いた。

アイツら薬物にも手を出していた。

取調べで、彼女の事が、
掘り起こされるのではないか?
そしたら、また彼女が苦しんでしまう…。

アイツらは、
同じ様にポラロイド写真で被害者に、
金をゆすっていたと言う。

彼女のポラロイド写真がまだあったら、
どうしよう…もしかして彼女も同じ様に、
金を要求されていたかもしれない。

あの女の事だ…
私が燃やした写真以外に持っている。

だとしたら、あの家を引っ越したのは、
あの女から逃げる為だったのか?

憶測でしかない。
確かめる術はないのだ。

腹が立って、ムカついて、
何も知らずにいた自分と、
オレと関わらなかったら、
こんな事にはならなかったのに…と
まだあの時から時間は止まったままで、
私の中でくすぶっていた。

このままじゃ、前に進めない。
あの女達が捕まった所で何も変わらない。

それを救ってくれたのは、
仕事仲間や学校の仲間達である。
事情はなんにも知らない人達に励まされ、
なんとか立ち直れたのだ。

今はスマートフォンが主流となり、
気軽に写真や動画も撮れるし、
SNSに流出すれば、
もう数え切れない人達の目に、
晒されてしまう時代だ。

あの時代でよかったのかもしれない。

今も絶対に、
もっと巧妙な手口で、
犯行が行なわれてるかもしれない。

被害者とその家族は、
もっと苦しむだろう。
命を絶つ人も
いるに違いない。

便利な世の中になったが、
そのぶん悪のたまり場までも、
作り上げてしまう社会。

それは、昔と違って法を、
くぐり抜け見えない世界で、
繰り広げられているに違いない。

もう二度とあんな思いはしたくない。
一人でも犠牲者をなくしてほしい。

そう…強く願ってます。


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