めずらしく早起きした朝の、とてもとても熟れたバナナのチョコバナナトースト【エッセイ】
めずらしく早起きした朝の、お腹の空いてくる感じが好きだ。いつもの朝とはちがって、なんというか……決定的に「お腹、空いた!」となるのである。
さて、とフクロウのようにぐるりと視線を巡らせて、みつけたのはバナナだった。超、完熟、というか、もう、ダメかも?しれないくらい熟れているバナナだった。外側がかなり黒々としていて、持ってみると、指がそのおもみで食い込むほどにやーらかくなっている。これは、どうなんだろう……。そう思いながら食パンの袋を手に、そろそろとその場を離れた。
こうして距離をとってみても分かるほどに、あのバナナは熟れている。息を吸えばもう鼻がバナナなのである。こうも存在を主張されると、かえって近寄りがたくなってしまうのは、わたしの生来の天邪鬼な気性のせいなのだろうか。というか、ふつうにお腹こわしたくない。お腹が痛くなった時の、あの世界全体に謝りたくなる謎の状態に陥りたくないのである。
それからしばらくの間、わたしとバナナは見つめあっていた。そんなわたしとバナナの様子を、食パンも、息をころして耳をそばだてていた。
……いや、食べよう。何かやりようはあるはずだ。熟れているのを分かっててわたしはあのバナナを買ったのだ。しかしこの数日でこうも熟成が進んでしまうものなのだろうか。なにか異様な磁場が我が家に働いているとしか思えない。しかしお腹が空いた。とにかく食べたい。
うーん、と二本にうまく分かれなかったときのチューペットのように身を捻りながら見た視線のさきに、はたしてそれはあった。
ヌテラ。
これだ、これしかない!
(ヌテラというのは、ヘーゼルナッツの香りこうばしい、おいしいチョコレートクリームのようなものです。)
わたしはバナナを剥きはじめた。皮がへなって、剥いてるそばからぽとりぽとりと落ちていく。しかし、剥いてみると意外にも無事なところがそこかしこにあった。しかし「これは、さすがに如何なものかしら」な部分についてはスプーンで慎重にこそいでいく。力の加減を間違えるともっきり折れてしまいそうなほどに、か弱い。
ようし。ちょっともう、透き通るくらいに熟れてるところもあるが、これならいけそうだ。てい、ていてい。食パンにバナナを押しつけて、ペースト状にしていく。ちょっと、たのしい。うん、食べ応えがありそうだ。うんと火を通そう。トースターに入れて、さあ、焼くぞ。
ジー……
そうだ、なにか飲み物をいれよう。紅茶に、レーズンをいれたのにしようか。スプーンですくって食べるレーズンが、意外なほどジューシーで、紅茶の渋みとの相性もぴったりで、とてもおいしいのだ。これをお供にしたら心強いだろう。よし、いれられた。が、まだ焼けない。すごい水分だ。大丈夫なんだろうか。ぬるいのも、おいしくないのもイヤだ。あっ、ジュージューいってきた。頃合いだ。それっ、取り出せ。
ほかほかのバナナペーストに、ヌテラをたっぷり塗っていく。ゆっくりと溶けて、ふかふかのチョコバナナトーストの完成である。……いただきます。
さく。ふあっ。あっ、うま。さく。もぐもぐ、あっつ。ありゃ、レーズン紅茶とは相性いまいちかも。いや、でもうんまいな。はく、さく、もぐもぐ。
……はぁ。
あっという間に食べてしまった。不思議なことに、食べ終えたあとに飲んだレーズン紅茶は、口に残った甘みをすっきりと締めてくれて、とても良かった。合間に挟んだときには良いと感じなかったのに、本当にふしぎだった。
あんなに食べるのを悩んだのが馬鹿馬鹿しいくらいにおいしかったので、今はもうきよきよしく朝日なんか浴びてポカポカしている。過ぎてみれば、慌ただしいんだか呑気なんだか、自分でもよく分からない。
まぁ、ぱっと見の印象で決めつけないで、よく考えて、焦らずやっていこう。ちょっとずつ下らないことも織り交ぜながら栄養にして、蓄えて。
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読んでいただき、ありがとうございました。