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大辻先生

かかりたくないと思う医者がいる。
問診だけしたら、パソコンを検索して薬を処方する医者。パソコンばかり見ていて、患者の方を見ない医者。
こんな医者がいたら絶対にかかりたくない。

私のかかりつけ医は、これとはまったく違う。先生の机にはパソコンがない。カルテは昔ながらの紙である。行くと患者の話を丁寧に聞いて、必ず身体を診てくれる。

「二三日前から、明け方咳が出るようになりました。喉がくすぐったい感じです」と伝えると
「マスク外して、喉を見せて」と言って喉と鼻の中を診てくれる。
さらに聴診器を手に取り「シャツをあげて」と言うので、私は、あわててマスクをつけて、シャツをまくりあげる。先生は、聴診器を私の胸に当てながら「深呼吸してみて」と言う。その声に私はゆっくりと深呼吸をする。先生は私の呼吸音を聴く。喉がひどいときは、「あっちを向いて咳をしてみて」と言うこともある。私は、わざと咳をゴホンゴホンとする。そして「これでは、夜眠れないでしょう」「もう少しで良くなりますよ」「風邪が治った跡が少し残っていますね」等と状態を言ってくれる。
「念の為にコロナ検査キットで検査したら陰性でした」と言うとハハと笑っていた。またムダなことをしたようだ。

嘔吐したときには、コロナ禍の真っ最中にもかかわらず、ベッドに横たわる私の腹を触り、少し揉んだら「もう治ってる」と診断してくれた。コロナ禍で、患者を診てくれているという思いがますます強くなった。

咳喘息の持病がある私に、唐辛子のカプサンシンやハッカ、ミントは喉に悪いとの生活指導もしてくれる。医師の師は師匠の師だ。人に寄り添い、人を導いてくれるのが師である。だから、大辻先生は私の師なのだ、と思う。だから、日本橋まで電車に乗って通っている。


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